球磨人吉蔵元アーカイブズ 2001〜05(5) 寿福酒造場再び
■やっぱり「常圧瞼の母」・・・寿福絹子さんを表敬訪問。
今回の人吉への進軍。前回『繊月祭り』の戦況報告を行ったが、もうひとつの目的があった。それはあの“常圧瞼の母”寿福絹子さんとの再会であります。ご当地にお邪魔すると、やっぱり絹子さんにお会いして、絹子節を堪能、元気をたんとお裾分けいただきたくなる訳ですたい。
◇ ◇ ◇
峰の露酒造さんの前の道を川縁に向かう。隊長+あげまき+銀杏+猛牛で上流へと、とぼとぼ歩いて5分程度と近い場所に、寿福酒造場はある。向こう岸に煉瓦造りの古い煙突が見えてきた。目指す、絹子さんの蔵だ。
絹子さんを象徴する有名なフレーズとなった「常圧蒸留ひとすじの蔵」という文字が、ドン!と看板に横一閃。 この文句、気持ちイイですばい。
「ひとすじ」であるが故に、かつては時代遅れと言われたそうだが、現在では流れが絹子さんに向かって逆流し始めている。原点に帰ってきたということか。
■う! 絹子さんのカウンターパンチに、牛呆然。
事務所の玄関をカラカラと開けて中を覗く。絹子さんは机に向かって帳面づけの最中であった。「ごめんください」・・・お声を掛けると、「あ。いらっしゃい!」とシャキッとした絹子さんのご返答。
我ら4人、事務所の奧にある火鉢へと招きあずかった。寿福酒造場さんにお邪魔した方ならご存じ、あの横長の四角い火鉢とL字型の椅子の一角である。
それは、ちょうど事務用の椅子から立ち上がった絹子さんの横を、わてが通り抜けすれ違おうとしたその刹那だった・・・。
「今日は、娘はおらんけんね(ギラリ)」
のっけから「今日はあのお嬢さんがいない」という絹子さんからのカウンターパンチ。
う~(@_@;)。わては毛頭、寿福お嬢様のことは念頭には無かったのだっ。確かに当サイトで最も社会的貢献度が高いと読者諸兄の絶賛を頂戴しているコンテンツ「焼酎美女列伝」。しかし、今日は絹子さんへの表敬訪問が主目的。
“もしお嬢様がおらっしゃったらくさ、「あのぉ~、探検隊で若い蔵人さんを紹介するコーナーば作っちょるとですけど。良かったらお嬢様も出てくれんですか? いや、ちょっとだけ撮影させていただいて、ちょっとお話ば聞かせて貰うだけでちゅ」なんち言うて、蔵内でバチバチバチ! 「ちょっとストロボが弱いんで、川縁で人吉の風景をバックにちょいと」なんちお誘いして、球磨川の川面を見つめそっと髪に手をやるジョジョー的お嬢様のカットば、さらにバチバチバチ!バチバチバチ!バチバチバチ!バチバチバチ!ああ、イイ”
なんちゅーことは、爪の先ほども考えていなかった、わてある。
思うに今回の人吉行、事前に関係者数名に話を伝えていた。ま、まさか? 「牛が行くそうですから、お嬢さんを市房山に隠された方がいいですよぉ」なんちリークがあったのかも知れぬ。まさに「内なる敵」の謀略か? 相互監視、五人組制度が必要じゃて。
■大阪でのイベントについて、お話を伺う。
というわけで、絹子さんの一言に、文字どおり“武者返し”から蹴落とされた足軽となってしまったわてではあったが、絹子さんと我ら4人の話は続く。
絹子さんはちょうど一週間前、大阪で開催された焼酎イベントに参加された直後であった。
昨今の焼酎ブームは熱く、関西でも大盛況だったそうだ。団扇の裏側に掲載された銘柄を見ると、有名どころが並ぶ錚々たるもの。蔵元さんたちの力の入れ具合がよく解る。さぞかし浪花の空が燃え上がったことであろう。
絹子さんらしい微笑ましいエピソードである。
■リニューアル! 新装なった『武者返し』を拝む。
絹子さんを取り巻く最近のトピックスと言えば、まずは息子さんご夫婦にお子さんが誕生、ついにお孫さんを抱かれたこと。そして、あの『武者返し』のラベルがリニューアルされたことだらふ。
まずは、とくと新ラベルをご覧いただきたい。
ん~~~ん! わては好きですばい、この新ラベル。
お馴染みの、斜めに大きく貼り込まれたような色ベタに「常圧蒸留ひとすじの蔵」の墨文字がガーーン!と入った旧ラベルも、愛着はある方も多いでしょう。しかし、旧ラベルの場合は商品名が小さい。棚に並んだ時に他の商品と並ぶと、知らない人には視覚的“掴み”が今ひとつ弱い感じが、わてにはしていた。
新しいラベルはブランド名である“武者返し”の筆文字がドン!と引き立った感じで、旧ラベルとは違った存在感があるように思う。まるで絹子さんがこれまで歩まれた道のりのように、野太くどっしりとした力のある書体だ。書は人柄を表す、だろうか。
地焼酎がブームになった今、店頭での競争もさらに熾烈だ。商品名がしっかりと押し出されていることは、棚にズラリと並んだ際に視認性を高める上で極めて重要なことである。さらに、飲み手の意識が大きく変化したことも見逃せない。
旧ラベルの大きな特長(もちろんこれも視認性は高かったが)だった■は、今回のリニューアルでは肩ラベル(襷)にその持ち場を代えた。「常圧蒸留」の文字がしっかりと明記されている。
■改装なった絹子さん自慢の奥座敷へと、いざいざ。
話の途中、絹子さんが突然思い出したように立ち上がった。事務所の隣りの屋敷部分を改装して、来客用の奥座敷を設えたので良かったら覗いてみないか、と仰る。
「おお!それはぜひぜひ」。もちろん、是が非でもどんなものなのか見たい、野次馬根性丸出しの4人だ。絹子さんと一緒に事務所の玄関を出て、隣りへと向かう。
白い漆喰で真新しく塗られた古い商家の玄関先を見て、一同「おお!」。
さて、玄関を入ってみれば・・・・うっ!(・・;
■思わず和み、静謐な空間にこころ安らぐ五人であった。
三千世界の 焼酎空けて ここで昼寝が してみたい
(了)
■2022年追記:2020年7月、九州豪雨で球磨人吉は大きな被害を受けた。寿福酒造場さんも、蔵やご自宅も浸水の被害に遭われた。繊月酒造さんなど他の蔵元さんも大変なことになったが、コロナ禍のために駆け付けるわけにもいかず、離れでのあの一刻を思うと、本当に申し訳なく思っております。