長門丸

葡蘭英仏独日を中心に、近世以降の海洋進出国の経済や軍事に関する研究・文献を紹介します。個人的な研究テーマは通商・金融政策史(VOCなど株式会社発生史論から植民地におけるセントラル・バンキングまで)です。まだ勉強中の身なので誤り等あれば遠慮なくご指摘願います。

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葡蘭英仏独日を中心に、近世以降の海洋進出国の経済や軍事に関する研究・文献を紹介します。個人的な研究テーマは通商・金融政策史(VOCなど株式会社発生史論から植民地におけるセントラル・バンキングまで)です。まだ勉強中の身なので誤り等あれば遠慮なくご指摘願います。

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[読書メモ] ジェントルマン資本主義と大英帝国の拡大 "Gentlemanly Capitalism and British Expansion Overseas"

【本記事は9分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】イギリス帝国政治経済史(論文)  今回は近代イギリス史を勉強しているといずれどこかで耳にするであろうケイン=ホプキンズの「ジェントルマン資本主義」論についてです。以前にも記事にしたギャラガー=ロビンソンの「自由貿易帝国主義」論を半ば発展させつつ半ば批判しつつ生まれたものが本論文になりますので、是非そちらとも合わせてご覧下さい。尚、ジェントルマン資本主義論は研究史的な立ち位置を把握しておかなければ理解が難しい様に感じま

    • [読書メモ] 古き友人:日本海軍創設におけるオランダの役割、1850-1870年 "Oude vrienden: De Nederlandse rol bij de opbouw van de Japanse marine, 1850-1870"

      【本記事は9分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】近代日蘭交流史(論文)  航海法やVOCの研究をしたくてオランダ語の勉強を始めましたが、最初は馴染みのある分野且つ比較的簡単な文章で勉強するのが良いだろう、ということで、最近のオランダ人の歴史学者は英語で執筆することも多いものの、2018年執筆と比較的新しい蘭語の論文です。本論文が寄稿された号では日蘭の友好・敵対関係の歴史をテーマにしており、当該分野を専門としていない方々を対象とした緩めの論文でしたので、浅学の身なが

      • [読書メモ] 円の侵略史:円為替本位制度の形成過程

        【本記事は10分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】近代日本植民地金融政策史(概説・通史)  保護貿易主義(英スターリング圏)やアウタルキー構想(独マルク圏)など、所謂ブロック経済構想の一つとして円為替本位による円ブロックの形成過程の概説を述べた本です。通史としての記述は先行研究に頼る部分も多いものの、当分野における時代縦断的な文献が少ないこと、豊富に紹介されている参照資料など、当分野に初めて手を付ける方にとっては非常に役に立つ教科書的な一冊である様に感じました。

        • [読書メモ] 金解禁: 1920年代における円価格の転換点 "Japan's Return to Gold: Turning Points in the Value of the Yen During the 1920s"

          【本記事は3分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】近代日本経済史(論文)  気付いたらパソコンのフォルダ内にあったので、どういった経緯で見つけてきたのか分かりませんが、1920年代の円ドル為替レートから、当時の市場参加者が金解禁に影響を及ぼすと考えたであろう要因を分析する論文です。 2. 計算手法  詳細な計算手法に関して興味のある方は各自でご確認頂きたいのですが、本論文ではZussman et al. (2008)にて使用された手法を借用して、1920年代のド

        • [読書メモ] ジェントルマン資本主義と大英帝国の拡大 "Gentlemanly Capitalism and British Expansion Overseas"

        • [読書メモ] 古き友人:日本海軍創設におけるオランダの役割、1850-1870年 "Oude vrienden: De Nederlandse rol bij de opbouw van de Japanse marine, 1850-1870"

        • [読書メモ] 円の侵略史:円為替本位制度の形成過程

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          [読書メモ]「大東亜共栄圏」と日本企業

          【本記事は7分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】近代日本植民地・経済政策史(論集)  著者は「本源的蓄積」に懐疑的な見方をしているのに、何故かマルクス経済学をテーマにすることも多い社会評論社から一冊拝読しました。基本的には著者がこれまでに個別に執筆した論文等を集めたものであり、内容は当時の企業活動について個別的にそれぞれ論じるというよりかは、当時の企業が海外進出する上で日本の植民地政策(特に経済面)がどの様にその下地として機能したのか、という点が重視されていたよう

          [読書メモ]「大東亜共栄圏」と日本企業

          [読書メモ] 自由貿易帝国主義 "The Imperialism of Free Trade"

          【本記事は6分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】近代イギリス帝国史(論文)  イギリス帝国史研究の中でもかなり大きな存在感を示す、非公式帝国論を基礎とした自由貿易帝国主義についての先駆的論文です。近代イギリス史などを研究している方にとってはあまりにも有名な論文でしょうが、知らない方も多いと思いますので、記事にしてみました。 2. イギリス史研究のアポリア  従来の近代イギリス史(主にヴィクトリア朝)研究では自由貿易主義や少英国主義などを中核とする反帝国主義が同

          [読書メモ] 自由貿易帝国主義 "The Imperialism of Free Trade"

          [読書メモ] 植民地支配と開発: モザンビークと南アフリカ金鉱業

          【本記事は10分で読めます】 1. はじめに 【ジャンル】近代ポルトガル植民地政策史(博士論文)  高校の教科書や参考書で有名な山川出版ですが、今回は学術的に硬派なシリーズである「山川歴史モノグラフ」¹⁾から一冊拝読しました。それなりに話題になることもある中近世のゴアやマカオ、ブラジルなどではなく、1960年代の独立戦争まで全く話題に挙がることのない、近代のアフリカ植民地(モザンビーク)についてのポストコロニアル研究です。  かくいう筆者も「領土的な存在感はあるよなあ」

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          [「首」解説・感想] 光秀の扱い雑じゃない?

          【当記事は20分で読めます】 1. はじめにこんにちは。先日、友人に勧められ、Netflixにて配信された北野武監督「首」を拝見しました。好きか嫌いかで言えば間違いなく好きな作品ですし、非常に面白く鑑賞できたのですが、一つの映画としての出来栄えで言えば、タイトルにもある様に、少々中途半端に感じました。本稿では、まず戦国時代好きとしての感想、その後に1人の一般観客として鑑賞した評価を述べようと思います。ネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意下さい。 2. 歴史好きとして

          [「首」解説・感想] 光秀の扱い雑じゃない?

          [フェルミ推定] ウクライナの徴兵規模は戦争末期の日本を超えたのか

          こんにちは。先日、友人のR氏とチャットで昨今の世界情勢について議論していると「現在のウクライナが戦争末期の日本を越した徴兵を行っている」という趣旨の発言がありました。そもそも、日本とウクライナという年齢別人口比率や海軍国家と陸軍国家、近代戦と現代戦という本質的な軍事基盤の違いがある両国で比較を行うことは適切ではない、というツッコミは置いといて、その比較結果が正しいのか気になって朝も起きれなくなったため、自分で検証してみることにしました。 始めはちょっとしたフェルミ推定で済ま

          [フェルミ推定] ウクライナの徴兵規模は戦争末期の日本を超えたのか

          [随筆・俳句] 曼荼羅や 降るは供に 小夜時雨

          冬のロンドンにて  落陽が窮屈な灰色の空から失せ、暗澹たる寒さに包まれた石造りの街並みに鐘の余韻が残る頃、テムズ川のほとりに悠々と屹立する観覧車に私は心惹かれた。そぞろ歩きの市内観光に刺激を与えたかったのもあるが、夜陰を背景に光明を放つ円環から、この荘重な街並みに似つかわしくない、どこか神秘的な佇まいを感じ、その正体を確かめてみたくなったのだ。  日中に遠目から見た観覧車は、静止した一つの象牙細工の様であった。現代的なデザインが周囲の建造物との親和性を持たないという声もあ

          [随筆・俳句] 曼荼羅や 降るは供に 小夜時雨