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高畑充希、主演ミュージカル「ウェイトレス」★女性が描く、女性のリアルな悩み
アメリカの田舎(いなか)町で、束縛(そくばく)の強いモラハラ夫(暴力夫)に悩みながら、ウェイトレスとして働く女性が、思いがけず夫の子を妊娠。病院に通うが、そこの産婦人科医の男性と恋仲になってしまう――。夫と別れて医師と再婚するか、離婚してシングルマザーを選ぶか、それとも夫でガマンするのか。
NHK連続テレビ小説や民放ドラマ、映画などで活躍している女優、高畑充希(たかはた・みつき)が主演するミュージカル「ウェイトレス」(東宝などが主催)が2021年3月11日、日生劇場(東京・日比谷)で上演された(上演期間3月9日~30日)。2007年公開のアメリカ映画『ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた』をもとに製作され、2016年からアメリカのブロードウェイ・ミュージカルで大ヒットを記録した作品。
カタログから
この人気作品の日本初上演に、日本人キャストとして挑んだのは高畑充希をはじめ、宮野真守(声優)、LiLiCo(映画コメンテーター)/浦嶋りんこ(舞台女優)、宮澤エマ(女優)、渡辺大輔(俳優)、おばたのお兄さん(お笑い芸人)など。現代女性が結婚、妊娠で感じるリアルな感情が、軽快な音楽にのせて歌われ、コミカル時々シリアスにテンポよく描かれた。
https://www.youtube.com/watch?v=_iLdT2VBz2o
『WAITRESS』PV【30sec】
TohoChannel
アメリカ南部の田舎町にあるダイナー(プレハブ式レストラン)。そこでウェイトレスとして働くジェナ(高畑充希)は、ダメ男の夫・アール(渡辺大輔)に不満を抱えながらも、店の看板メニューである新しいパイ作りに没頭している。そんな仕事場で悩みを打ち明けるウェイトレス仲間は、姉御肌のベッキー(ダブルキャストでLiLiCo<11日など>/浦嶋りんこ)と、オタクで恋愛に臆病なドーン(宮澤エマ)。
https://www.youtube.com/watch?v=Dy3MGDs2pyQ
WAITRESS Opening Up !
TohoChannel
3人のウェイトレスは、三者三様の悩みを抱えている。そのうち、既婚者であるジェナ(高畑充希)とベッキー(LiLiCo)は夫に不満を持っており、2人とも不倫をしてしまう。一方、独身のドーン(宮澤エマ)は奥手だが、積極的なオギー(おばたのお兄さん)と結婚する。これからの幸せな結婚生活に希望を抱くドーン(宮澤エマ)と、すでに結婚生活に不満のある既婚者2人が好対照であることが、効果的な脚本・演出だと感じた。
というのも、ドーン(宮澤エマ)の結婚式に出席し、彼女の幸せそうな姿を見たジェナ(高畑充希)は、”私も幸せにならなければならない”という思いが絶頂に達する。そして、夫と別れて、新たな一歩を踏み出す決意を固めるからである。
恋人から妻、母親へ
だが、大胆な行動が目立つジェナ(高畑充希)も、実は、堅実に生きる女性であった。夫に不満を抱えながらも、関係を壊そうとはしておらず、不倫関係にも最初は戸惑っていた。
夫のアール(渡辺大輔)は、ミュージシャンをめざしていたが夢破れ、仕事も続かず、金をせびるばかり。そんな夫でも、ジェナ(高畑充希)はウェイトレスとして一生懸命働き、生活を支えようとしている。ただ、その関係は、夫婦というより、まだ恋人関係のようにもみえる。
そんなときに予想外に、夫の子を身ごもったことで、ジェナ(高畑充希)の心は揺れる。それは母になることを意味した。病院に通い始め、「妊娠はうれしくないけど産む」と複雑な心境を話すジェナ(高畑充希)。相談に乗る医師のポマター(宮野真守)と次第に相思相愛になり、お互いが既婚者であると知りながらも、一線を越えてしまう。
女性の幸福の多様化
最終的に、ジェナ(高畑充希)は出産するも、夫と別れ、一人で子育てするシングルマザーの道を選ぶ。不倫相手である医師の家庭を壊すのはイヤだとして、再婚を望まなかった。
ラストの展開をどう受け止めるかは、観客に委ねられる。ただ、それだけ女性の幸福に対する価値観が多様化している、ということなのだろう。
日本の場合、女性の幸福のイメージは、戦時中には銃後の妻、良妻賢母、戦後が専業主婦、そして近年は働く女性と、時代によって作り上げられてきた。多くの女性雑誌が多様な幸福観を提示する中、”幸せにならなければならない”というのが、自身からの発露ではなく、イメージによる強迫観念の場合は注意が必要な気がする。
女性たちが作ったミュージカル
本公演では、高畑充希の力強い歌声に、豊かな声量のLiLiCoの低音の響き、宮澤エマの高音域で透明感のある声が配されて、美しいハーモニーを生んでいる。この3人の生き生きとした歌唱力・演技力が、全体の強い推進力となって、観客までも感情の渦に巻き込んでいく。
一方、個性が光る男性陣の中でも、変わり者のキャラクターとして演技力が突き抜けていたのがオギー(おばたのお兄さん)。そのために、かえって興味深かったのは、現実にいそうなリアルな女性たちに対して、男性たちがマンガのキャラクター(一種の記号)のようにステレオタイプ化していたことである。
とりわけ、夫のアール(渡辺大輔)は、暴力を振るい暴言を浴びせるなど、”同情の余地なし”のキャラクター。実際にアメリカでは上演中にブーイングが起きたようで、ひたすら嫌悪の対象である。虚構の世界だからそれでもいいが、一つも良いところがない夫というのは、現実とかけ離れすぎではないか。子が生まれて父親の自覚を持つ夫の可能性を捨てており、モラハラとレッテルを張ることで、自らの不倫を正当化するも、結局すべての幸・不幸が男性に委ねられているという印象も受ける。
本作は、原作映画製作者である女性のエイドリアン・シェリーが、妊娠中に脚本を書いた。体の変化が著しい妊娠中に感じた、夫に対する不満や、さまざまな欲求、妄想を、赤裸々につづったものだ。だからこそ、多くの女性の共感を得たのだろう。ただ、出産後に書かれていれば、内容は異なっていたかもしれない。
本作のミュージカル化にあたっては、楽曲を手掛けたサラ・バレリスをはじめ、脚本や演出、振付をすべて女性クリエイターが担当した。女性にとって、結婚・妊娠・出産は共通の関心事。不倫、シングルマザーなどもアメリカ社会では身近な話題なのだろう。
終演後、客席からは「とても面白かった」という声があちこちで聞かれる一方、微妙な空気も感じられた。それはアメリカでよくある妻対夫という善悪二元論的な対立構図が、日本人には馴染まないからだろう。それは、子どもから見た視点が欠落しているのでは、と現実的に見る日本人の冷静な反応なのだろう。
描かれないが、横たわる問題
https://www.youtube.com/watch?v=JZccnrYn8dA
Waitress | Trailer | 20th Century Fox NL
20th Century Studios NL
本作からは、アメリカが抱える貧富の格差問題も透けてくる。アメリカの田舎町にダイナー、働いても生活が楽にならない白人の若夫婦という設定は、近年顕著な”白人の貧困層の拡大”を示す。ヒロインは「パイ作りの全国大会」で優勝して賞金を得ない限り、暴力夫のいる田舎町から逃げ出すことができないのである(本作では、別のラストが用意されている)。
原作映画製作者エイドリアン・シェリーは、映画公開直前、金目当ての事件に巻き込まれて40歳の若さでこの世を去った。その夫はのちに、女性映画製作者を支援する財団を設立した。私たちには”幸福追求”の権利がある、”信じればかなう”というヒロインのセリフを、女性たちへの応援メッセージとして受け止めたい。
▲上のリンクが公式サイトです▲
【★ひーろ🥺の腹ぺこメモ】有楽町駅周辺は、お気に入りの店ばかり。ただ、劇場近くだと、日比谷シャンテとその周辺が無難で、東京ミッドタウン日比谷は割高なイメージ(地下は割とリーズナブル)。
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