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詩小説『引越物語』⑮未希とマリオ
ふぃんふぉおん
脱力感いっぱいのインターフォンをもう一度鳴らす。
菜摘と婚約者の龍也が堪え切れず吹き出した。
「なんながコレ。全てがどうでもよくなる音やんね。こんなん聞いたことないで。」
口調こそ土佐弁ゆえにキツく聞こえるが、龍也はこの脱力インターフォンを気に入った様子だった。
「いらしゃーい!よーこそー!」
シャツのボタン三つ外しのマリオが登場して、龍也と菜摘、そしてわたしを順番にハグした。正雄は拒んでしまった。が、日本人のそういう態度に慣れっこな様子。マリオはお辞儀をして、にこやかに正雄の無礼を流してくれた。
「お、お招きありがとうございます。」
菜摘が珍しく一番に挨拶した。
心の中でガッツポーズをするわたし。結婚することが決まってから、義妹の菜摘は挨拶とお礼、そしてお詫びができるようになりたいと言い、機会があればチャレンジしているのだ。
大丈夫。大丈夫。
どこかのCMみたいな台詞を、わたしは心の中で言い続けた。菜摘が他人の家で食事するのは人生初だ。
友人の未希は、知らぬ間に外国で働いて知らぬ間にイタリア人マリオと結婚していた。わたしに奇妙なミッション『小説 引越物語』の執筆を与えておきながら、日本を離れて人生を謳歌していたのである。
「未希ちゃん、カンボジアでイタリア人の彼氏ができる人生って、なんかなんかオシャレでえいね!」
菜摘は悪びれる様子もなくそう言った。
正雄もわたしも顔から色が消えていく。
「でっしょう?我ながら素晴らしい人生だと思うのよ。」
言われた当の未希は、褒められたことを素直に喜んでいるようだ。
「マリオー!私達オシャレなんだって。」
「うんうん。そーでしょー。」
マリオは未希と知り合うまで日本語を話したことがないというが、話し始めて半年とは思えないリラックスした会話に、正雄もすっかり鎧兜を脱いだのだった。
マリオがデザインし組み上げたというアイランドキッチンでは、ショーが始まっていた。
日本酒の名が織り込まれた前掛けに身を纏ったマリオが、カンツォーネを熱唱している。
マエストロ・マリオは渾身の明太子パスタを制作中だ。
海苔は日本橋で購入した江戸前。明太子は福岡からお取り寄せ。そして、我が家では年に一度お目にかかれるかどうかの土佐ジロー玉子が10個。
イタリア系日本人とでも言えばいいのか。マリオは日本文化が好きで、茶道・華道を嗜むと話してくれた。和食もお手のもので、旅館の厨房で働いていたこともあるそうだ。
未希は、彼の『ほほにかかる涙』を、ただ浸って聞いていた。
わたしが知っている未希は、職場で鬼軍曹と陰口を叩かれるほど人を圧迫する話し方をするし、相手の話が終わってなくても食い気味に割って入ってきて、自分の言いたいことを伝えてしまう人だった。
人も家も荒浪にぶつかって、まーるくなる。
マリオと未希に幸あれ!!
🍽️次のオススメメニューです☕️
前菜です🫒🫓
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