小説『引越物語』⑧ないないね
お父さんが抱っこ紐で赤ちゃんをあやしている。
「ないなーい。」
小さなぬいぐるみがブルーの家に帰ると、赤ちゃんは泣き出してしまった。
「バァー!」
お父さんの青いトレーナーからウサギのぬいぐるみが出てくると、赤ちゃんはワウフウと笑顔になる。
子ども好きな菜摘とわたしは、久しぶりに互いの笑顔を目にしたのだった。
わんぱーくこうちは無料で誰でも利用できる、高知市で人気の憩いの広場だ。動物園と公園、そして小さな遊園地も同じ敷地内にある。使わなくなった路面電車が展示されていて中に自由に入ることもできるのも楽しい。東屋から池に来る鳥を眺めてぼんやりするのもオススメだ。
もうすぐ五月。
緑がキラキラからギラギラに変わっていく季節。
高知は一年の半分は蒸し暑い。洗濯物が大量にできる。
外に干しても乾く時間に帰宅できないのが、長年の悩みの種だ。わたしの帰宅は早くて9時。遅い時は10時になる。正雄は夜勤が増えた。二人とも働けるうちにと懸命だ。
それもこれも家を建てる為である。
正雄は諦めろというが、わたしは家でニートを続ける菜摘に洗濯物を取り込むようお願いしている。LINEで再度お願いしたところで忘れていることも多いし、たたんでくれていることは稀だ。でも、たまに覚えていて取り込んでくれているだけで、本当に有り難く感じる。お日様の匂いの洗濯物と湿った洗濯物では、たたむ気持ちが変わるのだ。
洗濯物の取り込みひとつでも義理家族との同居のストレスは溜まるが、時に喜びも生まれる。
正雄の後ろを、菜摘の歩幅に合わせて歩き続ける。
「ほんでよ、風呂に鏡はなしで。掃除がめんどかったき。電気やめてガスにしてよ、乾燥機は乾太くんにしたらえいろ。二人が足腰立たんなっても楽やお。」
夫の正雄は、終の住処のイメージを固めている……。
二人が足って、どういうこと??
二人=正雄とわたし
二人=正雄と菜摘
二人=菜摘とわたし
一体⁈
🏠次に行ってみよう🚶♂️🚶🚶♀️
前回のお話です(꒦໊ྀʚ꒦໊ི )