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卒業式に担任が持っている名簿の台紙には心がこもっている

森信三『修身教授録』致知出版社 第27講 成形の功徳

卒業式に担任が唯一手に持っているもの。
児童呼名用の名簿だ。
それのみ手にもって子どもたちと会場に入る。
担任が立ち上がり、一人ひとりの名前を確認し、心を込めて呼名する。
子供たちは返事をし、証書をもらう。
全員の証書授与が終わると担任は椅子に腰かけ、涙を流す。

卒業式の一場面だ。
私の場合、初任・2年目と担任した5,6年生の子どもたちの呼名を終えた後、椅子に座って泣き、まともに子どもたちの顔を見られなかったのを思い出す。

さて、唯一担任が手にもっている呼名用の名簿は、前日にきれいに作る。
厚紙に和紙を丁寧に貼る。
そこに、拡大した名簿を貼りつける。
場合によっては内側に、子どもたちとの思い出の写真を貼ったり、画用紙で飾りをつけたりする。

はじめての卒業式で先輩にこの台紙を一緒に作ろうと誘っていただいた。
「あなたもこれを後輩たちにやってあげるのよ」という言葉と共に。
いただいたとき、きれいでありがたいな、という思い程度であったが、卒業式を終え、すべての思いを込める呼名の際に使用する教師の最後の教具であるものの大事さが分かった。
最高の思いを込めて、丁寧に作る。
こういう心の作法を教えていただいたのだ。

それから私は3回ほど6年生を送り出した。
呼名後に泣かなくなったものの、心を込めた最後の瞬間であることには変わりなく、前日に心を込めて台紙を作成していた。

これ私がここに、「成形の功徳」という言葉で言い表そうとしているものであって、そこには確かに功徳という言葉にふさわしい、ある種の不思議な力が働くとさえいえましょう。
・・・中略・・・
すなわち、内容としては同じものでありながら、しかもそおれに形を与えるか否かによって、その物の持つ力に非常な相違が出てくることを言うのであります。

P185~186

当然紙1枚の名簿を持ち、胸ポケットから出して呼名し、また折りたたんで胸ポケットにしまう、という方法もあろう。
しかし、きれいな和紙をはり、飾りをつけ、心を込めて作った台紙にはり付けた名簿で呼名というのは、そこに教師の思いが乗ると思うのだ。
それだけ真剣に向き合うため、物にエネルギーを与える。
そしてそれが力をくれる。

こういうものが卒業式に担任が持っている名簿なのだ。
もし担任が持っている名簿を見ることがあれば、その先生の思いが込められているんだなぁと思ってみていただきたい。
先生の子どもたちへの真剣な思いが詰まっているものなのである。

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