感覚が死んでいく瞬間
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ファッション業界人の端くれとして、SNSなどでファッションニュースやそれに対する見解をアップしているのですが、これはある時起こった出来事。
その時、今年のトレンドは?ということで「ジェンダーレス」というワードが来るよ、とご紹介したんです。ジェンダーレスというのは「男女差のない」という意味で、その年は男性が女性ものを着たり、その逆であったり、どちらでも着れるアイテムが多く出てくるという流れの端緒でした。
詳しい話をすると、ロエベに新しいデザイナーが就任して、ガラッとコレクションを変えたのです。男性モデルも女性モデルも同じスタイルのアイテムを着たことが話題になっていたので、それも紹介しました。
実際、これ以降ジェンダーやLGBTの話題が盛んになったのは現実の動きを見れば明らかだと思います。
ところが、その投稿に見知らぬおじさんからのコメントが。
「現在そんな兆候はない。世相が全く見えていないのでは?」
は?誰?と思って辿ってみると、業界では有名な方でした。そういえばこの人の会社からセミナーの案内来てたな(笑)あんまり詳しく言うと分かっちゃうので言いませんけど。
直接面識がないのに、頭ごなしにこういうコメントをすること自体ちょっと失礼なのかなと思うのですが、いや相当だけど。また指摘した内容が間違っているというのがタチの悪いところで。
実際パリコレを現場で取材された方からも「ロエベが注目だよ」と聞いていたし、ファッション誌を見てもジェンダーレスについて取り上げられている。申し訳ないけど僕の分析の方が正しかった。
なにより、ジェンダーレスついて特集しているメディアにその方は寄稿していた。いや読んでないんかい!僕はその瞬間よしもと新喜劇なみにズッコケた。
僕も大人なので、各ファッションメディアで取り上げられていること、イギリスの著名デパート・セルフリッジでも特集コーナーが組まれることなど事実を列挙してやんわり指摘ミスを提示しました。返事はありませんでしたけどね、当然。
この件で感じたことは、やはり現場を離れると感覚が死んでいくという恐ろしい事実。ある程度著名な方でも、ちょっと現場を離れるとこうなってしまうのか、というショックも感じたのを覚えています。その方も以前はファッションのバリバリ最前線で活動していたようですが、近年はファッションというより社会の包括的な内容に対するコメンテーターになっていて、現場に足を運んでいないようでした。
それでも“ファッションのことなら任せろ”という自負があるから、ロクに調べもしないでパッと感覚や斜め読みで意見してしまう。これ非常に危険ですね。
特にファッションの世界って流れがすごく早いんです。
日々追ってないとトレンドの意味が分からないし、昨日の常識が明日には通用しないような世界。常にアンテナを張って、最前線にいないとすぐに遅れていってしまう。そこで過去の経験や知識でものを言うというのは、自殺行為に等しい。
感覚は磨き続けていないと簡単に錆びついてしまう。どんなに経験があっても、今を知らないと仕事はできません。
でも人間ってだんだん何でも分かった気になっていくんです。
ああ、どうせこういう事でしょ?
それ昔にもあったから分かる分かる
それこそが落とし穴なんだけど、変な自信や自負だけが付いていって、気づいたらプライドが肉襦袢のようになって軽快に動けない状態になっていた、なんてことになりかねない。
僕は最新のファッションやスタイリングのアイデアを提案していくのが仕事。感覚が死んでいく瞬間に立ち会って、恐ろしさを感じると同時に自分の感覚を生かし続けるために、リアルに死ぬまで現場に立っていようと誓ったのでした。
あ、でもデパートの売り場で死んだら迷惑か。
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