映画『敵』を観て
主人公：渡辺儀助（長塚京三）
原 作：筒井康隆 『敵』
渡辺儀助、77歳。大学を辞して10年、フランス近代演劇史を専門とする元大学教授。20年前に妻・信子に先立たれ、都内の山の手にある実家の古民家で一人慎ましく暮らしている。講演や執筆で僅かな収入を得ながら、預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるかを計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。収入に見合わない長生きをするよりも、終わりを知ることで、生活にハリが出ると考えている。
～ 後略 ～
不可解な部分が多かった
観終わって何時間たっても、頭は混乱していた
高齢男性の
一人暮らしとは思えないほど整然とした暮らしぶり
規則正しい丁寧な毎日
朝食には米を炊き、鮭の切り身をあぶる
夕食では、鶏レバーを牛乳で下処理し
他の部位とともに串に刺し
卓上の網で焼きながら、晩酌をする
料理の簡潔かつ手際の良さと
食卓につく凛としたその姿勢に
元大学教授のプライドのようなものを感じる
朝食後に挽くコーヒーが
ひとり時間を一層丁寧に味わっているように感じた
執筆は、書斎のパソコンでこなす
一人暮らしではあるが、ときどき触れる人間関係がある
親族や友人たちとは疎遠になったが、元教え子の椛島は儀助の家に来て傷んだ箇所の修理なども手伝ってくれるし、時に同じく元教え子の鷹司靖子を招いてディナーを振る舞う。後輩が教えてくれたバー「夜間飛行」でデザイナーの湯島と酒を飲む。そこで出会ったフランス文学を専攻する大学生・菅井歩美に会うためでもある。
ある日、パソコンに
「『敵』が北からやってくる」のメール
着信のたびに削除していたが
整然としていた毎日が、いつしか歪んでいく
関わりのある人間たちを巻き込んで
現実と妄想が混濁していく
この場面は現実か妄想か･･･
観ている側にも判断がつかない
『敵』とは
「死」ではないか、そう思った
「来るべき日」を受け入れて
泰然として、安らかに送っていた毎日は
「死」の恐怖から自分を落ち着かせるための
ルーチンだった
敵を意識してから失っていく平常心
亡くなった妻へ、してあげられなかったことへの後悔
教授時代、元教え子の鷹司靖子に抱いていた思い
現実と妄想の間で壊れていく日常と平常心
「生き延びるための生き方は受け入れられない」
「残高に見合わない長生きは地獄だ」
打ち立てたそんな定義も
死の恐怖には勝てなかった
一人で死期を迎える恐怖の大きさを
わたしは想像できない