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米粉パンの強い味方、HPMCとは
こんにちは。
グルテンフリーの米粉パンや、グルテンフリーのミックス粉を買うと、食品添加物欄にHPMCと書いてあります。HPMCはヒドロキシプロピルメチルセルロースのことで、植物に含まれているセルロースの構造の一部を化学的に変えたものです。そんなものが入っているのなら、買いたくないと思われるかもしれませんが、安心してください。HPMCは食品添加物の中でも、かなり安全な部類に入ります。今回は、グルテンフリー生活でよく見かけるHPMCについて、解説します。
HPMCはグルテンの代わり!?
米粉だけでパンを作るのは、かなり難しいです。それはグルテンが入っていないため、発酵のときに生地がうまく膨らまないからです。熊本製粉が出している「九州ミズホチカラ米粉」を使って、説明書きのとおりに作れば、HPMCを使わなくとも、ホームベーカリーでふっくら美味しいパンができますが、他社の米粉では同じようにはできません。米粉の粒径とでんぷんの損傷度に違いがあるからと思われます。米粉の粒径が小さいほど、発酵で生じたガスを閉じ込めることができ、またでん粉の損傷度が少ないほど、米粉による吸水・ゲル化・老化が起きにくくなるので、熊本製粉さんの米粉は、粒径が小さく、揃っており、またでんぷんの損傷が少ないのでは、と推測しています。
ところでHPMCを使えば、米粉の性状に影響されずに、ふっくらとした米粉パンができるようです。HPMCは食品添加物なので、手に入れることは難しく、実際に試してはいませんが、市販の米粉パンや、米粉パンミックス粉、小麦粉以外の粉を使ったグルテンフリーミックス粉には、必ずといっていいほど、HPMCが入っています。
HPMCを作っているメーカーのホームページを見ると、生地に粘弾性を与え、焼しぼみを抑制し、焼きあがったときのボリュームを保つとあります。焼しぼみというのは下の写真のようなものです。発酵しているときは生地が膨らんでいますが、焼くとしぼんでしまう現象です。
HPMCは増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料などとして使われます。増粘剤ならほかにいろいろありますし、片栗粉も増粘効果を示すので、米粉に片栗粉を混ぜればいいんじゃないか、と思うかもしれません。でもHPMCの増粘効果は、きわめて特殊なのです。一般的な増粘剤は、加熱すると粘度が下がって流動性が増し、冷えると粘度が上がって固まります。ところがHPMCは逆で、温度が上がると粘度が上がって流動性が失われますが、再び温度が下がると流動性が回復するのです。
また時間とともに性質が変化せず、安定性に優れているという特性や、他の成分と相互作用を起こしにくいという性質もあります。
米粉パンに話を戻しましょう。まず米粉だけで作った生地は、グルテンが入っていないので、粘り気がありません。ここへHPMCを加えると粘度が上がり、粘弾性のある生地になります。発酵のときには生地の内部でガスが発生しますが、生地に粘弾性があるため、ガスを生地の内部に閉じ込めることができ、ふっくらとした生地ができ上ります。粒径の小さい米粉を使えばここまでは可能ですが、パンを焼くために生地を加熱すると、いったん糊化したでんぷんが老化するため、生地がしぼんでしまいます。HPMCは耐熱性があり、また結着性が優れているため、でんぷんの粉をしっかりと結びつけて、パンがしぼむのを防いでくれます。その結果、ふっくらしたパンができあがるのです。
HPMCには保水効果もある
HPMCは焼きあがった後も、効果を発揮します。米粉パンは数日でパサパサになり、表面が餅のようになってしまいます。これかでんぷんの粒の間に入り込んでいた水分が蒸発し、でんぷんの粒同士が引っ付いてしまうからです。HPMCは保水性といって、水分を保持する力があります。焼いたパンにHPMCが含まれていると、HPMCが水分を保つために、パンが固くなるのをある程度防いでくれます。市販の米粉パンが餅パンになっていないのは、HPMCのおかげです。
これはコンビニにおにぎりに、トレハロースが使われているのと同じことです。トレハロースは水分を保持する力が強いので、おにぎりにトレハロースを加えることで、おにぎりが乾燥してパサパサになるのを防いでいます。
米粉パンにHPMCはどれくらい入っているのか
これは米粉パンのメーカーに聞いてみないとわかりませんが、HPMCのメーカーが出している情報によると、標準的な添加量は0.5~1%だそうです。食パン1枚60gなので、1%添加されているとすると0.6gです。HPMCは不溶性食物繊維なので、食物繊維を余分に摂れたと思えばよいでしょう。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)によると、成人の食物繊維の摂取目標量は、1日あたり女性が18 g以上、男性が21 g以上です。現状では目標量の2/3程度しか摂れていません。
HPMCの原料、製造方法、安全性は
HPMCの原料は木材パルプと思われます。要するに、木屑を精製したものです。木屑なんて食べたくないと思うかもしれませんが、もうすでにたくさん食べているので、安心してください。
木材パルプから、まずセルロースが作られます。セルロースは食品添加物として広く使われており、わたしたちが食物繊維として食べているものの一部は、このセルロースです。セルロースは野菜や果物にも含まれているので、安全です。ただ、木屑からつくられたいう点が少し引っかかりますが…。
セルロースには、水酸基(-OH)がたくさんありますが、化学反応によって水酸基(-OH)の20~30%をメトキシ基(-OCH₃)に、4~12%をヒドロキシプロピル基(-OCH₂CHOHCH₃)に置き換えたものが、HPMCです。化学反応とは、セルロースを水酸化ナトリウムで処理した後、塩化メチルや酸化プロピレン、あるいは酸化エチレンなどのエーテル化剤と反応させているようです。
このHPMCという食品添加物、果たして安全なのでしょうか。結論から言えば、安全です。食品添加物にはいろいろなものがありますが、その中でも、安全な部類に入ると思います。理由は3つです。
◆ 口から入ってもほとんど体内に吸収されない
HPMCはセルロースと同様、ほとんど吸収されません。「ほとんど」といっているのは、一部の腸内細菌がHPMCを分解し、ガスと脂肪酸を作るからです。脂肪酸は、ごく少量ですが大腸から吸収されます。
◆ 発がん性、遺伝毒性、生殖毒性、発生毒性がない
発がん性は正常な細胞をがん細胞に変化させる性質、遺伝毒性はDNAや染色体などに作用し、その構造や量を変化させる性質、生殖毒性は親の受精、妊娠、出産等に対する毒性、発生毒性はこどもの早期死亡、形態異常、発育遅延、行動機能異常などを引き起こす毒性ですが、HPMCにはいずれの毒性もないことが実験によって確認されています。
◆ 長期間使用されているが何も起きていない
HPMCは2007年2月に日本で食品添加物として使われるようになる前から、米国で食品添加物として使用されてきました。これまでに健康影響の報告はありません。また食品添加物として使用する際に設定される場合があるADI(一日摂取許容量)も設定されていません。これは摂取しても安全であることの証です。さらにHPMCは食品添加物として使用されるようになる前から、医薬品の添加物として使用されています。
いかがでしたか。
HPMCが入っているからといって、買うのをためらわないでください。もちろん食品添加物なので、入っていないにこしたことはないのですが、食感をよくしたり、保存期間を延ばしたりと、いろいろなメリットもあります。食品添加物をすべて避けるのではなく、内容をよく知ったうえで、自分で判断なさってください。
まとめ
・HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルコース)は、増粘剤や安定剤として使われる食品添加物で、米粉パンやグルテンフリーパンに入れることで、グルテンの代わりになり、ふっくらしたパンを作ることができます。またパンが乾燥するのも防ぐことができます。
・HPMCは食品添加物のなかでは比較的安全な部類です。消化・吸収されず、発がん性や遺伝毒性もありません。また長期間使用されていますが、健康影響などは報告されていません。