正調粕取焼酎 『ヤマフル』蒸留に挑む(5)
2005.04.13 by 桃中軒牛右衛門
■唐津焼の名匠、「中里太郎右衛門」陶房を訪ねる。
唐津市内のある蕎麦屋での昼食後、古舘社長から「佐賀の三右衛門」と呼ばれる中里太郎右衛門のギャラリーに行きませんか?とお誘いを受けた。器はわても好きなので、お邪魔することに。
「佐賀の三右衛門」とは、有田焼の酒井田柿右衛門、今泉今右衛門、そして唐津の中里太郎右衛門を指す。四百年の歴史を誇る唐津焼は、安土桃山時代の茶道の隆盛から発展し「一楽二萩三唐津」といわれるほど人気を博した。
わてはカミサンと筑前から唐津へとよくドライブをするので、鏡山の麓にある窯元を時折覗いてみたりする。
もちろん高額な茶器など縁は無く、わては昔から芸術作品よりも生活雑器が好きだし、またそれしか買えない。思えば茶道の茶器の多くも安南や中国の生活雑器だったわけで、見方を変えれば高価な珍品になるのは、焼酎も同様か。
確かにそうだ。静寂に包まれた高雅な門構えと庭園の設え、庶民にはなかなか気軽には入れない空間だ。
だが実際に入ってみると、そんなことはなく、落ち着いて作品を鑑賞することができる。「なんか買わないといけないから、入りにくいわね」ぬぅあんて心配は無用だ。でも、さすがに値段は良い。
■「商売人は、政治と骨董には絶対に手を出すな」
古舘社長は、故郷の様式である唐津焼が大好きらしく、なんとも言えない目で器を眺めていた。
集めてらっしゃるんですか?と聞くと、
時ならぬ儲けでお金が出来たら、女にマンションでも買ってやって・・・というのはどの世界でもよくある話だ(わてもやってみたいねぇ)。しかし、手間が掛かって儲けもできない正調粕取を復活しようという人の気構え、その確かさを感じさせるエピソードである。
最初のブースは比較的大衆的な器と価格帯のコーナーだった。渡り廊下を渡って中庭を眺めながら、もうひとつのブースへと向かう。
これまでの作品は中里太郎右衛門“工房”の作品で職人さんたちのものも含まれるが、次のブースは中里太郎右衛門氏手づからの芸術作品が収められる。
美しい中庭に窯元の格を感じる。カネさんも「すっ、すげえ鯉が泳いでる!」と感嘆。
作品を眺める古舘社長から喜々としたムードが感じとれた。わても陶磁器は好きなので、うっとりとしてしまった。
でも芸術作品、どれも凄い値段だ。鯉以上であらふか。0000000の数がまったく違うのだ。まぁ、この世界とくれば、価格は天井知らず。
下記画像は古舘社長が好きという「皮鯨」という様式。たしかにいい、これは。が、値段はというと・・・。
■メディアへの露出も増えた正調粕取『ヤマフル』
事務所に戻って奧の応接室で一息つかせていただく。古舘さんが事務所から持ってきたのは『ヤマフル』が取りあげられた新聞記事のファイルだ。
03年以来、時々送付いただいて記憶のある切り抜きから、最近掲載された目新しいものまで保存されていた。
今回の蒸留でも、新聞やテレビなど地元メディアのほとんどが取材に訪れたという。朝日新聞佐賀版でも記事となりネットでも公開されたのはわても見ていた。
古舘社長の地道な努力が、一歩一歩世間の関心を集めている。
■「こういう焼酎を造るのは、造り手の自己満足だよ」
わてはその席で、古舘社長に、ちょっと前にあった出来事を申し上げた。20人程度が集まって向かい合わせで飲むある焼酎会、わては員数合わせのためフリの客として顔を出した。
老若男女が各種原料の焼酎を試すセミナーみたいな宴たけなわ、主宰者より『ヤマフル無濾過 原酒』が飛び出してきた。常温である。
「やった!飲める!」とわては嬉しかったが、他の方はまったくその存在を知らない。冷凍貯蔵だったらなぁ・・・と危惧したのだが。
さてその反応は、ほとんどの参加者は香りで鼻を背け、飲んで驚愕していた。正調粕取の貴婦人中の貴婦人『ヤマフル無濾過 原酒』でさえ、彼らにはきついシロモノだった。それは予想されていたことで、わてはひとりボトルを抱えガブガブと飲みまくって反応を見た。
ところがわての目の前にいたある初老の紳士がボトルの裏書きを見ながら、こうブチ上げたのだっ。
「風前の灯火??なんだ?そりゃ?」「こういう焼酎を造るのは、造り手の自己満足だよ、自己満足!」
その姿を見て、『ヤマフル無濾過 原酒』が東京で初登場したとき、それを飲んだ東京に住む古舘社長の同級生の皆さんが「なんでこんな焼酎を造るんだ? 古舘君に電話して真意を確かめてやる!」といきり立ったという、以前古舘社長から伺った逸話を思い出した。
わての話を受けた古舘社長は、
先の焼酎会の結末はこうである。
わてがカッカッカ!と飲っていると、ちょっと一杯欲しいという人が出てきた。結果、会が終わった時に20人の中でただ1人、『ヤマフル無濾過 原酒』のボトルを抱えて帰る男性がいた。「これ、いいんですよ」と大事そうに・・・。
歩留まり5%、いや5.2%か。でも、それでいい酒なのだ、そういう焼酎なのだ。
(了)
【Folk Wisdom】への転載を許可いただいた鳴滝酒造株式会社 古舘正典社長に感謝致します。
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