演じる
「美咲ってピュアだよね」
「美咲って我慢強いよね」
そう言われると、そうでならなければいけないのではないか、という気がして、美咲は自然と言われたままの人柄を演じるようになった。小さい頃はそれでうまく生きてこれた。
学生の頃は「ここにはこういう人が必要」などと考えれるようになり、それを徹底して演じた。
例えば、学級委員をやる人は明るい人がいいと思えば、学級委員になり、明るい元気な女の子を演じた。
そんな美咲は今、女優になった。
「憑依型」などと言われ、役者としての地位を築いていった。もらえる賞はほとんど貰った。
猟奇的な女。いじめられっこ。母性あふれる女。身勝手な女。
殺人犯。不幸な女。
なんでも難なく演じることが出来たし、役作りなどしなくても演じている自分に、違和感すら感じなかった。
主演20本目の映画撮影。監督に
「本当のお前を出せ!」と怒鳴られたが、美咲は分からずNGを連発した。
本当の私?本当の感情?なにそれ…?
この映画を最後に美咲は30歳の若さで引退を発表。
「自分探しをしてみます」との言葉を残し、メディアから姿を消した。
いろんな役を演じて、自分そのものを見失った美咲は、一人になって考えてみたかった。
美咲は今、「自分を見失った女」を演じている。
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こうあるべきだ。と思ったら、そうなれることもある。
まずは自分の感情を変えてみないことには、何も実際の変化など起きないんだと思う。
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