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自身のルーツを追い求め欧州へ。農旅で味わったワインと農業の奥深さ

今回は農業しながら旅する「農旅」を経験した旅人へインタビューです。欧州で農旅をした岩城光洋さん(以後、岩城さん)です。

岩城さんとは前職の同期。お互い会社員時代は週末にサイクリングやご飯に行ったりと遊び仲間でした。

しまなみ海道サイクリング中に訪れた大三島にて

2023年に退職後、欧州に10ヵ月間ワーキングホリデー(以降、ワーホリ)に行かれています。会社員時代にワインが好きになり、ワインの産地に行くと聞かされていた旅の目的。しかし動機はワインの産地巡りだけではなかったようです。
なかなかできることではない長期間の欧州旅でどのような経験をされたのか探ってきました。

岩城 光洋(いわき みつひろ)
1995年生まれ。大阪府出身、在住。高校までは大阪で過ごし、大学・大学院時代は北海道で農業の勉学に励む。卒業後は愛媛県で会社員として勤務。2023年初旬に退職し、欧州でのワーキングホリデーに出発。約10ヵ月間の欧州旅を経て2023年末に帰国。趣味はバドミントン、サイクリング。


価値観の思慮とワーホリ再開が欧州への農旅のきっかけに


--退職後すぐに欧州に向けて出発していましたが、欧州にワーホリに行くきっかけは何だったのでしょうか?

幼少期にベルギーに5年住んでいたんです。親の仕事の都合で2歳半から小学校2年生までの間。物心ついたときにはベルギーにいたため、自分のルーツは欧州にあると思っており、いつかまた行ってみたいと思っていました。

また、社会人になって仕事する中で「なぜ働くのか」「人生どういう風にしていきたいか」と思い、自分の人生の価値観をつくったものってなんだろうと色々考えたんですよ。そこで自分のルーツを振り返ってみると、長い期間いた欧州は実際行くか行かないかは別として、重要なファクターだと感じていました。

幼少期を過ごしたベルギーでの写真

--ベルギーに住んでいたんですね。初耳でした。欧州がルーツだと分かったのですが、なぜ今回のタイミングで欧州に行かれたのですか?

コロナ渦ではワーキングホリデーのビザが発給停止になっていました。コロナが収まってきたタイミングで、ワーホリビザの発給が再開されるというニュースをたまたま見たんですよ。オーストラリアでの高時給な仕事のニュースの最後に欧州でワーホリが再開すると流れてきて。

ワーキングホリデーには興味はなかったものの、そのニュースを見て「ええやん!」と思って。ベルギーを探してみたけれど、ベルギーのワーホリはなく、隣国のフランスは再開されるとなっていました。それでフランスに行ってみようとぼんやり思い、かなり適当に行動するタイプだったのでとりあえず申請してみました。

--申請したんですか!思い切りがいいですね。

ビザ再開を聞いた翌日には申請してました。そこら辺の動きの速さは結構あると思いますね。それが2022年の11月頃のこと。

ただ書類を全部英語で書く必要があったりと、コロナ前とビザ申請の方法が変わっていました。今までのビザ申請の情報だけでは何ともならんことが多く、大使館に行って申請しました。ネットの情報を頼るよりも大使館で直接手続きしたほうが早くて確実なので。

--すごい行動力。それで無事申請できたのですね。

そうですね。その後会社を退職し、2023年にフランスへのワーホリに出発しました。

欧州で農旅をする術とは


フランスのワイン畑の光景

--ワーホリではワインの勉強をしたいと聞いていましたが、どのようなきっかけでワインに興味をもったのですか?

あまり深いことは言えないんですよね。社会人になって高いお酒が飲めるようになり、ちょっとワイン飲んでみようかと思ったのが最初。そのときに「ワイン美味しいな」と思い、いろんなお店でワインを飲むようになりました。

ワイン目的でワーホリに行ったというよりはルーツ探りの要素が強かったです。大学は農学部でしたし、農業にバックグラウンドがあったのでワイン農家さんを巡ってみようとなりました。

--なるほど。フランスではどのようにして農家さんを巡ったのですか?

はじめはWWOOFを使って農家さんのところへ行きました。

WWOOF(ウーフ)
「有機農家であるホストと、日本全国・世界各国のウーファーをつないでいます。」(ホームページより)
ウーファーは年会費を払い、ホストのもとで働くことで住居と食事を提供してもらえるサービス。各国ごとのWWOOFがある。
ホームページ WWOOFジャパン - ホーム

その後はWWOOFで知り合った友達が紹介してくれた農家さんにも行きました。イタリアにも行きましたね。結局のところ、ワイン農家さんは全体の期間の4分の1ほどしか行ってなくて、イタリアのアプリコット農家やマンション管理をしている人のところでも働きました。WWOOFでのつながりが多かったですね。

イタリアでのアプリコット収穫

フランスで目の当たりにした本場のワイナリーの荘厳さ


--ワイン農家さんを巡りたいとのことでしたが、具体的にはどのようなことをしてみたかったのでしょうか?

せっかくフランスに行くのだから、フランスの本場のワイナリーに何件か行き、つくり手の思いを聞こうと思いました。

どのような思いで、なぜこの土地でやっているのか、そもそもなぜぶどうを栽培してワインをつくろうと思ったのか。

そんな話を聞きたかったんです。ワイン好きからしたら最高の機会ですよね。

フランスで味わったワインの数々

--本場のワイナリーで話を聞いてみていかがでしたか?

ぶどうの品種、土地、作り方。この3つはワインの出来を左右するとよく言われています。それを考えながら飲む上で、 生産者の話を聞く、生産場所に行く。さらに実際にぶどうを収穫する、 品種をよく見る。そういうことをしたらもうそのワインが好きになるに決まってるんですよ。当たり前に。

ワイナリーの遊歩道内のワイン用ぶどう

実際の仕事姿を見たらかっこいいなと思うし、自分もワイナリーやってみたいなと思うわけです。

ただ、日本に帰ってきて私が行動したことは何かというと、特にワイナリーになろうとも、ワイナリーに勤めようともならなかった。 その前段階のぶどう農家になろうというステップを踏むこともできなかったですね。やってもいいんじゃないかと言われたりもしたけれど、自分ではなかなか踏み出せなくなってしまって。

--やってもいいんじゃないって言ってくれたのはご両親ですか?

そうですね。友人にも言われました。

バイトでもいいし、大阪にもワイン関係で働く場所はあるし。何もしないなら働いてみてもいいんじゃないかと言われたけれど、 なかなかできんかった。理由は正直言語化するのは難しいけれど、 一言で言うと覚悟がなかったって感じですかね。気圧されてしまいました。

フランスは一代でワイナリーを築いている人が多いんです。 売れるか分からないのに、土地を借りて、ぶどうを植え、何十年というローンを組んで。そういうところを見た時に、自分にできるかと言われると全く自信がなく、行動には移せなかったです。

農旅後に味わった挫折感。前向きに捉えて次に進んでいく


フランスのぶどう畑にて

--葛藤があったのですね。欧州の本場を見て、自分には無理と思ってしまったのでしょうか?

そういう訳ではないですね。ヨーロッパにいるときは「すごい」で終わったんですよ。しかし 自分でやることを考えたときに、できるか分からんし、本当にやりたいことかも分からん。やってみてもいいと思うけど、体が動かん。そういう葛藤がある状況でした。ワインが嫌いになりかけましたね。

--欧州にいるときからそのような気持ちになったのですか?

いえ、日本に帰ってきてからです。
今はワイン好きですよ。欧州から帰ってきた直後は、少し距離を置きたいという気持ちがありました。頑張りすぎたというのもあったと思います。

--お話を聞いているだけでも頑張りは伝わってきます。具体的に何を頑張ったというのはありますか?

一番頑張ろうと思ったのは欧州での経験を次に活かすことです。
必ずしも活かす必要はないのに、無理に欧州の経験を意味づけようとして苦しくなっていました。

今までは高校で勉強して、大学入って、大学行った後に就職活動してという次の成功ステップがあったけれど、今はそれがない状態。今回の経験を踏まえて次どう成長させようかっていうことができなかったから、次のステップを踏めないという挫折を味わいました。こういう経験は初めてだったし、必要な挫折感だったかなと思います。

--挫折感ですか。旅をするとそういった経験もあるんですね。

挫折感って表現しましたけど、もしかしたら違うかもしれない。けれど人生の中で1回折れてみてよかったなと思えています。

農業に関しては今後も関わっていきたいです。
一度挫折しているので、修行はするつもりはありませんが、身の回りで農業に取り組む人がいればお手伝いなどの形で携われればと思っています。

取材後記


共に旅で訪れた徳島県祖谷渓での1枚

岩城さんが欧州でどのような経験をしたのかはまったく知らなかったので、今回のお話は驚くことばかりでした。旅は楽しいものですが、大変さも兼ね備えており、旅の奥深さを知れたインタビューでした。

挫折感を味わいながらも、それを必要な経験と捉えるのは簡単ではなかったと思います。農旅の先輩として参考になることばかりだったので、岩城さんの経験を糧にさまざまな農家さんを訪れていきたいです。


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