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目指すはドイツコンパクトカーか? スズキ スイフト(ZCEDS) 試乗レビュー

今回は、新型になったスイフトについてレビューしていこうかと思う。ヤリスやアクア、フィットなどが目立っているコンパクトカーのセグメントにおいて、いまいちパッとしない印象こそある車だが、新型になってよりそのコンセプトはわかりやすいものとなった。今までのスイフトにあった「メーカーがやりたいことと市場要求の差異」のようなものがなくなり、より消費者に伝わりやすい車になったなと感じる。
その理由について今回は探っていけたらなと思う。

外観に関しては、丸っこかった先代から比べると角が増えたように感じる。しかし可愛らしさは先代から継承しており、何やらトミカのような、愛着のわく見た目だなと感じる。真ん中グレードではホイールが切削ではなくなるが、個人的にはこちらの方がドイツの素のコンパクトカーのような素朴さがあって好きだ。

先代との部品流用を感じさせない内装

画像提供:@_10uring_h0n さん

内装は、よくみると先代との部品流用を感じる。例えばシフトレバー。あいかわらずベコベコな質感で、操作した感じはお世辞にも質感が高いとはいえない。ヤリスのシフトレバーの方がまだマシなレベルだ。ステアリングのデザインも先代と同じだが、後述するが径が小さくなったかのように感じる。
ハザードのスイッチの位置は、先代では身体を起こさないと押せない位置にあって大変不便だったが、新型になって改善された。
ライトスイッチも変更され、下からオフ、AUTO、ポジション、ロービームとなった。ハイビームは従来通り奥側に倒すと作動する。オフスイッチとポジションランプがそれぞれ独立する形状に変更され、どういう意図かは不明だが個人的にはAUTOに戻ってくるタイプより多少は使いやすくなった。もちろんオートライトは義務なので、ポジション位置にしていても(ライトカット)走り出した瞬間にロービームとなる。オートハイビームは、前のタイプではAUTO位置の状態でハイビーム側にレバーを倒していると作動したが、このライトスイッチでは、AUTOの位置にしていると強制でオートハイビームは起動する。ハイビーム側に倒すと普通にハイビームとなる。ポジションやロービームの位置だとオートハイビームは動作せず、レバーを倒すと普通にハイビームになるので、従来型の配置に慣れている人は要注意かもしれない。

メーターは先代のような赤い加飾はなくなり、シンプルになってしまった。内装は重層的になったが、メーターはシンプルなので若干寂しい感じ。それでもカラー液晶は標準になり、情報も充実している。

走りの目指す先はBMW

実はi3に少しだけ乗車したことがあり、またスイフトを試乗する前日に、友人の運転するミニのJCWに少しだけ乗せてもらった。その際の印象とこの新型のスイフトは、乗り味においてかぶるところがあるなと感じた。

乗り心地は硬い

はっきり最初に言っておくと、乗り心地は相当硬い。バネがストロークしている感じはほとんどなく、衝撃は吸収されている感じもない。これが今回のスイフト試乗のキーワードとなる。
先代のスイフトも足回りは硬めだったが、その割にステアリングを左右に揺さぶるような動きを入れるとかなりロールしていた。そのため、硬いのだが若干足が細い、頼りない印象を抱いていた。これは新型になってしっかりした印象で、実はバネレート自体はほぼ変わってないような印象を受ける。新型で若干硬くなったような気もしなくはないが、実はそこまで変わっていないのではないかというのが結論だ。自分には結局詳しいことはよくわからなかったが、おそらくダンパーの容量をしっかり持たせたのではないかというのが結論だ。なので街乗り領域からかなり攻め込んだ領域まで安心して持って行けるようになった。先代では街乗りでも攻め込んだ領域でも、ロールが気になってしまい頼りない、運転しづらい印象を抱いていたのでここは大きく改善されたと言える。

ドラポジで変わる車の印象

今回のスイフトを見てみなさんは何を思っただろうか。個人的にはスポーティーな印象からは卒業し、街乗りカーになってしまったんだなと、少し寂しく感じていた。確かに外観はかなりカワイイ系で、男性を寄せ付けないわけではないが極端な話上品な女性をターゲットにしているのではないかと感じるほどだ。内装を見ていても、ついにスズキも高級路線に走り出したのか、と感じる。
ドラポジだけ見ればたしかに若干上がったようだ。先代のスイフトは着座位置がコンパクトカーにしてはそこそこ低く、スポーティーな印象だった。その代わりステアリングの配置的に若干ステアリングの径が大きく感じ、回しにくいと感じていた。それが新型では着座位置が適度に上げられ、よってステアリングとの位置関係も改善されたため、非常に回しやすく、相対的にステアリングが小さく感じるようになった。基本的に着座位置を上げると、無理に上げた感が強くなることも多いのだが、先代のスイフトは、着座位置を下げすぎると、ボディがもっこりしているからか巻き込み確認や左折、右折時に怖いと感じることも多い。かといって着座位置を上げればいいのかというと、スポーティーな印象のコックピットと合わず、死角確認自体は確かにできるのだが微妙にちぐはぐな感覚があった。ここは新型で改善され、コックピットの色の入れ方や運転操作に関するものの配置が見直されたことで、共通部品ながら上がった着座位置でも違和感がない、むしろ運転がしやすくなった。

ハンドリングはやはりトップクラス

ハンドリングは先代でもいいと感じたが、その印象は相変わらずだ。街乗りカーのような見た目のわりにスポーティーともとらえられる。
まずボディがすごくしっかりしている。ボディ剛性がしっかりしている車として一番に挙げられるのがヤリスになるのだが、あちらとはまた違うような世界を持っている。ヤリスはフレームがしっかりしているという感じで、鉄板がしっかりしているとは思わない。どういうことかというと、ドアやボンネットの鉄の質まで良いというわけではなく、フレーム自体はしっかりしている感覚はあるのだが、バランスはとれていないなというのが正直なところだ。ここで忘れないでいただきたいのが、どちらがいい、どちらが悪いというわけではなく、どちらもいい。ただ、そこのレベルに至るまでの設計思想が違う、というだけの話になる。
話は戻るが、スイフトでは、全体的に剛性のレベルは高いのだが、その高いレベルの中で、バランスがとれている。ヤリスはフロア剛性一辺倒で、その中で足回りは豊富にストロークさせてボディにあまり衝撃を入れないことで乗り心地を出している印象。一方でスイフトはフロアの剛性、とくに縦方向に若干のいなしを感じる。横方向の衝撃というか入力には強いのだが、全体としてのレベルの高い中で縦方向には少し揺れを許している印象だ。この若干のいなしが、街乗りでの乗り心地においてのキーワードになる。
ヤリスとスイフト、どちらがボディ剛性においてかっちりした印象があるのかと言われればスイフトで、それはフロア剛性もそうなのだが、それ以外の部分のしっかり感も関わってきている。特にBピラーのあたりもしっかりしており、ここをいなしとして使っているヤリスとは大きく異なる。どちらの方が質が高く感じるのかと言われればスイフトとなる。

その全体的にバランスが取れているボディ剛性と、先述の硬めな足回りによって、衝撃をいなしながらどのスピード領域でも安心して曲がっていけるようなフィーリングへと成長した。
街乗りというのは案外大変で、右左折でもただハンドルを切るだけでは滑らかには曲がっていかない。しっかり減速して、前のタイヤに荷重をかけ、ステアリングはゆっくり回して、脱出と同時にちょっとずつアクセルを踏む。これを歩行者や自転車の巻き込み確認や、他車との位置関係をしっかり把握しつつ、安全にやっていく必要がある。つまり街乗りというのは全ての性能のバランスが取れていて初めて優秀に、快適にこなせるものなのである。

硬い足回りというのはこれに適さないのではないかと感じたのだが、街中でも乗っていて不快だとは感じなかった。跳ねるような動きも少なく、硬いながらもアクアやフィット以上に全体の動きのバランスは取れている。ヤリスも跳ねるような動きはないが、あちらはロール量が少し大きいので、街乗りしていて楽なのはスイフトである。ノートはe-POWERの滑らかさという要素が大きく、スイフトと肩を並べるくらい街乗りは快適だ。
街乗り領域では適度に上がった着座位置、フロアの縦方向への若干のいなしと横方向の踏ん張りの強さ、硬めな足回りとダンパーの強化によって、ママさんたちのお買い物カーや通勤カーとしても非常に乗りやすい。
それでいてすごいのが攻め込んだ時の動きだ。今回の試乗で山道を走る機会があったのだが、その攻め込んだ時の動きが、コンパクトカーのサイズ感と相まって非常に素晴らしい。街乗りでの乗りやすさが、攻め込んだ時の動きの良さにつながっている。すこしハンドルを揺さぶっただけでわかるのだが、やはりダンパーの容量が非常にしっかりしている。これとボディ剛性の高さをフルに生かして、高いスピードでコーナーに突っ込んでも、ボディはよれないし、足回りもしっかりとそれに追従してくる。先代ならロールしてしまってアンダーが出るようなコーナーや、カーブの途中でキツさが変わるようなコーナーでも、しっかり走ることができる。マツダ車のようなブレーキを踏んだ際の優雅なノーズダイブや刺激的なエンジンの音はないが、攻め込んだ際の動きはクセがなく、安心感がある。先代ならボディまで振動が伝わってきていたような道でも路面とタイヤが離れてしまうようなことはない。これは出るかはわからないが、スイフトスポーツにも期待が持てる。

パワートレインに感動はない

パワートレインは刷新され、低回転から力が出るようになった。先代のスイフトは、1.2Lの4気筒エンジンで、かなり軽快に回るエンジンだった覚えがある。その代わり低回転はそこまで力強くなく、バイパスでの合流加速や流れの速い道では3000回転くらい回すようなこともよくあった。中回転域がスイートスポットとなっており、ここは非常に力強いのだが、2500回転以下の領域(低回転)と、5000回転以降はそこまで力強くなく、CVTよりもMTの方が合っているエンジンだなと感じた。

新型では3気筒となり、一番下のグレード以外ではマイルドハイブリッドとなった。先代のマイルドハイブリッド付に乗ったことがないので直接的な比較とはならないが、明らかにエンジンの低回転トルクが増えている。具体的には、2500回転くらいまでのトルクがかなり豊富になり、ここも街中で走りやすくなった理由の一つだろう。中回転領域では先代ほどの力強さはない。高回転は先代よりも弱くなり、5000回転以降はただ回っているだけ感が強い。しかしここで効いてくるのがマイルドハイブリッドだ。低中回転域でかなり働くので、加速力にはなかなか効いているようだ。フルハイブリッドのようなアシスト力はないが、バッテリー残量さえあれば想定したよりグググっと加速させてくれる。エンジンもより低回転をつけるようになるので、燃費にも効いているし静粛性にも多少は効いているようだ。しかしバッテリーがなくなった途端エンジンは非力にうなり、上り坂が続くような山道ではすぐ4000回転くらい回ってしまう。交通の流れについて行くために5000回転近く回ってしまうようなシチュエーションもあった。バッテリー残量が2メモリになるとアシストをやめてしまい、なおかつバッテリーの容量もかなり小さいので、そうなると常にアシストしてくれるという訳ではなく、そこまで期待できるというわけではない。

先代ではエンジンに刺激があったので、むしろマイルドハイブリッド付よりも回して楽しむ方があっている。なおかつ先代は、新型と比べて重量も100kg以上軽いので、その軽さを生かして走る、軽いことの恩恵を燃費、走りの両方に活かすことができる車だった。しかし新型では、高回転の伸びが薄く、なおかつ軽快に回っていくようなフィーリングでもなく重ったるい、あまり回りたがらないエンジンになったので、結果的にエンジンから感じる刺激というものは弱い。確かに足回りやドラポジの改善から、運転が楽しめる車となったが、このパワートレインの刺激のなさが、スポーツを待ちたいと感じてしまう一つの要因となっている。

マイルドハイブリッドで一番恩恵を受けるのはアイドリングストップだろう。解除はスズキ車のマイルドハイブリッドであればみんな滑らかなのだが、エンジンを止める時も滑らかに停止させるような制御となっており、これによって本当にいつエンジンが停止したのかわからないレベルにまでなった。細かいところまで煮詰められた、本当にストレスのないアイドリングストップへと進化した。

個人的にはCVTがかなり進化していると感じた。先代では、ボディが軽いからなのかCVTのガタつきがかなり気になっていた。それとスポーティーな着座位置、それを上げたとしても解決しないステアリングの径によって、街乗りでは疲れる車になってしまっていた。それが新型になって、低回転トルクが強いエンジンに加えて、CVTもかなり改善された。ギクシャクがかなり少なくなり、踏み始めの力の出方も優しくなった。ただ、普通に加速して普通に減速できるようになったというだけなので、これ単体で乗っているぶんには感動は少ないのかもしれない。エンジンも普通の低回転トルクの強いもので、他社でも味わえるので、総じて言ってパワートレインにはあまり感動はない。ハンドリングの出来の良さを考えると、パワートレインに刺激が加わるであろうスポーツモデルにより期待が持てる。

まとめ

ダンパーの容量によって軽さを活かしたハンドリング、フロアと上屋の剛性バランスの良さによる乗り心地や、感じられる造りの良さ、着座位置を上げられたことで、街乗りカー感は出てしまったが、それによる運転のしやすさなど、多角的に正常進化したように見えて実は先代以上に強みが強調された車へと成長した。
特にハンドリング面での進化は著しく、街乗り程度でも乗りやすく、運転が楽しくなるようになった。結局街乗りで楽しく乗りやすい車というのは、ペースアップしてもいい動きを出すことが多いようだ。逆に街乗りでも動きに違和感を感じるような部分がある車はペースアップするとその違和感が目立ってしまうことが多い。
先日、友人のミニに乗車した際、足回りは硬めだが、全体的なボディのしっかりとした作り込みと、しっかりと容量を持たせてあるダンパーやスタビライザーのおかげで、かなり安心感があった。スイフトにはもちろんそんなにコストをかけることはできないので差額分の違いを感じるが、とは言っても目指す先はドイツ系のコンパクトカーにあるのではないかと感じた。

街乗りオンリーで使うにもいい、山道を日常的に使うにもいいという多角的な車となった。1.2Lなので燃費もよく、実燃費で15は楽に越えられる。しかもマイルドハイブリッドとはいえピュアなガソリン車なので、価格も安い。これは、飛び道具を使わずに基本に忠実に車を正常に進化させてきた結果だろう。
総じて言って先代か現行か、自分が選ぶならどっちかと言われたらCVTなら現行、MTなら先代と答える。しかし、車好きとして、少しでも車に興味がある人間からすれば、ノーマルでこの動きとなればスポーツにもかなりの期待が持ちたいところである。


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