小説『引越物語』⑪四つ切りにするかハーフアンドハーフにするか
LINEが既読にならない。
時刻はもう23時である。
二ヶ月程前から、夫の正雄は、自分の仕事をわたしの仕事のスケジュールに合わせてくれるようになった。
節約のためでもあるが、わたしの視力と視界が変わってきたせいだ。夜に一人で歩くと危険だと言い、車で迎えに来てくれている。
お互いに仕事が終わると、近くの深夜営業しているスーパーで待ち合わせする。半額のお惣菜を買って帰るという手抜きが堂々とできるのが密かに嬉しい。
このまま日をまたごうかという時、電話があった。
「すまん、すまん。まーちゃんから電話があったきよ。」
「お腹空いて死にそうです。」
と、わたしはオーバーに言いながら、職場で食べたパウンドケーキを思い出していた。
カロリーは十分足りてる。食べなくてもいいくらいだ。一人暮らしなら…と、つい思ってしまう。
いや、わたしが先に買い物しておけば良かっただけだ。ダメ主婦だ…。
スーパーの駐車場側にあるカフェスペースで眠りこけてしまい、半額のお惣菜はもうなくなっていた。
わたしの顔が疲れ果てていたからか、正雄はこう言うのだった。
「俺のせいやき。今夜は家にあるものでちゃっちゃと済まそう。」
帰宅すると、義妹の菜摘がポテトチップスを抱えたまま眠っていた。
従兄弟のまーちゃんの電話は、短くて一時間、長いときは三時間も続く。認知症になって話し相手が殆どいなくなってしまったようだ。
正雄は、まーちゃんの唯一の友達であり兄弟となった。
去年の年末もらったお歳暮のそうめんを茹でながら、正雄は菜摘とわたしに電話の内容を繰り返した。
叔母は高知に住む気はない。
息子のまーちゃんのお世話にお金が今後もっとかかるだろうから、土地の状態で売りたい。
残りの半分は高知の親族で維持してほしい。
日本語は正しいけれども…。
「半分って意味がわからんすぎる!四人兄弟なんやけん、四分の一ずつやないが?」
計算は苦手とよく言う菜摘でさえ、こんな簡単な割り算の答えは3秒で解ける。
老人ホームに入居している叔父さんの分をもらうつもりなのだろうか。それとも、元気に暮らす叔母同士で話し合いが既に済んでいるのだろうか。
色々と簡単な割り算の式を立ててみたが、すぐに馬鹿らしくなってきた。わたしの土地ではないのだから。
ピザのようにはいかないのだ。
土地の分けっこは、どうしても各々の家庭環境や経済事情が絡み、互いが互いの条件を飲み込むのに時間がかかる。
それでも、後継ぎである正雄が小さな平屋を建てることには、誰も反対はしていない。これだけでも、テレビドラマや映画に比べたらマシなほうだろう。
わたしの望みは、着物をたたむのにちょうどいい高さの板をどこかに据えつけることのみである。
次はもっともっとになると思います☺️
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