地味ながらも開発者の意地を感じる乗り味 三菱 eKスペース T (日産ルークス) 試乗レビュー
今回は、三菱のeKスペースのターボグレードに長距離試乗できたので、レビューしていこうかと思う。自分も同じNMKVのeKスペース(先代型)に乗っているので、そちらとの比較や同じルークスのNAモデルとの比較も兼ねた記事にしていこうかと思う。
内外装は質感こそ高いが…
外装の質感は高い。eKスペースに関しては先代同様笑ったような顔で親しみやすい。しかしその中にあってデザインは直線的で、ボンネットのラインも窓ガラスのラインも高く、先代のような伸びやかさというよりは実用カーのような風貌になり、先代のような乗用車感は減ったかなという印象。
内装はデザイン重視で、eKワゴン同様実用性の面で言うと若干の詰めの甘さは感じる。
タッチパネルのオートエアコンは、使いづらいように見えるが、凹凸がある分普通に操作しやすい。シフトレバーは先代のものと比べるとかなりコンパクトになり、スペース的にも余裕がでたような感じ。
センターの部分にはテーブルがあり、軽食を置いたりスマホを置いたりとかなり役にたつ。助手席の部分にも引き出しの収納があり、ティッシュを置いたり、小物を置いておくのにはかなり便利だ。エアコンの吹き出し口もステアリングにもかぶることなく、快適な風を届けてくれるように設計されている。これはスペースがカッツカツの軽自動車からするとかなり苦労したのではないだろうか。
しかし相変わらずエアコンスイッチの上の棚のような場所は使いづらく、財布すらも入らない。しかも仕切りも低く、軽いものを置いておくと助手席のドリンクホルダーに落ちてしまうという素晴らしい設計。Nwgnがそこそこ高さのあるものでも入れられる設計だっただけにかなり残念。
ドリンクホルダーは四角形だが、さすがに紙パックは入らなさそう。ただ個人的にはこぼすのが嫌で車の中で紙パックの飲み物を飲むことはそんなにないので、十分実用的と言えるだろう。
鍵は少々でかく、ポケットに入れていると嵩張る。ただデザインはカッコよく、指紋もつきづらいような素材になっている。個人的には大きさ以外は前のキーよりはカッコ良くなったと思うが、日産は今度は何年このキーデザインを擦りつづけるのだろうか。
ここで珍しく後席レビュー。後席はかなり気を使われた設計になっている。膝裏までしっかりと布が貼られており、一目見てかなり居心地が良さそうだなという感じ。欲をいえばオットマンのように動いてくれればとは思うが、さすがにこれ以上価格を上げるのも考えものだろう。
シートの前後スライドはシート脇にレバーがあるので、わざわざ足を開いてレバーを引っ張る必要はない。スライドドアを開けて外から後席を操作する際もこの方が力も入れやすいのではないだろうか。
メーターに関してはスーパーハイトワゴンの中で一番オーソドックスで視認性が高いのではないだろうか?
強いていうなら燃料の残量が少々見づらいような気もするが、そこまで気にならない。情報量もそこそこあり、タコメーターは最近のスズキやタントのようにモニターに省略する形ではなくしっかりと針で同時表示されていたり、平均燃費と瞬間燃費を同時表示できたり、エネルギーモニターや運転支援、そもそもカラー液晶モニターなど、ひと昔前の軽自動車からすれば考えられないほど豪華になった。そもそもタコメーターが全車標準装備というのがなかなか豪華だ。
走りは好印象
走りはかなり好印象というか、日本人好みでクセがなく、乗りやすくなったなという印象。今回は、その走りの要素に関してもターボ、NA両方を交えて見ていこうかと思う。
加速はNAでも不足なし
ルークスと聞くと、ターボなし(NA)の加速の悪さ、パワーの無さを連想する方も多いことかと思う。
特に先代にあたるデイズルークスでは、エンジンの力のなさや、CVTとエンジンの相性の悪さにより、街乗りでもパワー不足を感じるという人は多かったように感じる。実際はCVTのクセを理解してやることで、街中であれば枯葉マークをつけることなく加速することはできるのだが、少々加速に工夫がいるのは事実だ。
それが新型のルークスとなり、エンジンもシャシーもパワートレインも何から何までが刷新された。工夫を求めてしまうからという理由で先代のものを刷新してしまうというのはある意味乗りやすい車を作る上では必須なのかもしれない。
エンジンはBR06エンジンとなった。先代の3B20エンジンと比べると低回転の実用域の加速がよくなった反面、高回転、特に6000回転から先はただ回っているだけという感じで、伸びは良くない。軽自動車の街乗り領域での実用エンジンとしては一番正しい設計だろう。
CVTに関しては、先代のような回転を抑えるようなものとは異なり、結構積極的に回すようになったなという印象。先代の回転数を抑えるような制御は燃費のためという名目ではあったが、実際は加速が悪くなっただけという代物(笑)であった。
日常的に3000回転くらいを使うように設計されているようだが、エンジン音は静かになったので、エンジンが頑張っている感もなく、快適な加速を提供してくれる。
高回転域ではまるで有段オートマのようなステップ制御をするが、上り坂で強い加速を求めている時に意図せぬ回転変動をすることがあるので、そういう際はLレンジに入れる必要がある。基本的にはステップ制御に関してもドライバーに加速してる感を味合わせるために一役買っている。
渋滞や止まる寸前に少しだけギクシャクすることがあり、そのせいで止まる際のブレーキのタッチが若干不自然になることがごく稀にある。15km/h以下でずっと移動するような渋滞では、なかなかにフラストレーションがたまる。ホンダのCVTや最近のスズキのCVTであれば存在しないギクシャクなので、素直に加速するようになったとは言えもう一歩及ばないのかもしれない。
とはいえ普段乗りで不満を持つことはそうそうないだろう。
ターボを選ぶ意義はない
ここで結論というか夢のない話を。
正直ターボを選ぶ意味がない。
ルークスに積まれているBR06エンジン。低回転というか軽自動車の常用回転域の2000回転から3500回転くらいのトルクが厚く、高回転は逆に力がないというようなことを述べたが、ターボでもその印象はそのままだ。確かに100㎞/hからの伸びはいいし、合流も楽なので、絶対的な力はありそう。
ただ、ターボにしては高回転域の力は弱く、日常でもNA同様3000回転くらいの領域を使っているので、「余裕のためのターボ」という感じも少ない。ただただ絶対的な力があり、とりあえず数値として52馬力から64馬力に引き上げました、という感じ。
ただ力はあるし、腐ってもターボエンジンなので燃費は悪い。しかも、燃料タンクはたったの27Lとかいうケチっぷり。つまりどういうことかというと、NAと同じような特性なのに、燃費は悪く、それによって航続距離も短い、つまり頻繁にガソリンを入れに行く必要がある、ということである。
CVTのクセも気になる。というのも、NAではなかったことなのだが、発進から3000回転あたりまで回すと、唐突に力がドンっと出て急加速してしまうことがある。NAならば減速のギクシャク以外はそのようなCVTのクセは感じなかったのに、ターボではCVTとの相性が悪いのかそのような現象が起きてしまう。
これであれば、NAを買った方が価格も安く、燃費も良く、それにより航続距離も長い。エアコンの効きに関してもターボになれば良くなるわけでもない。CVTとの相性もターボよりNAの方がいいので、正直絶対的なパワーを重視する以外でターボを選ぶ意味が存在しない。
いくらハンドリングがいいとはいえ軽自動車の背の高い車でそんなにスピードを出しても事故リスクが上がるだけなので、やはりこの手の車はのんびり走るべきだろうと感じる。それを加味してもやはり車の出来のバランスとしてはNAに軍配が上がる。
乗り心地はしっかりめ
乗り心地は、先代に比べるとかなりしっかりめになってきたなという印象。かといって、タントのようなドイツ車のようなかっちりとした印象はなく、乗り心地と安楽さをしっかり両立している。
タントでは、とにかくフロアをしっかりさせて、足回りも硬め、背の高い軽にありがちなフラフラ感をなくし運動性能を低コストで高めてきた。
一方でルークスは、フロントこそしっかりしているが、リアの足回りは緩めており、乗り心地と運動性能を両立したものになっている。ボディもそこまで強いとは感じないが、だからこそタントに比べても安楽な乗りやすさが出ている。ノートやセレナ、リーフもそうだが、ボディ全体を使って衝撃をいなしているような感じ。もちろんボディ剛性がモノをいう100km/hを超えるような高速域ではフワフワしたり安定しない感じが出てしまっているが、街乗りやバイパスくらいの速度帯がエンジンの特性も含めて楽で、タントにあるドイツ車のようなかっちり感こそないが、日本の速度域にはバッチリ合った運転しやすい車である。
だとしてもある程度のしっかり感は持ち合わせており、先代のようなひたすらに柔らかいというものではない。
一番進化したのはコーナーでの安定性だろう。先代では足の柔らかさから、そこまで安定してコーナーを曲がれると言うわけではなく、ボディ剛性自体はしっかりしているのでコーナー途中の凸凹自体はうまく処理してくれるが、だれもがコーナーを綺麗に曲がれるというようなものではなかった。
新型では、乗り心地がしっかりめになり、足の取り付け部分もしっかりさせた結果、先代からは考えられないくらい安心してコーナーを曲がることができる。ワインディングでも楽しいとは言い難いが、そういう道でも安楽に乗ることができるようになったのではないだろうか。
静粛性は向上?
静粛性に関しては、エンジン音はだいぶ静かになり、ロードノイズはそれによって逆に目立ってしまっているような印象。
最初にまずこの車の醍醐味のエンジンに関して。先代のエンジンはかなりうるさく、2500回転も回すとかなりの音が入ってくる。3500回転をすぎたあたりから確かに滑らかな音にはなるが、かなりうるさいことには変わりない。
現行のルークスになって、かなりエンジンの音は静かに、上質になった。日常的に2000から3000回転くらいの領域をよく使い、たまに4000回転ほど回る時もあるが、感覚的には音量は先代の2分の1程度になったようなかんじ。5000回転から上はパワーこそないものの音は静かで、先代のものと比べるとエンジン音に関してもかなり快適性重視になったなという感じ。
一方で、ロードノイズはそこそこうるさいなという感じ。特に後ろからのざわざわした音は、エンジン音と引き換えにかなり入ってくる。前からも後ろからも、特に後ろからの音が大きいような印象で、長距離は耳から疲れてくる。
パドルシフトは秀逸
パドルシフトは秀逸だ。ルークス七不思議としてルークスにはターボグレードでもパドルシフトはつかないが、eKの方にはターボグレードのみパドルシフト搭載となり、シフトレバーもDレンジの下がDsレンジとなる(パドルシフトなしはLレンジで、Dsモードがシフトレバーの横につく)。
Dレンジでパドルシフトを操作すると、シフト表示がDから数字へと変わり、しばらく操作していないとDモードへと戻る。Dsレンジでパドルシフトを操作すると、マニュアルモードを保持することができる。
そのパドルシフトが、なぜ日産版の方につかないのかと思ってしまうくらいに出来がいい。もちろんCVT車なのでMTやマツダの6ATほどのダイレクト感はないが、パドルシフトを操作するとそのタイミングでスパッと変速が決まる。変速のラグはマツダのマニュアルモードと大差ないほどで、擬似的な7速だがギア比にも違和感は特にない。ライズに乗った際はマニュアルモードにしてもだらっと回転数が変わり、そこまで楽しさや魅力を感じなかったが、eKのものはかなり出来がいいと言える。
CVTなので回転数が上がりきると自動でシフトアップされてしまうが、下り坂でもかなりダイレクトに使いこなすことができる。
もう一つ秀逸だと感じた点が、おそらくだが下り坂モードなるものがついていること。Dレンジのままでパドルシフトを操作して、しばらくそのまま放置していると戻ってしまうのだが、下り坂が長く続く山道のようなシチュエーションではマニュアルモードを長めに保つようにしてくれる。さりげないところではあるがこの辺りも使いやすさに貢献しているようだ。
プロパイロット(マイパイロット)の制御は充分以上
ルークスは出た頃から、その運転支援機能の優秀さを言われており、実際になかなかお金をかけて設計されているようだ。
自動ブレーキに関しては試せてはいない(当たり前)が、ACCやステアリングの支援はなかなか優秀だった。
速度調整は5km/h刻みで、ここがひとつ残念なところではあるが、そのほかはホンダセンシングと同等、もしくは勝っているのではないかというくらいの出来のよさだった。
特にステアリング支援は素晴らしく、第一ホンダセンシングは65km/h以上でないと作動しないが、プロパイロットは全車速だ。といっても一度60km/hくらい出さないと、ステアリング支援は動かない。しかしその後は全車速で働くようになるので、この辺りはホンダセンシングに勝っているところである。
Nwgnのホンダセンシングはどうもセンター付近のキープが普通車に比べると弱く、左に寄ったり右に寄ったりと頼りないが、ルークスのステアリングの支援はセンターをしっかりと追従するように動くので、遠出でも普通車と同じような感覚で使うことができる。速度調整でエンジンがうなること以外は特に快適性においても不満はないので、これなら普通にファーストカーとしても使用できるのではないだろうか。
まとめ
ルークスというクルマ、先代ではクセが強く、いろいろな人が代車やレンタカーで使用することを考えても不向きといえるようなセッティングをしており、どうもいろいろな人から敬遠されるような存在となっていた。しかし、現行ではより乗りやすく、Nboxに負けないような商品力を手に入れてきた。軽自動車でなおかついかにも実用車な見た目をしているため、あまりこのような評価をされているのは見たことはないが、個人的にはもっと売れてもいいのではないかと思うほどの出来だと感じた。
サクラのルークス版やepower化など、まだまだ商品力アップの要素はあるとも思うが、この車の走りやすさからくる良さが、色々な人に伝わればなと感じる。