再訪:「玄界灘の荒波に浮かぶ、離島のクラフトビール『ISLAND BREWERY』」
■2年後の2023年7月、また壱岐に渡る・・・。
2021年7月、開業早々だった壱岐市勝本町にあるビール醸造所『ISLAND BREWERY』にお邪魔した。オーナーである原田知征氏と再会したが、それからちょうど2年が経った。
最近のこと、風の便りに「地元産の高級バナナを使ったヴァイツェンが好評」との噂を聞いた。バナナ系ドリンク大好きな私としては矢も楯もたまらず、なんとか玄界灘を渡りたいと思っていた。
渡航の2ヶ月ほど前のこと。横浜に住む焼酎関係の知人が博多山笠開催に合わせて長期来福するとの連絡があり、壱岐にも足を伸ばすとおっしゃる。そこで、その渡航に同行させて貰うことにしたのである。
2年前の原田さんとの再会時は予告無し、突然の訪問。加えてビールの醸造技術について原田さんがお師匠さんに指導を受ける最後の日でもあった。そのため原田さんとゆっくり話すことが叶わなかったのだ。今回は、そのリベンジが目的だった。
渡航については、前回の2級船室から今回は1等船室に、ちょいと贅沢をしてみた。1等だと30分前からのチェックインが可能で、予約できれば2等のように満員時に乗り損ねることはないのだ。
先週来からの大雨で天気が優れない。そんな2023年7月の半ば、博多タワーが徐々に彼方へと遠ざかりながら、船は一路壱岐へ。
■オーナー原田知征氏と再会。お昼は雲丹を目当てに寿司屋へ赴くが・・・
出航から2時間ちょい、昼12時20分に壱岐の南岸、郷ノ浦のフェリーターミナルに接岸。航海としては程よく一息つける乗船時間だ。ビル1階に降りると、駐車場で原田さんが待っていてくれた。
まず昼食にとご案内いただいたのが、郷ノ浦にある『乃もと寿司』。ネットで検索するとけっこう高評価なのがわかる店。
老練の大将が、あえて壱岐水揚げのじげもんネタ尽くしで握って下さる。どれも旨い。最後だったか、対馬産の穴子を出していただいた。これがまた絶品だった! サクとした歯応えがあって、後口がとろける感じ。良い仕事ですよ。
この穴子については北九州市にある鰻の名店『田舎庵』の蒲焼きの食感を思い出しましたね。サクサクッとして、ネットリと凭れない舌触り。唸った。勉強不足だが、対馬の穴子がブランド化していたとは知らなかったなぁ。
で、肝腎の雲丹は?
大将に尋ねると・・・漁期が3月から6月くらいまでで、7月は漁が終わっている・・・と一昨年も時季はずれの7月にお邪魔したのを忘れていた。
さらに大将曰く、温暖化で赤雲丹の不漁がずっと続いており、獲れても地元の飲食で出せる値段では落とせない、ほとんどが大都市圏の料亭などに収まる、とおっしゃる。
壱岐の雲丹は,庶民には手が届かない”セレブ雲丹”と化していたのである。
もう随分以前のこと、原田さんからタッパに入った生雲丹をご寄贈いただいたことがある。摘まんでみて、こんな旨い雲丹が地球上に存在するのかと心底驚嘆したもんだが。でも、それも遠い昔の夢物語となってしまった。
■壱岐の海浜スポットを周遊させていただく。
昼食後は、海浜の名所をご案内いただいた。まず、古くから海水浴場として名が知れた『筒城浜』。
海を眺めていたら、原田さん曰く、最近の海水浴場としては『辰ノ島』が一番人気という。
ただそこへ向かうには観光遊覧船を使わねばならない。が、その遊覧船で無人島である辰ノ島周辺の海域を巡る40分の航海はとても気持ちいいとおっしゃる。
で、乗ってみた。
乗る前はどうかと思ったが、航海に出て正解だった。実に気持ちイイね。
辰ノ島。なんだか、”ふたりだけの恋の島”って感じのプライベートビーチみたいで人気スポットなのがよくワカル。
■ということで、海水浴・・・ではなく、ビール浴。
短い旅路の航海終えて、船が港に停まる夕刻。『ISLAND BREWERY』に戻り、原田さんの職人藝ビールを浴びることとする。
場内を拝見する。
その際、同行している焼酎関係の知人が言う。「ある地ビール関係の知り合いがいて、その人がいま創業を手伝っているメーカーの経営者が、原田さんが造っているビールの味が目標だと言ってるそうなんですよ」と。
同業のプロが認める味、か。
原田さんは、元が壱岐焼酎の若くして名杜氏と謳われた方だ。ジャンルが違っても、職人としての嗅覚、経営者としての才覚はさすがだと思った。
■やっと、バナナ麦酒にたどり着く。
壱岐にあるバナナ観光農園『BANANA FARM IKI』で生産された、農薬不使用で栽培されたバナナを使ったのが、この『BANANA VEIZEN』。とにかくこれが飲みたくて仕方なかった。通販ではすでに完売済。
『BANANA VEIZEN』の詳細については、公式サイトに詳しい。
『BANANA FARM IKI』のバナナは1本1000円という”バナナ=安価”の常識を打ち破る価格設定に驚く。が、実際に食べると価格相応に旨い、と原田さん。製造については、味や品質は変わらないが形状が規格外のものを仕入れて醸しているという。
ググと飲む。やわらかなバナナの風味が鼻をくすぐる。女性に受けそうな感じ。ボトルが完売するほどの人気なのは納得だ。
島を盛り上げるために、『ISLAND BREWERY』と『BANANA FARM IKI』の協働が実を結んだのだなあと、しみじみと飲み干す。
はてさて。一体何杯飲んだのか、正確には忘れた。『BANANA VEIZEN』を2杯、『YUBESHI CHOCOLATE』を1杯、飲み比べを1セットまでは覚えているが。
アテは、名物「イカのまるゆで」と「壱州鯛のすり身揚げ」。「まるゆで」は前回も食べて満足したが、今回初めてだった「壱州鯛のすり身揚げ」も良い味だ。すり身の旨味と芳ばしさ溢れる揚げ加減、これもなかなかイケル。
■壱岐の発展を目指して、広がる島内協働の輪。
島を盛り上げるための協働が実を結んだ、と言えば、レギュラーの銘柄についても同様である。
『ISLAND BREWERY』が使う原料で大きな特徴となっているが「白麹」。この焼酎用の麹を供給しているのは、かつての同業仲間であった重家酒造さんだ。その重家酒造で造られた白麹を使って『ISLAND BREWERY』の一本一本が醸される。
では、なぜ白麹なのか?
原田さん「”魚に合うビール”というBREWERY創業のコンセプトからすると、魚介の風味と合わせるには酸味とキレがある酒質がいいと考えたんですね。それで一般的な製法と違って、白麹を使った場合、白麹がクエン酸を多く出すので、より酸味を引き出せるわけです」
焼酎づくりに使われる白麹・黒麹はデンプン質を分解して糖化する際にクエン酸を多く作り出す。その酸が、南国の温暖な気候でも雑菌による醪の腐造を抑える効果を発揮してくれる。原田さんは、そのクエン酸のチカラをビールのペルソナに活かそうとしたわけである。
原田さんがこれまで焼酎杜氏として培った技術力が、壱岐独自のビールづくりを華開かせている。
タップルームで購入したレギュラー3種6本セットを持ち帰り、いま、家でちびちびと愉しんでいる。
そういえば、『ISLAND BREWERY』は、先日も九州ネットのテレビ番組に取りあげられたばかり。また著名人の来店も増えた。メディアへの露出はさらに拍車が掛かって、認知と話題が大きく拡散している。
「島を盛り上げたい!」「生まれ育った町を活性化させたい!」という原田さんの想い、それは着実にカタチとなっているようだ。
(了)