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静岡おいしいもの巡り~静岡旅④~

甘味処『どんぐり』はコ口ナ禍になる前からわちこさんが行きたいと言っていた店だった。商店街のような小道にある店なので、近くの駐車場に止めて歩いて向かうことにする。

3年越しの実現に、彼女の足取りも軽い。わちこさんはイチゴミルクの写真(写実的なイラストだったかもしれない)がプリントされた可愛いトレーナーを着ており、彼女の”やる気”を感じさせた。

「いいですね、イチゴミルクの服着てイチゴミルク飲むの」

私がそういうと、わちこさんは自分の服をチラリと見た後「飲みません、イチゴミルクは好きじゃないので」と言った。

凄まじい衝撃に打ちのめされた。
「え……え……なんで着てきたんですか?」
「買ったばっかりだし、可愛いからです」
「イチゴミルクが嫌いな人間っているんですか?」
「います」
「そんな……イチゴミルクに悪いと思わないのかよ、イチゴミルクも今びっくりしてるよ。"え!?私のこと好きじゃないのに、どうして選んでくれたの……?"って」
「あはは、ひらやさんは想像力豊かですね」

笑っていなされ、私はカッとなって「やる気満々に見せかけてなんてザマだ」「だからメンヘラ製造機って言われるんだ(私しか言ってない)」「イチゴミルクに謝れ」「私の方が絶対イチゴミルクのこと幸せにできる」「トレーナー脱いで誠意を見せろ」とダル絡みしたがすべて無視された。


『どんぐり』の外観はまさに甘味処といったつくりで、ショーケースの中にサンプルが行儀よく並んでいる。2、3人の人がショーケースを覗き込んでいたので、ひとまず店内に入ることにした。


店内中央にはU字のカウンターテーブルがドンと構えている。このカウンターテーブルが『どんぐり』の最大の特徴なのだ。

「おお……本当に川が流れてる」

回転寿司のようなイメージをしてもらえれば早い。コンベアにあたる部分には水が流れており、店内の一番奥にある調理場の穴から料理の乗った桶がどんぶらこと姿を現す。

「リバーカウンター」と呼ばれるもので、昔の喫茶店にはよく見られたらしい。私も幼少期、個室の障子をあけると川が流れていて、料理がお盆に乗って運ばれてくる日本料理店に連れて行ってもらったことがあった。

維持費が大変なのか近年はめっきり見られなくなったそうだが、一周回って昭和レトロがブームになる今、『どんぐり』も若者の間で「動画などに撮ると映える」とブームになっているのだそうだ。

「先に食券お求めください」

忙しそうな店員さんにそう声を掛けられ、店に入ってすぐ左側に設置された券売機を見る。商品名と価格だけがボタンに書いてあった。メニューが多い。50はあるのではないか。

「しまった、写真ないんですね」
「あ~ショーケース見てくればよかったな」

後ろにも人が待っているため、慌ててお金を入れる。わちこさんは元々目をつけていたフルーツポンチ(ブルー)のボタンを押した。

「うーんパフェ3種類あるけどどうしようかな……決められん、わちこさん選んで」
「じゃあフルーツパフェ」
「え~チョコがよかったナ」わちこさんが「ふざけるなよ」という顔をしたので私はフルーツパフェを押した。


満席だったが、回転が速いのかすぐに席に案内してもらえた。
調理場に近い席だった。目の前には「川崎」と書かれたライトが設置されている。隣の席はそれぞれ「品川」「保土ヶ谷」の文字があった。
歴史が苦手な私でもうっすらと記憶が蘇る。

「これ、あれですね。なんか歴史の教科書に出てきた宿のやつ……五街道のさ、なんだ……?東海道だっけ……?そこの宿場みたいなやつ」(正解:東海道五十三次)
「何もわからん」

食券は置いてあるホルダー(こちらにも川崎の文字がある)に挟み、目の前を定期的に流れてくる空の桶に乗せる。それはゆっくりとカウンターを流れ、調理場へと帰っていく。

「あれで注文が通るんですね」
「なるほど、この宿町の名前が席番号の代わりになってるんだ」

そんな話をしているうちに、他の客が注文したあんみつやらパフェやらが桶に入ってゆっくりと流れていく。同じ注文でも間違えないように、料理が入った桶にはタグが立てられている。


「私達の席、いいですね。川の上流だからすべての食べ物を見ることができる」

くるくると優雅に水の上を回りながら流れていくカラフルな食べ物やお茶漬けを目で追いながらそう言うと「あまり人のものガン見しないでください、みっともない」とわちこさんが突っ込む。

注意を受け、ふん、と川から顔を背けて調理場の方を見る。調理場は料理を流すための穴が開いてるばかりで中の様子を伺うことはできないのだが、私の目は釘付けになった。

”川崎”の前、つまりは”品川”の席に大学生くらいの男性2人が座っていた。私達よりも前に案内されていたのか、席の前にある”品川”のランプが光り、彼らの注文は程なくして流れてきた。2人は手を伸ばし、素早く料理を取った。空の桶が再び流れていく。

奥の子は大きなパフェを、手前の子は雑炊のようなものを食べ始める。パフェをつつきながら奥の子が何かを話している。隣の男の子は雑炊を掬いながら度々相槌を打つ。時々話すことに夢中になりすぎてパフェを放置し、身振り手振りでお喋りを続ける。雑炊から顔を上げて隣をチラリと見、また相槌を打つ。

何気ない日常の風景ではあるのだろうが、なんだろう、目が離せなくなったのだった。

わちこさんは私の視線に気付き「おい」「見るな」と制止してきたが「私達の料理がいつ出てくるか見てるの、邪魔しないでください」とその手を掴んだ。

手前の子はあっという間に雑炊を完食すると、お椀の蓋をして軽くまとめ、丁寧にマスクをつけた。奥の男の子は相変わらず、スプーンでつつきながらまだ何かを話している。そんな彼を、雑炊の男の子は急かすこともせず、頷いて聞いている。結局パフェはつもる話と共にゆっくりと消化され、私達の注文が届くころにようやく2人は立ち去ったのだった。


”川崎”の文字が光り、フルーツが盛りだくさんになったパフェとブルーポンチが流れてくる。感動しながら呑気に写真や動画をとっていたが、あっという間に流れて行ってしまいそうになるので、2人がかりで慌てて桶を掴む。私が桶を掴んでいる間に、わちこさんがグラスを移動させた。手を離すと空の桶は再び揺蕩っていく。


チョコレートパフェ美味しそうだったナ…

パフェに乗っていたメロンを無断でわちこさんに押し付けながら「なんか、いいものを観た気持ちです」と話す。

押し付けられたメロンを迷惑そうにグラスに盛り直しながら、わちこさんも頷いた。

「確かに、いいものでした」
「たぶん雑炊食べてた子はパフェ食べたかった子の付き添いなんだろうなって」
「そんな感じでしたね。何も言わずに食べ終わるのずっと待ってたもんな」
「すごくかわいいものだった、今の私達にはないものですね」
返事がなかったのでチラリと横を見ると、わちこさんは黙々とフルーツポンチを食べていた。

食べ終えた食器を空の桶に置き、放流すると「ごちそうさまでした」と言って店を出た。

店を出たあとに見たショーケース。種類豊富

本当はパフェと一緒にほうとうも食べたかったが、我慢した。この後すぐ私たちは「さわやか」に向かうつもりなのだ。

夕飯の時間だけが決まっていたため、できるだけ早くハンバーグを食べなければならない。

臨機応変に動けるよう店舗は決めていなかったが、運転するわちこさんの横でリアルタイムでわかる待ち時間を調べ、目的地へのルートに近い店を探すことができた。
しかし「A店が近い!A店にしましょう」と言ったすぐそばからB店の待ち時間が大幅に減るなどかなり翻弄されたため、あらかじめある程度の店舗は決めておいた方がよさそうだった。

これは次回の反省点にしよう。そう誓いながらさわやかを目指す。慣れない静岡の道に苦戦しながらもさわやかの看板を見つけ、わちこさんは駐車場に入れた。

先に店に飛び込んだ私は、駐車をした後で入店してきたキレ気味のわちこさんにしこたま叱られた。
これはまったく覚えがないというか、まあそんなことをしたかもしれないな……という記憶なのだが、私はまだ車が止まっていないうちにシートベルトを外して飛び出していき、店に走っていったのだという。
危ないだろ、運転してる私の身にもなれ、お前が走ったことで待ち時間が変わったのか(変わってない)、店員さんがこっちを見て笑ってるだろうが、いい歳してみっともない真似をするな、そんなことをたくさん言われた。待合室をバタバタと走り回る少年よりも叱られていた。

あまりにも叱られたせいでハンバーグの味は覚えていないが、たぶん美味しかったと思う。

記憶にないハンバーグ

食べ終えた私達はホテルへ向かい、荷物を置いて着替えると夕食を食べに出かけることにした。

この人たちずっと何か食べてるなぁと感じるかもしれないが、それは私が食べるシーンをたまたまエッセイにまとめているだけというのもあるし、実際にこの日は一日中食べることしかしていないのだ。

佐鳴湖畔に面したレストラン「The Oriental Terrace – ジオリエンタルテラス」に向かう。

続く

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