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芸術家が作る「フラッグシップ」の世界へようこそ マツダ CX-80 XDハイブリッド 試乗レビュー
今回は、マツダのディーラーにて、72時間試乗モニターキャンペーンを利用しCX80をお借りし、1000km弱、さまざまな道で試してきた。サムネの通りの大雪+免許取得以来最大サイズの車ということで、天気予報を見た時は借りたのを後悔するレベルで緊張したが、最終的には返したくなくなる程いい車だった。今回はこの車の実力について詳しく解説していこうと思う。
なおたくさんのグレードがあり、なかなかカオスなCX80だが、今回は3.3Lの直列6気筒ディーゼル+モーターのパワトレで、つまりは四輪駆動となる。軽くグレードについては勉強したが、2輪駆動を選ぼうと思うと、このディーゼルハイブリッドやプラグインハイブリッドは選べず、素のディーゼル一択となってしまう。なお素のXDにおいてはLパッケージでグレージュ内装が選べるのみで、あとは黒内装だけと、かなり寂しいので、せっかくのSUVなんだし四輪駆動を選びましょう。
今回のグレードはXDハイブリッドのexclusive sportsである。
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そういえば今回の試乗では予想外に雪が降り、試乗期間の大半は雪の中であったが、リアフォグがかなり役に立った。個人的には街中で意味もなく使われるイメージがかなり強いが、それ以上に濃霧の中や吹雪の中で自車を発見してもらうためにかなり役に立つので、ヘッドライトのオートレベリング以上に義務化し、きちんとした使用法を世間に理解してもらう方がいいと感じた。
黒内装でもかなり魅力的
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CX80というか、マツダのラージ群と言われる車たちにおいては、特にプレミアムスポーツやモダンなどの、茶色や白の内装がかなり話題を呼んでいる。確かに網目の部分やゴージャスな内装は目を惹きやすい。今回はそれらのグレードではないということで、少し気落ちしていた部分もあったが、黒内装でも細かく見ていくとかなり魅力を感じる。全体的に引き締まっており、走りと合わせて硬派な印象を受ける。その中で、さりげなく明るい色のステッチが入り、オシャレさも担保されているという、素晴らしい内装だ。
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エアコンはきっちり外に出ており、そんなにタッチパネル式が使いづらいとも思わないが、やはり物理ボタンの方が安心感はある。エアコンパネルの表記も見やすく、今何度なのか、どういうモードになっているのかが一発でわかる。しかしボタン同士が小さく、細かい設定は少ししづらい。やはりエアコンは基本的にはオート設定が良さそうだ。また、シートヒーターとベンチレーションのボタンはどっちがどっちかわかりづらく、何度か試乗中にも間違えた。また、細かい話にはなるが、温度調整はどちらも押し込む方で、温度を下げるときも、あげる時もボタンは押し込む。個人的にはボタンを一つにして、温度を下げるときは下、あげるときは上の方が直感的でわかりやすく、よりマツダらしいと感じる。また車幅の広い車なので仕方ないのだが、SYNCボタンは運転席からだと若干遠い。
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センターコンソールもなかなか面白い柄だ。画像では少し反射してしまっているが、実際触るとサラサラしており、指紋がついても気にならないようになっている。マツダ3やCX30では、ここがピアノブラックで、指紋や拭き跡がかなりついていたので、質感はキープしつつも指紋も気にならないという面白い素材となっている。
カップホルダーには蓋がついており、ここも高級感の演出に一役買っている。蓋の閉まり方や押し込んだときも感触もよく、所有感は素晴らしい。しかし、これだけ幅広にも関わらず、カップホルダーは縦置きタイプとなってしまった。より幅の狭いマツダ3では横置きタイプなので、ここは残念。
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シフトノブに関しては、初見ではわかりづらいが慣れるとサッと操作できる。Pから奥にあるボタンを押して左に操作するとR、そのまま下に操作するとDに入る。PからNにするときは若干コツがいるが、そんなシチュエーションはほぼないだろう。DからRにするときはボタンを押さないと入らず、Nになるので、ストレート式シフトと同じく運転手が意図しないとRに入ることはまずない。しかし、マニュアル固定モードが消えてしまったのは個人的には寂しい。パドルシフトはあるのだが、しばらくするとDに戻ってしまうので、高回転で引っ張ることができず、あともうちょっとマニュアルモードを維持したいのに、Dに戻って強制的にシフトアップされてしまうようなことが試乗中にも何度があった。Dからちょっと横にすればマニュアルモードで固定するようなセッティングにしてくれれば、従来のストレート式と遜色ない、むしろ従来のストレート式より印象は良くなるかと思う。
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ステアリングはマツダ3などに採用されていたものから若干変更が加わり、安定感のあるデザインになった。SUVであればこちらの方がゴツくてかっこいいと感じる。メッキの使い方のセンスがかなりよく、所有感はかなり強い。クルコンのボタンも使いやすく、直感的にわかりやすい。オーディオは左に集約されており、とっ散らかった印象もなく、高級車あるあるの、多機能を使いこなすことができない感も少ない。
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メーターはかなり高解像度で、デジタルメーターでも解像度に不満はない。最近はセレナといい、フル液晶メーターでも解像度に不満が出ることは無くなった。字体もオシャレで、マツダの性癖…ではなく美学がよく現れていると感じる。しかし、情報量はかなり少なく、デジタルメーターを生かせてない感じ。ふたつの画面モードがあるのだが、上の画像のモードだと水温と燃料計がある部分しか変更できない。しかも変更できるのは平均燃費か、i-ACTIVSENSE(運転支援関連)のステータスが見れるのみで、これならアナログメーターで十分だろうと感じてしまう。
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CX80におけるデジタルメーターの最大のメリットはこういう拡張性にあるようで、逆にあとはデジタルメーターである意味がよくわからない。どちらの画面でもタコメーターや水温がガッツリ表示されているのがマツダらしいというか硬派な車作りしてるなと感じる。しかし地図が表示できたり、さまざまな情報が表示できたりしてるようにしている他車を見ていると見劣りするのは事実である。
真ん中にCX80とレーンが映っているが、これ、左側に車線が出てくると左側にレーンが表示され、車が走っていればその車が表示される。なお自車の前の車はマツダ3がモチーフなようで眼福。右側も同様で、運転支援機能としては何を認識しているかわかりやすいのでかなり良いと感じた。カーブにも連動しており、ハンドルが曲がっている際はメーター内のレーンもカーブしている。見ているとなかなか面白い。
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ドアパネルにもマツダの芸術がよく出ている。ほどよく使われたメッキの加飾や、センターコンソールと同じような柄が入り、統一された印象を感じる。ステッチの色もワンポイントのアクセントとなっており、実際に見ると言葉にならない美しさを感じる。ホームページだと茶色や白と比べて見劣りしてしまうのが本当に残念でならない。外装色のプラチナクォーツともよくあっており、本当に素晴らしい。
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試乗車にはBOSEの12スピーカーが入っていたが、正直そこまで音質はよろしくない。悪くはないのだが、中音の聞こえ方や高音の伸び感や響きが微妙で、マツダ3の標準スピーカーとも聴き比べる機会があり聴き比べたのだが、その差はかなりあった。スピーカー数は少ないがマツダ3の圧勝で、中音域の聴こえ方が全然違う。逆に低音の奥行きはBOSEスピーカーの方が断然良いのだが、オプション料金を支払うほどの魅力は正直乏しいなと感じてしまった。また、BOSEスピーカーにはもう一つ欠点があり、イコライザの調整域がかなり狭いということである。低音と高音しか調整できず、バランス、フェーダーと、あとはラウドネス(リアライザー?)くらいしか調整できない。ノーマルならかなりの領域を調整できるので、低音を求める人でない限りBOSEにお金をかける意味はあまり感じられない。
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走りは良くも悪くもマツダらしい
走りは良くも悪くも、マツダらしい硬派さを感じるものになっていた。それがこの試乗のキーワードになるのだが、いかにマツダらしさを出すのかというのがかなり開発陣も苦労したようだ。
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サイズはかなりデカい
自分は小心者なので、正直最初は借りたのを後悔するほどにデカいと感じた。とにかくデカい。前後の長さもそうだが、幅もとんでもない。基準で言うと、アルファードよりも前後も左右も大きい。この大きさが、流麗なサイドのデザインを生み出すのだが、事実としてこの大きさはさすがに常軌を逸している。写真のように横から見たとき、周りの車と比べて明らかにデカすぎると感じるのではないだろうか。360°モニターがかなり解像度が高く、これがなければ72時間試乗の間にもぶつけるリスクはかなり高かったのではないかと感じる。CX80とのカーライフは、この大きさとの戦いとなる。正直ここまで大きくなると、走る道を選ぶレベルで、狭い道に入ると普通に詰む。住宅街では曲がり角を曲がるために普通に2回くらい切り返した。コインパーキングやコンビニの駐車場に入るのも一苦労で、最初の駐車も思った以上に幅広く3回も切り返した。ロック板があるようなところだと普通にホイルに当たりそうで怖い。コンビニから出るようなときも普通に後ろタイヤやフェンダーを擦りそうで怖いし、サイズが大きいということは想像以上に苦労する。そのサイズの大きさゆえ楽に長旅ができるのだが、普段乗りとなるとそこそこの覚悟と集中力が必須となる。CX80に乗ってマツダ3を借りたときはマツダ3がチョロQに感じるくらい、街乗りにおいてサイズ感というもののありがたさはひしひしと感じるものなのである。大事なことなのでもう一度言っておくと、この常軌を逸したサイズとの闘いが、この試乗の上での大事なキーワードとなる。
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ただ重めのステアリングに関してはだいぶ改善され、電動パワステの容量が増したのか、取り回しはサイズを考えるとしやすい。これによって車線維持システムもかなり積極的に動作してくれるようになった。最小回転半径も5.8mとそこまで大きくなく、交差点でのUターンも思ったより苦労しなかった。しかし、右左折の時は若干ステアリングをたくさん回さないといけないと感じてしまい、最初は大まわりになってしまった。もう少しステアリングはクイックでもいいのかもしれない。
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かっこいいエンジン音
まずCX80に乗り込んで、スタートボタンを押すと、現代車にしては珍しくガッツリクランキングの音がする。XDのハイブリッドではあるが、マイルドハイブリッドでエンジン始動させるわけではなく、最初はセルモーターを使って始動するようだ。今では珍しくなった、多気筒エンジンによくある細かいセルモーターの音の後に、わずかにディーゼルらしい振動を伴いながら始動する。いくら直6とはいえディーゼルなので、ステアリングには若干の振動が伝わってくるが、それも含めて令和では珍しくなったガソリンエンジンのパワートレインの悦びを感じる。もうこの時点でマツダの芸術は始まっている。
走り出すと、2000回転も回さなくてもしっかりとエンジン音は入ってくる。しかしやはり振動はかなり少ない方で、その少ない振動とともに、6気筒の心地よい低音が聞こえてくる。2000回転以上回ることは滅多にないが、それ以上の回転域になると重たいドロドロとした音が聞こえてくる。エンジンはどちらかというと回りたがらない印象で、悪く言えば重ったるい、よく言えばかなり重厚感のあるエンジン音だ。しかしレッドゾーンまで澱みなく回り、またかなりの加速力がある。重さを感じさせないといえば嘘になるが、重たいながらの余裕を感じるというか、加速はかなり速いが、その速さで軽快に走るというよりは、余裕のパワーでゆったり走るというような感触である。
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街乗りでもバイパスでも、必要に駆られて2000回転以上を使うことはほとんどない。もちろんエンジンブレーキで回ることはあるが、加速において2000回転以上回さなくていいというのは新鮮で、以前のったアテンザのディーゼル以上に太いトルクを生かすことができている。アテンザでは6速ATだったが、CX80では8速のトルコンレスATとなっている。これについては後ほど。アテンザでは1500回転から2500回転くらいまでの粘り強い加速がかなり印象的で気持ちいいと感じたが、CX80では1300回転から1800回転くらいで同じような加速ができる。普通ならキックダウンするであろう領域で、キックダウンもせずにトルクで引っ張れるのは、ガソリンエンジンの高揚感とはまた違う楽しさがある。ただCX80にしかない魅力として、これはエンジンではなくどちらかというとマイルドハイブリッドの恩恵だと思うのだが、1000回転未満のアイドリングくらいの領域でも加速していく。正直かなり驚いた。上まで回しても気持ちいい、超低回転でも大トルクを発揮するという意味では、現状ディーゼルにおいてとても素晴らしいエンジンだと言えるのではないだろうか。
長距離旅においても、合流加速含めて2000回転以上回るようなことはなく、非常に快適に走ることができる。
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新作の8ATには弱点アリ?
エンジン+モーターで、力には何の不満もない。その中で、何かケチをつけるとしたら新作の8速のトルコンレスATだろう。スタートではクラッチをじわっと、なんの衝撃もなくつなげ、普通のATと何の遜色もないスタートができる。駐車時など、ちょっとアクセルを踏んで動かすようなシチュエーションでは、クラッチが繋がったり切られたりというのが、エンジン回転の挙動や音から伝わってきて、個人的には車を動かす楽しみが感じられるのでかなり面白いと感じる。しかし、この8AT、快適な乗り味には少し悪影響をもたらしている。というのが1速から3速まで、シフトアップには必ずシフトショックがつきものとなる。ダウンでは若干のブリッピングというか回転合わせが入るので不快感は全くないが、シフトアップでは多少のショックが出てしまっている。モーターも変速するようで、減速の際は、エネルギーを最大限回収するためにシフトダウンしている音が少し入ってくる。
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また、初期型のCX60でも言われていたが、まだ若干トランスミッションが内部でガガガガと言っている音が、低速域でごく稀に聞こえるが、これは相当気を使ってないと聞こえないのでほぼ気にならない。
また、2速と3速が異様に離れているのがかなり気になった。6速ATの方は1速と2速が異様に離れており、それはそれで違和感だった。しかし、今回はエンジンブレーキで一番よく使う2と3が離れすぎており、下り坂でフットブレーキを使わずエンジンブレーキだけで降りたいときは、思った以上にエンジンブレーキが弱く最初は怖い思いをした。ATなので、パドルシフトでシフトダウンしていくのだが、その際に、3速から2速に落とそうとすると、55km/h、大体2700回転くらいまで落とさないと2速へのダウンシフトを受け付けてくれない。また、2速と3速が離れているということは、3速だとエンジンブレーキが弱いが、かといって2速に落としてしまうとエンジンブレーキが強すぎて急減速になってしまう。後ほど解説するがマイルドハイブリッドの制御上、Dモードでアクセルオフするとエンジンが止まってしまうので、それこそフットブレーキのみで下るしかなくなってしまう。このあたりのギア比の制御はどうにか変えていただきたいところだ。個人的には2速と3速をもう少し近づけて、その代わり6速から8速をもう少しワイドにすると良いと感じる。
パワトレの滑らかさから言うと少し悪目立ちしてしまっている部分ではあるが、本当に細かいところしか気にならない。CX60で出た当初はかなり悪評が立っていたように感じたが、よく一回の仕様変更でここまで持ってきたなというのが正直な感想である。
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特徴的なマイルドハイブリッドの動作
マイルドハイブリッドは、かなり特徴的な動作である。やはり12Vではなく48V電源であることがかなり効いているなという印象だ。コンパクトカーの(特にスズキの)12Vシステムのマイルドハイブリッドに乗り慣れている身としては、かなり積極的にエンジンを止めるなと言った感じ。
水温などの条件はあるが、そもそも水温がすぐ上がるので真冬ではあったが影響は少ない。
アクセルをオフ、またはブレーキを踏むと、100km/h以下であればすぐにアイドリングストップが作動する。モーターもシフトダウンするようで、減速中に耳を澄ませているとモーターの音がかすかに聞こえてくる。一旦気になり出すと結構気になるので、フラッグシップならこの音は排除しても良かったのではないかと感じる。アクセルオフした時だけではなく、コースティングと微妙なアクセルオンの合間というか、アクセルに足を乗せてるくらいの踏力でもアイドリングストップは継続してくれる。これが案外燃費にも効いているようで、街中でもそこそこ燃費は伸びる。エンジンの停止率で言ったら、プリウスの初代とさほど変わらないのではないかというレベルだ。街中しか走らない人にディーゼルは勧めづらいし、そういう人はPHEV一択だが、オールマイティーな選択肢としては今回のったディーゼルハイブリッドが一番いいのではないかという感じだ。
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アクセルオフしたらエンジンは止まるが、そこからアクセルを踏むとすぐエンジンがかかるので、走行には支障はない。しかし、エンジンがストップしている状態から再加速しようとすると若干のラグはある。一瞬だけではあるが、少しもたつくというか、アクセルを踏む→エンジンがかかる→駆動力を伝えるという動作の合間に、ほんのコンマ1秒もないくらいではあるがラグがある。このラグが意外にも気になる。ハイブリッドと聞いて、しかもディーゼルであると考えると滑らかさと力強さが同居しているかもと感じるかもしれないが、力強さこそあれど滑らかか?と聞かれれば、トランスミッションの動作を含め少し解答に迷うところである。
総じていって燃費は向上するし、使い方によっては素のディーゼルに対してもかなり差をつけられるのではないかと感じる。
秀逸だなと思ったのが、ブレーキホールドとの相性の異様なまでの良さである。CX30では、アイドリングストップを解除するためにアクセルを踏んでブレーキホールドを解除させると身体が前後にぐわんぐわんするような動きが出てしまい、お世辞にも快適とは言えなかった。それがCX80になって、全くと言っていいほどぐわんぐわんと言った動きがなくなり、普通のガソリン車と遜色ないような発進ができる。マイルドハイブリッド付き車はルークスやCX30など、ブレーキホールドとの相性が悪い車が多いが、CX80はかなり自然に発進できる。コーストストップ(停車前アイドリングストップ)で急にクリープがなくなって減速率がかわり、急にカックンブレーキになるようなこともなく、自然に停車、発進できる。フラッグシップとして一番と言っていいほど危惧していた場所だったが、ちゃんと手が加えられており少し安心した。と言っても開発陣はかなり苦労してそう。
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ドラポジにはSUVならではの要素が
ドラポジはSUVだなと感じた。普段ドラポジに関してはあまりうるさく言わないのだが、80に関しては新鮮な要素があった。
マツダのSUVというのは、特にCX30がそうなのだが、かなり潜り込んで座れるという印象があった。しかし、CX30だと、ボディの丸っこさの方が目立ってしまい、あまりにもシート高を下げてしまうと、ボディーの後端がわかりづらかったり、幅がどこまでかわからず、運転しづらいと感じてしまう場面が何度かあった。スポーツ走行をしたり、前方向の見切りに関しては着座位置を下げた方がやりやすいのだが、いかんせん街中を運転する際は、着座位置を多少上げないと、本当にボディの幅の感覚が掴みづらい。
CX80では、そのボディの膨らみが少なく、車幅感覚自体がかなり掴みやすい。これが1890mmの横幅を手なづけられる理由なのだが、大きいとはいえ車両感覚は並に掴みやすい。強いて言うならホイールベースが長いことやリアオーバーハングもそこそこ長いので、後ろの感覚は少し掴みづらいのだが、アルファードのような長い車に乗っている感は少なく、アルファードより全長が長いとは思えない。
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それより面白かったのは、あがった車高と全幅から来る「周りの世界とのフィルター」を感じると言うことだ。これはステータスというか所有満足度という意味でかなり大きな要素となっていると感じた。人間を座らせている位置が絶対的に高く、もちろんそれに合わせてインテリアが構成されているので違和感はないのだが、横の車をチラッと見た時に、いつもは見えない車種の屋根や乗員の頭の上が見えるので楽しい。高速バスや観光バスに乗っている時にも近いかもしれない。もちろんバスよりは包まれ感があるのでまた違う感覚なのだが、これによって所有感はかなり高いなと感じた。
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乗り心地では高速域に弱点アリか?
やっとこさ乗り心地の話をしよう。街中では相応にコツコツ来る。高速域でもそのコツコツは続いている。というのが大まかな話だ。
細かく分析してみると、サスペンションというか、バネの部分はかなり硬いなと感じた。GRヤリスのRSも硬いが、あれに匹敵するのではないかというくらい硬い。これだけ考えると快適性は低いのではないかと思われるかもしれないが、CX80の足回りにおいて感動したのが、その衝撃の角の丸さだ。おそらくではあるがショックアブソーバーが非常によくできており、街中でも高速域でもしっかりと動いてくれる。足回り自体は硬いのだが、その衝撃はほとんどショックアブソーバーで吸収している感じで、CX60で言われているほど酷いのか?と感じた。リプロが入って修正されているというのは噂で聞いており、どこまで良くなったのだろうと期待していたが、しっかりとマツダの味は失っておらず、その上で快適性や乗り心地を担保するようにしたようで少し安心。そのショックアブソーバーが吸収しきれない分は少し足回りのバタつきを感じるが、ボディがしっかりしており、CX60からホイールベースを引き伸ばしてもボディの剛性不足は感じない。60km/h以下で走っていても、コツコツきて硬さ自体は感じるが、ショックアブソーバーがしっかり動き、硬さの角を丸めてくれる、道路からの情報のわかりやすさと快適性を両立したものとなっている。
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ラージ群のSUVということで、長距離ユーザーにもってこいと考える人も多いだろう。実際CX80においてそこを評価する人も多いようだが、個人的には若干難アリかなと感じてしまった。やはり絶対的なバネの硬さが災いして、100km/hを超える速度で走っていると、路面からの衝撃で跳ねるような動きが出てしまう。新東名のような直線であればこんなに楽な車はないだろうが、中国道のように路面が悪い高速道路では、サイズ感的にも車線に収めるので手いっぱいなので、跳ねるような動きが出てしまうとそれだけで疲れてしまう。なので120km/hで巡航するような場面ではむしろCX30などの方が路面にしっかり張り付いている感が感じられて楽だと感じてしまった。確かに乗り心地の優雅さやステータス性ではサイズ感というのはわかりやすく有効な表現方法だが、デカすぎるというのは考えものだろう。
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1車線の高速でも、やはりサイズがネックになってしまっている。車線の中に収めるのに一苦労で、車線維持の機能(CTS)をオンにしていても常にズレていないか監視しておく必要があり、なかなか疲れる。CTSをオフにして、自分でハンドルを握ったとしても、そこまで直進安定性が高いとはいえない。どちらかというと操舵性を重視したんだろうなというセッティングで、路面からの突き上げに応じて、車の走行レーンがずれる。どこかに飛んでいきそうとかそういうことはないのだが、常にステアリングをしっかり握って運転する必要がある。それでいてこの全幅の大きさなので、運転支援に任せて楽に目的地まで行くというよりは、やはり常に気を張って運転することになりそうだ。個人的にはもう少しだけアシのバネレートを下げて、もう少しハイキャスターにするだけで、直進安定性はだいぶ改善するのではないかと感じる。しかし、後述のハンドリングの話的にマツダでは実現されないだろう。
ただ確かに言えることはトルクの大きさは偉大だ、ということである。高速のノボ坂だろうが120km/hでの巡航だろうが、基本的にシフトダウンしたり、エンジン回転が2000回転を超えるようなことは少ない。方や常に4000回転も回しながら走る3ATの軽自動車もいるのに、同じ自動車とは到底思えない程、パワーには恵まれている。
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ハンドリングは良くも悪くもマツダ
ハンドリングは良くも悪くもマツダらしい味だなと感じた。エンブレをかけつつコーナーに侵入し、アクセルに足を乗せて徐々に踏み増していってトルクでコーナーを抜けていく。コーナリングにおける一連の動作に対して素直に車が反応し、気持ちよく曲がっていく。ブレーキを踏んでも優雅に車はノーズダイブしていく。ステアリングを回した感触も雑味はなく、ここまではかなり優秀だ。しかし、荒れた路面では足の硬さが悪さしており、路面から受けた力を横に逃すことができず、ただでさえ大きな車が暴れるような動きをする。個人的にマツダの考え方として感じることは、単にハンドリングのいい車を作りたい、というよりは、「人馬一体」というワードのもと、路面の状況は、必要、不必要にかかわらず運転手に分かるように伝え、車としては人間の操作の通りに動く、というものである。つまり車と乗員の相互関係を大事にしている。良くも悪くもここがマツダの車に乗るたびに、MAZDA2のようなエントリーカーでもCX80のようなフラッグシップでもキーワードとなるのだが、一貫したコンセプトは感じるにしろ、正直に断言してしまうと世間からイメージされている「フラッグシップSUV」としての味はCX80には無いなと感じてしまった。
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ブレーキングにおいても若干の重さが出た。フルブレーキングは試す時間がなく試せていないが、峠の下りではやはり重量の重さが出てしまっている。身軽な旋回フィールや、車を小さく感じさせるようなフィーリングは随所にあるが、いくらマツダとはいえ物理に敵う魔法を使っているわけではない。身軽だ、行ける、と思った先に意外と重くて思った以上に減速しないかもしれないので、下りの、特に雪のブレーキングには細心の注意が必要である。
しかし驚いた部分が一つあって、それが雪道での素直な回頭性である。素直な動きの車だということは知っていたが、サイズ感といい重さといい、雪道には適さないだろうと予想していた。しかし、登りはトルクで駆け上がり、下りこそ若干の重さはあるがそれなりに止まる。それよりも、かなり雪道のコーナリングにおいて、重い車体でも、アクセルのオン、オフで車の曲がる量を調整することが容易にできる。これのおかげで、どデカいサイズながらかなり安心感を持って運転することができた。
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まとめ
MAZDA6が生産終了し、マツダの中でフラッグシップと呼ばれていた車種が無くなった。そこでFRレイアウトと直列6気筒エンジンを採用し、「マツダのラージ群」と言われる車たちをSUVとして出してきた。つまり、このCX80という車は、日本で普通に買えるマツダ車の中では事実上のフラッグシップモデルという扱いとなる。その目線で見てどうなのかと言われれば、世間でのイメージとしてのフラッグシップとは若干の差異があることは事実として認知しておく必要がある。
価格も踏まえてライバルに挙げるならクラウンクロスオーバーやアルファード、ヴェルファイア、エクストレイルやアウトランダーだろうか。クラウンクロスオーバーの2.4Lターボハイブリッドモデルはかなりコンセプトとしては近いかもしれない。乗ったのが2年ほど前なのでなかなか乗り味に関して覚えていないが、あちらもスポーティーな車として作られているが、足回りがしなやかなのはクラウン、硬派なのはCX80といった感じになる。総じていって長距離も快適にこなせるのはクラウンかもしれない。
マツダのSUVは、CX30やCX60もそうなのだが車高が上がってもスポーティーな車にしたいという思想を感じる。芸術品のような内外装。それに合わせたマツコネやメーターのUI。この芸術家がデザインした内外装に、技術者が考えるフラッグシップの乗り味が乗っかる。確かにスポーティーではあるのだが、逆に言えばSUVでイメージされるようなしなやかな動きは少なく、マツダという会社が何をやりたいのか、しっかりと理解して乗る必要があるのではないだろうか。自分自身正しく理解できているとは思わないが、自分が乗って、受け取った情報と共に乗っている限り、マツダのSUV群たちはぜひ応援していきたいと感じる。
芸術家がボタンの押し心地のひとつひとつやデザインのコンセプトに隅から隅までこだわったフラッグシップSUV、まだ72時間試乗はできるのでぜひいろんな方に乗っていただきたい。
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