未上場の際に導入する従業員持株会のメリットと留意点
以前にnoteでまとめさせて頂いたとおり、ベンチャー企業において、ストックオプションは広く活用されている制度だと思います。
もちろん、ストックオプションも論点が多く、難易度が相応に高い為、このようにIVSでセッションを行わせて頂いたりもしました。
ただ、その中でふと、未上場企業において、従業員持株会ってSOに比べてあまり活用されていないんじゃないかと気付きました(上場会社ではよく活用されています)。個人的には、未上場企業における従業員持株会は活用の余地があると考えており、実際にオープンエイトでは未上場の従業員持株会を導入しており、多くの社員が活用する制度となっています。
後述しますが、未上場の従業員持株会について、引き受けてくれる証券会社が必要な為、主幹事を決めるミドル~レイターステージから活用を検討することが良いと思いますが、こういった実体験も踏まえ、改めて、制度概要や、メリット、留意点など整理をしようと思い、こちらのnoteをまとめてみます。
従業員持株会とは
念の為、従業員持株会とはそもそも何か、を改めて触れておきます。予め定められた金額を天引きし、従業員が会社の株式を買うことができる制度です。
未上場会社における従業員持株会の設計内容
前述のとおり、上場会社におけるインセンティブとしては、従業員持株会はスタンダードな制度だと思っており、導入している会社も多い印象です。これを、未上場会社において導入しようとした場合ですが、基本的な概念は、上場会社における持株会導入と変わりません。その中で違いがあるとすれば、
というのが、特徴として違うところだと思います。
従業員持株会を設計する場合、通常、以下などを従業員持株会の内容として設計します。
会員資格(自社/子会社/試用期間社員の取扱い/執行役員の取扱いなど)
入会受付 / 拠出金の変更月(年1-2回など)
月の拠出金額の最低 / 最大金額(最小1,000円~最大10万円)
奨励金の有無 / 金額
退会時の精算方法
未上場会社における従業員持株会のメリット
対会社、対従業員のそれぞれにとってメリットがあります。
対会社にとってのメリット
基本は上記2つが主な会社にとってのメリットだと考えています。ストックオプションについて、各社の思想がとても分かれる制度ではありますが、可能な限り多くの社員に対してストックオプションを発行しようとすると、その実務負担や、1人当たりのストックオプションの獲得数が少なくなりインセンティブ性が弱まることなどから、実施しにくい面があるのではないかと思います。
従業員持株会の場合、留意点で後述するとおり、未上場の時期(IPOで値が付く前)に定期的に株が買えることが前提にはなりますが、ストックオプションと同様、会社の株価が上がった恩恵を持株会の社員全員が受け取ることができる為、広く実施するインセンティブとしては優れた一つの仕組みだと考えています。
対従業員にとってのメリット
SOにおいて期待できる経済インセンティブに近しいものを受け取ることができるのが最大のメリットです。拠出額は、会社が設定した金額まで(制度上の上限は月10万円ですが、それ以下のこともある)の間で各従業員が好きに選ぶことができる(やらないこともできる)ので、各人の状況に合わせた資産形成が可能です。
あくまでも最終的に取得するのは株式ではあるので、会社が倒産する時などには、元本が保証されないリスクはありますが、奨励金が付されている場合(例えば3-5%など)、奨励金が実質的に金利に近い形でプラスとなりますし、万が一上場前に退職した場合も、原則として拠出金額全額が返ってきます。
未上場会社における従業員持株会の留意点
対会社にとっての留意点
従業員持株会の業務のみを単体で引き受けてもらえる証券会社は今のところあまりない印象です(こちらは僕の理解が違っていたら是非教えてください)。その為、未上場における従業員持株会は、主幹事証券会社がそのフォローの一環で引き受けて頂けることがほとんどだと考えており、裏返せば、主幹事証券を決める前のシード / アーリー期で活用することはやや難しいと考えています。
また、こちらは実務負担上の問題ではありますが、上場会社と異なり、市場から時価で持株会が株式を取得するという方法が取れないことから、半年なり、年間なり、定期的に持株会が株式を取得する必要があります。創業者などからの株式取得にせよ、新株発行にせよ、優先株主間契約などで株主からの事前合意取得が義務付けられていたり、株主総会決議が必要になることが多いので、それらの実務が発生します。また、それぞれで取得する株価が妥当であることを示す為に、原則都度株式評価をする必要があります。
対従業員にとっての留意点
一度過去に聞いたことがあるのが、従業員持株会という形式であるものの、株式取得時期がIPO後になっているケースで、この場合、持株会が初めて株式を取得する時期はIPO後になり、IPO後の時価で株式を取得することになるので、前述した、”SOにおいて期待できる経済インセンティブに近しいものを受け取ることができる” というメリットが消失します。(特に入社前において)この制度の詳細をどう確認すればいいか、などは難しいのですが、従業員持株会といっても色々なやり方があり得る点はご留意ください。
また、IPO後に株価が下落した場合や、会社が倒産した場合などは、それまでに拠出した元本を割れてしまったり、その金額が返ってこないこともあります。株式を取得する制度であり、リスク/リターンがあるものではあるので、それを踏まえて、最終的に加入するかどうかをご検討ください。
最後に
従業員持株会が全て万能と言うつもりも全くないですが、SOに比べて、活用している会社がそれほど多くなかったり、あるいは、あまりそのメリット / 留意点などまとめているものが少ないと感じ、今回のnoteを書かせて頂きました。僕の理解が異なっていることだったり、他にも何かしら大きな論点など存在するかもしれないので、何かあれば是非教えてください。
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