嗅覚は個体生命維持のためにある?
嗅覚(臭覚)について
皆さんは、においに敏感ですか。帰宅途中の道沿いにただよってくる少し焦げた焼き魚のかおり。空腹の自分にはたまりません。「夕食は魚かな?」と、その家の夕食メニューを想像してしまいます。
タバコの香りがただよってくると、かつて自分も喫煙していたため、気になります。しかし、甘くて苦い香りは、現在は喫煙していないので、あまり快いものではありません。
洗濯後の衣服の香り(洗剤のかおり)。汗臭い(皮脂の香り)よりはましですが、香りが強いと堪えられません。満員電車内で、人々の衣服の洗剤の香りが、ストレスの原因になっていると聞いたことがあります。
嗅覚とは、鼻の中の受容体が空気中に浮遊する揮発性の化学物質を感知すること[1,2]なのですが、体内で化学反応を起こしているとは本当に不思議です。においを、体内のどこで、何を、どのように、どこまで感じるのか調べてみます。動物はさることながら、植物も香りを感じられるらしいのですが、この記事ではヒトの場合に限定します。★に疑問を書いています。
臭いの感じ方
・どこで
鼻腔の奥(天蓋、鼻中隔と上鼻甲介)にある粘膜(嗅上皮)の嗅覚細胞が感覚の源です。この細胞の膜にはGタンパク質共役受容体(GPCR)が存在します。この受容体が臭いをとらえます。ちなみに、このGPCRは味覚細胞にもあります。
受容体の種類は396種類もあり、嗅細胞の寿命は約20日から約30日と言われています[1]。 (★なぜ、嗅細胞の寿命は1か月なのでしょうか?嗅細胞が再生するとはすごい。どのように再生されるのでしょうか)
・なにを
空気にまじる化学物質(タンパク質が揮発したもの。ヒトが感じ取る物質、感じ取れない物質がある)をとらえます。
例えばLPガス、都市ガスはもともと無色、無臭で感知できませんが、硫黄化合物を添加してヒトがガス漏れに気が付くようにしているらしいのです。
(★ヒトが臭いとして感じる物質、感じない物質の違い。なぜ感じないのでしょうか)
・どのように
Gタンパク質共役受容体(GPCR) に揮発性物質の分子が結合し、細胞内のイオンチャネルが開き、脱分極して電気信号が発生します。
この電気信号を次の経路で大脳に伝達します。
受容体→嗅神経→嗅球→前梨状皮質→偏桃体→視床下部→大脳皮質嗅覚野(眼窩前頭皮質:がんかぜんとうひしつ)
・どこまで感じる
臭いとして認識は、各受容体に結合した化学物質を脳が識別、過去の学習した記憶と照合して行います。(★いかに記憶と照合するのでしょうか?)
ヒトによって臭いの感覚が異なるのは、OR4D4という嗅覚受容体遺伝子の配列に違いがあるからだと言います。
コラム
・匂いが複合すると感じ方が変わる?
https://www.asahi.com/articles/ASN6Z6TXMN6ZTIPE004.html
靴下のいやなにおいと、バニラのにおいをかぐとチョコレートのにおいがするそうです。信じられませんが、ご興味ある方はお試しあれ。
・精子(精細胞)も嗅覚受容体をもつ
下の記事によると精子は卵子を見つけるために臭い嗅ぐらしいのです。卵子が臭いを放っているとのことですが。男女がフェロモンを感じて求愛するとの話を聞きますが、精子もか! という感じです。
・つわりは胎児が発するホルモンによるらしい?
つわりは胎児が放出するホルモンと関係する | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio (natureasia.com)
・匂い感覚器官の解明でノーベル賞
米コロンビア大学のRichard Axel博士と米フレッド・ハッチンソン,
がん研究センターのLinda Buck博士は、匂いの受容体遺伝子の発見と嗅覚感覚の分子メカニズムの解明で2004年にノーベル賞を授与されました[3]。たかが臭いですが、匂い感知は人にとっては重要な研究だったのです。
おわりに
上で、たかが匂いと書きましたが、匂いと嗅覚は個体の生命維持、例えば危険から個体を守る、求愛して子孫を作る、脳を活性化するなど、人生に大きな影響を与える仕組みであることを認識しました。
参考資料
[2]https://en.wikipedia.org/wiki/Sense_of_smell
[3]匂いの帝王はアクセルとバック:嗅覚復権-ノーベル賞解説- | 生物化学研究室 (u-tokyo.ac.jp)
変更履歴
Rev.1 2024.4.25