危険予知訓練(KYT)の勧め
手軽にできる危険予知
危険予知訓練(KYT)と聞くと、大がかりな訓練を想像しますが、難しい訓練ではありません。KYTは、職場や作業中などに潜む危険な現象や有害な状況を引き起こす危険要因に対する感受性を高め、予防または解決していく能力を向上させるための訓練です[参考文献1]。 KYTは、危険の「K」、予知の「Y」、トレーニングの「T」の頭文字を組み合わせたものです。
この記事では、通勤災害と工場でのKYTの例を説明しますが、自宅、学校、病院などの施設、交通機関乗車中、自動車や自転車運転中に発生する災害についても危険予知訓練が可能です(付録に危険な場所、もの、状態を記載しています)。
通勤災害を防止するKYT
私が以前勤めていた企業では、通勤災害を防ぐために毎年1回、KYTを更新し、実施していました。通勤途中のKYTでは、次のような項目に対して例を記載しました。
予知される災害の場所:視界が悪い交差点、駅の階段、プラットフォーム(それぞれのシンプルな図も記載)
予知される災害の例:車との接触、転倒、衝突
予知される怪我の例:重傷、骨折、打撲
予知される周辺状況:雨天、列車の遅延および混雑
災害を予防する方法:視界が悪い交差点では、左右を十分確認し、安全を確認してから横断歩道を渡ります。雨の日には、滑りにくい靴を履き、駅の階段を注意深く上り下りします。プラットフォームが混雑している場合は、押し合わず落ち着いて行動します。自宅出発前に列車の遅延を確認します。
通勤災害
通勤災害の認定は厳格であり、通勤以外の目的地への経路で帰宅または出勤するとこの災害の対象外です。通常の通勤経路に戻る場合は労災補償の対象となります。[参考文献2],[参考文献3]
通勤災害経験
私が若いころに経験した通勤時の災害についてお話しします。
雨の中で傘を持ちながらバスから降りようとしたとき、ステップで足を滑らせ、尻もちをつき尾てい骨を強打したことです。最近は多くのバスがノンステップとなったため、このような事故は起きないでしょうが、当時のバスはノンステップではありませんでした。
怪我は軽度だと思い、勤務先には報告しませんでしたが、2週間ほどお尻が痛かったことを覚えています(湿布を貼ってました)。もちろん、休業もしませんでした。もし、通勤災害の報告をしていた場合、事故の詳細と予防策を報告書に記入することが求められたでしょう。雨の日には滑りにくい靴を着用し、段差のある場所では特に注意して上り降りすることが必要です。
工場や事務所でのKYT
通勤災害だけでなく、工場での作業においてもKYTは効果的です[参考文献1]。オフィス勤務でも、重い物を持ち運ぶ際[参考文献4]や背の高いキャビネットに物を出し入れする際の危険予知が必要です。なお、2メートル以上の高所での作業は高所作業とみなされ、ヘルメットを着用しなければなりません[参考文献5]。
危険なアルバイト
私は大学生のとき、高収入のために父親が勤めていた化学工場に、下請け会社を通じてアルバイトに行った経験があります。高い塔からロープを使って荷物を地上に降ろす作業をほぼ一日行いました。その塔の下方内部から噴出したアンモニア臭を吸い込み、気管が苦しくなり、アルバイトを一日で辞めることになりました。ヘルメットと作業靴と作業手袋はしていたのですが、マスクを着用せずに作業をしていました。その下請け会社では安全教育が行われておらず、初日から危険な作業を強制されました。マスクは必須でした。小さな会社は収益を追求する傾向があり、安全教育を怠ることがあるかもしれません。今考えると、化学工場でアルバイトすることは大変危険でした。当時、父親は亡くなっており、父親の友人から紹介された仕事でしが、記載したような仕事の情報を得る手段がありませんでした。もし父が生存していたなら、そのような危険な仕事を避けるように勧められたでしょう。今でも思い出すたびに、恐怖を感じます。
終わりに
労働安全衛生ではKYTはよく知られていますが、KYTは交通安全でもよく行われています。運転免許を取得されている方はビデオでKYTの事例を勉強されているかもしれません。[参考文献6]を挙げておきます。
一人で行うと予防策が十分でない場合があるため、チームで行うKYTとして4ラウンド法があります[参考文献7]。
これからもKYTにより、自分はもとより家族や関係者、そして社会生活をしている多くの人命の安全に関わるリスクを考えて行動することを学びたいと思います。働く人の安全については[参考文献8]に多くの事例が掲載されていますので、ご興味ある方はアクセスしてみてください。
付録
身近なところにある危険な場所、物、振舞い、状態の例をいくつか挙げてみました。他にもたくさんあると思います。
自宅:
キッチン(ガスコンロの火の消し忘れ、ガス漏れ)
浴室での転倒
浴槽内の溺水
階段での転倒
窓やドアで指を挟む
学校:
階段での転倒
プールサイドでの転倒
プール飛び込み時の怪我
プールでの溺水
プールの排水口に吸い込まれる
プール内のロープに挟まれる
体育館での体育の授業や部活での怪我
運動場での熱射病、転倒、衝突など
病院:
ベットからの転落
トイレでの転倒
レントゲン室での被ばく
誤った医療行為(不本意な医療ミス、または悪意のある看護師による事件)
バスや電車乗車時:
ドアに挟まれる
急停車時の転倒
満員電車、バス内での圧迫
停電時の車内温度上昇による熱中症
車の運転時や停車時:
ブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違え
前進、後進レバーの操作ミス
前進、後進時に人、子供の巻き込み
窓やドアへの挟み込み
車内温度上昇による脱水や絶命、特に停車中における子供の死亡
道路上での車と人の衝突(この点に関しては多々あるため詳細は省略)
衝突時の後部座席乗員の怪我(車外への飛び出し)。2008年の道路交通法改正により後部座席の乗客もシートベルトすることが義務化されています。
自転車運転時:
歩行者や車との衝突
車の(急に開いた)ドアに衝突
衝突を避けるための転倒
雨の日にブレーキが効かない
ヘルメットを着用していない(2023年4月1日からヘルメット着用が努力義務化されました)
参考文献
[1]KYT(危険予知訓練)とは?トレーニングの例題と目的・進め方 | Nikken→Tsunagu (nikken-totalsourcing.jp)
[2] 通勤災害について | 東京労働局 (mhlw.go.jp)
[3] 厚生労働省 資料.pptx (mhlw.go.jp)
[4]【重要】人力による重量物運搬は何キロまで?制限や安全に運ぶポイントを解説 (plus-automation.com)
[5]厚生労働省資料
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/170322-1.pdf
[6]KYT(危険予知トレーニング)に使える交通関係の事例・イラスト (hiyari-hatto.com)
[7]KYT 4R法 プリント (mhlw.go.jp)
[8]マンガでわかる働く人の安全と健康(教育用教材) (mhlw.go.jp)