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転職して学んだこと:顧客満足を得るための鍵となるポイント



はじめに

 私は約20年間、某企業で顧客が見えない部署(研究所)で働いていました。そのため、転職後に自身の「無知」を痛感しました。先端技術は持っているものの、顧客満足と対価を得るために何をすべきかの理解が不足していたのです。
 転職してから初めてPM(プロジェクトマネージャ)として活動したとき、問題が発生しました。顧客の要求が十分に理解できず、開発遅延が発生しました。その原因を顧客にうまく伝えられず、自分も含め自社のエンジニアの能力不足、顧客要求が何かを抽出できていないことをばくぜんとして伝えていました。その結果、請負契約にも関わらず、顧客からは作業指示としての仕事を押し付けられ、納品後も作業をさせられる始末でした。
 この苦い経験とその後のPM経験を踏まえ、また社内のPM経験者と情報交換しながら、顧客満足を得るための鍵となるポイントをまとめてみましたのでご紹介します。詳細な技術には触れませんが、製品(ハードウェア、ソフトウェア)開発を顧客から請け負う場合を仮定しています。

ポイント

信頼獲得:

 顧客の信頼を得るための3つのポイントについてご紹介します。顧客の信頼を得るためには、顧客のニーズに対応するソリューションを期待以上のサービスとして提供することが必要です。具体的には以下のようなことです。

  • 顧客要求を確認し理解する

    • そのためには、不明点を質問し顧客要求を明確化することが必要です。そして、納品物として何を納めるのかを顧客と合意します。

  • 要求+アルファの成果物を納期までに納品する

    • 期限内に品質の高い成果物を納品することで、顧客からの信頼と評価を得ることができます。

  • 顧客価値の提供

    • 顧客がもっていないノウハウまたは技術を用いて顧客自身が開発できない成果物を目に見える形で開発または作成することで、対価以上のサービスが提供されたと顧客に感じてもらうことができます。

    • ノウハウは貴重な資産ですので、適切な対価と契約のもとで顧客に提供することが重要です。

情報漏洩防止:

 顧客情報の流失や漏洩を防ぐための3つのポイントについてご紹介します。顧客情報の流失や漏洩は、顧客に損害を与える恐れが大きいため、社内での顧客情報の管理に留意しなければなりません。顧客及び開発製品情報のセキュリティを確保するためには以下のようなことが必要です。

  • 社内、プロジェクト内のセキュリティ対策を徹底する

    • 例えば、開発関連データの扱いには十分注意することです。PCのローカルディスクに情報を格納しない、USBなど、外部メディアに情報を記録しないことです。必要な人物のみがアクセス可能なフォルダ(場所)に保存することです。メールで送付する場合、クラウドでシェアする場合も暗号化することです。

  • メール送信の場合に、宛先を十分に確認する

    • 社内の人物へのCCはプロジェクトメンバーのみとしましょう。管理者がプロジェクトメンバーが送信したメールを確認可能な会社サーバ宛先にのみ送信しましょう。

  • 関係者以外が参加する社内会議で顧客から得た情報を開示しない

    • 顧客から得た情報は機密事項として扱われるべきです。関係者以外が参加する社内会議では、顧客から得た情報を開示しないようにしましょう。

透明性と誠実さ:

 顧客との信頼関係を築くための透明性と誠実さの3つのポイントについてご紹介します。プロジェクトの進捗状況や問題点を顧客に見える化して率直に報告し、迅速かつ綿密な対応策を提案することで、顧客の信頼を築くことができます。具体的には以下のようなことです。

  • 進捗遅延がある場合に顧客から受けた質問に対応する

    • 顧客からは、なぜ遅れたのか(スキルが足りないのか、リソースが足りないのか、スケジュールが甘かったのかなど)、挽回が可能か、可能ならいつまでに可能か、人を注入できるかなどの質問があります。

    • もしスキル不足で遅延した場合は、スキルのある人物がそのスキルが足りない人物を支援しながら、またはその作成物をレビューしながら進行するようにします。下請け会社はスキルがあるから顧客から仕事を依頼されたのであり、それがないなら顧客は下請けに発注しないからです。

    • 自分の経験では3週間遅れてしまったら、いくら残業しても納期に間に合いません。そのため、人員の注入が必要です。ただし、それができずに、土日返上で毎日遅くまで働いていたチームがありました。実際には、PMではどうしようもないため、部や事業部単位、会社単位での支援が必要です。

  • 問題点を顧客に報告した後に受けた質問に対応する

    • 顧客からは、その原因は何か、なぜ発生したのか、いつからそうなのか、その状況の話から始まります。顧客側に原因があるのか、下請け側に原因があるか、下請企業内で閉じる原因の場合、解決できるのか、そしてそれをいつまでに解決するのか、もし、その問題が解決できない場合、どのような状態になるのかを問われます。

    • 顧客側に原因がある場合は、提供する情報が十分でないなら聞いてほしい、勝手に進めないでほしいとよく言われます。

  • 顧客からの追加要求、要望がある場合に対応する

    • 顧客から「簡単だからこれやってほしい」と言われた場合は、慎重に判断することです。「はい、承知しました」ではなく、「検討させてください。○○日までにその可否を回答させて頂きます」が正しい回答です。追加要求を一度受けてしまうと、顧客は、下請けに言えばまたやってくれると誤解します。

    • ただ、このような状況が発生した場合、顧客の要求や状況の変化に柔軟に対応する姿勢が、長期的な関係構築につながるため検討が必要です。要求仕様に記載されていないからできないと頑な姿勢をとると、顧客の感情を害したり継続的な関係は難しくなります。依頼されたワークが大きい場合は、別の契約として発注いただくように誘導するのが最良ですが、ちょっとしたサービス(例えば1~3日分の作業)が今後の仕事につながるなら受けてもよいと思います。自分が勤務していた企業では、顧客との会議には、営業担当者が同席していました。彼らは技術はわからくとも、顧客からの要求が追加なのか否かを把握し、技術担当が追加要求を受けてしまうのを阻止する役目を担っていました。

コミュニケーションスキル:

 顧客との信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルの4つのポイントについてご紹介します。コミュニケーションは利害関係者どうし信頼関係の上に成立します。一方通行ですと意図が伝わったかどうかわかりません。利害が一致しないと、相手の意図が理解できないことがあります。逆に意図を理解して利害が一致します。そのため、意図や目的がわかるように会話をすべきと考えます。具体的には以下のようなことです。

  • 理由や目的を明確に伝える

    • 「○○した方がよいです」と言っても、相手はその理由や目的がわからないと納得できません。「△を防止するために〇〇した方がよいです」というように、理由や目的を具体的に述べることで、相手に意図を伝えることができます。

    • 日本では以心伝心という文化がありますが、技術開発では「以心伝心」ではなく、明確な理由や目的を伝えることが必要です。相手に自由に想像させてしまうと、誤解やトラブルの原因になりかねません。

  • 同じ用語を使う

    • 顧客と同じ用語を使用しないと、誤解する恐れがあります。技術用語については、用語集を作る必要があります。とくに略語で会話することがあるので必須です。

    • 用語は、顧客との間はもちろんのこと、プロジェクトメンバー同士でも同じ用語を使う必要があります。

  • 定期的な報告と議事録の作成

    • コミュニケーションは記録しておくことも重要です。定期的な報告(コミュニケーション)とその報告会議の開催、及び会議の進行と議事録(決定事項と未解決事項に関するアクションを明確にしたもの)の発行は、コミュニケーションの記録として必須です。議事録は社内の参加者で必ずレビューします。

  • 尊敬語や謙譲語を正しく使用する

    • 顧客に対する感謝の意を常に示すことが重要です。効果的なコミュニケーションは、顧客との関係を円滑にし、誤解を避けるのに役立ちます。尊敬語や謙譲語を正しく使用し、顧客に対して敬意を表すことが必要です。参考までに尊敬語、謙譲語について書かれた記事を掲載します[1]。 尊敬語、謙譲語を正しく使えるエンジニアは少ないです。ですから、これらを正しく使えば顧客満足が上がると思います。

    • 顧客を社内で呼び捨てにするのはやめ、〇〇さまや〇〇さんと呼ぶことが必要です。普段使っている言葉使いがつい顧客との会話に出てしまいますので、日ごろの心がけは大切です。ため口もNGです。

問題解決能力:

 顧客の信頼を獲得するための問題解決能力の3つのポイントについてご紹介します。問題が発生した際には、迅速かつ綿密な対応策を提案することで顧客の信頼を獲得できます。適切な人材の配置やスムーズな引継ぎ(PMのワークアイテムを普段から明確しておく)、不具合解決(なぜなぜ分析[2])など、問題解決には組織全体での実行が求められる場合があります。

  • 人材の配置

    • PMが病欠または転職などで交代する場合です。引継ぎが可能なら十分に行う。可能でない場合は、仕事を把握しているメンバーをPMに格上げして継続する。

    • プロジェクト内で解決できることばかりではありません。人的リソースの変更は会社としての責任を問われています。人材が多い大企業でもPMの交代はスムーズにいかないことがあります1

    • 可能なら、メンバーに、PMが可能な人物を配置しておくのが肝要と思われます。かつて勤務した企業では、プロジェクトAではPM、かつプロジェクトBではメンバーと掛け持ちして仕事をしていました。

  • 不具合解決

    • 不具合が発生した場合は、その原因や影響範囲を特定し、再発防止策や対応策を考えます。

    • 不具合解決には、なぜなぜ分析2という手法が有効です。なぜなぜ分析とは、問題の真の原因やボトルネックを見つけるために、「なぜ」という質問を繰り返して因果関係を掘り下げる分析手法です。

  • プロジェクトの進行

    • PMO(プロジェクト・マネージャ・オフィース)を配置して、プロジェクトマネージャが行う雑務を肩代わりして行います。会議設定、開催案内、議事録作成、問題管理、リスク管理、進捗管理などです。PMはこれらの進行、管理情報をもとに今、そして次に何をすべきかを考え、判断することが重要です。

プロフェッショナリズム:

 顧客に高い品質の成果を提供するためのプロフェッショナリズムの3つのポイントについてご紹介します。技術力はもちろんです。技術力向上のための社内勉強会は必須です。それ以外にも以下のようなことが必要です。

  • 文書管理や成果物管理

    • 開発と切り離せない文書管理や成果物管理など、細部にわたる注意が必要です。構成管理も必要です。要求仕様、設計書、作成した成果物の版、不具合管理などです。

    • 議事録はその企業の開発プロセス(整備されたものか否か、即ち品質管理が行われているかどうか)を判断する手がかりになります。社内で形式化されたものが使われているか。会議名、会議日時、参加者名、場所、資料はもちろんのこと、目的があるか。決定事項が分かるか。アクション(だれがいつまでに行う)が分かるか。管理のため文書番号、版、発行日を記入されているか。発行前に責任者またはPMが承認しているか。ちなみに議事録を議事メモとしてメールで顧客に送付するのは、議事録が管理されていない証拠です。

  • 会議運営や問題解決

    • PMに会議運営をさせるとそのPMの力量が分かると言います。たとえば、会議で決めることは何か。なぜ問題が発生したか。それをどう解決するのか。メンバーからヒアリングしながら方向性を示す必要があります。最後に今後の進め方をまとめて、アクションアイテムとして、だれがいつまでに何を(いかに)すべきかを決定し、顧客を含めてプロジェクトメンバーの合意をとる必要があります。これができないのならPMとしてスキルが足りませんので、さらに勉強(と経験)が必要です。ちなみに、PMが会議をファシリテートする場合、記録係が議事録を取り、その議事を確認して会議を終了するのがよいです。

    • 問題が発生した際には、迅速かつ綿密な対応策を提案することで顧客の信頼を獲得できます。適切な人材の配置やスムーズな引継ぎ(PMのワークアイテムを普段から明確しておく)、不具合解決(なぜなぜ分析[2])など、問題解決には組織全体での実行が求められる場合があります。

プロセス改善:

 顧客の期待に応えるためのプロセス改善の3つのポイントについてご紹介します。自社サービスやプロセスを継続的に改善し、顧客のニーズに的確に応えることが、信頼関係を築く鍵です。過去の経験やノウハウを活かし、以下のようなことを行います。

  • ノウハウの蓄積と活用

    • ある顧客から請け負った仕事は、他の企業でも同じように必要とされることがあります。そのため、仕事をすることで得られた成果物作成のためのノウハウを他の仕事でも活かせるように、例えば似たような仕事を他の顧客から請け負った場合、工数を削減できるように、さらには工夫により品質の高い成果物を作成する方法などをまとめておきます。

  • フィードバックの受け入れと改善

    • 顧客からフィードバックを受けた場合は、それを真摯に受け止め、改善につなげます。また、新しい技術や手法を取り入れることで、サービスの品質や効率を向上させます。

  • プロジェクト終了会議

    • プロジェクト終了会議では、プロジェクト全員と統括責任者、プロジェクトの営業担当も含めて出席を仰ぎ、成果と反省点について情報共有します。プロジェクトの振り返りにより、同じ問題発生や失敗の防止が可能になります。

まとめ

 7つに絞り話をしましたが、これらは顧客から信頼を得て顧客満足の向上に欠かせない取り組みです。これらのポイントを実践することで、顧客との信頼関係を築き、長期的な企業の成長と顧客満足を実現することができると考えます。

参考資料

[1]好印象な接客は言葉遣いから!マナー研究家が解説する敬語ルールと間違い敬語
https://biz.shufoo.net/column/useful_info/11829/

[2]なぜなぜ分析
【図解】なぜなぜ分析とは?手順や注意点・NGパターンも解説! (infinity-agent.co.jp)

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