【梗概】Last Dance
宇宙局のレーダーはある惑星からの電波を約10年ぶりに受信する。惑星は第二の地球となっていた。500名ほどの移住者。団長であるクリス・ワイズマンからの日報を地球で受ける結城智也。二人は幼馴染である。
移住開始から2年は順調だったが、ある日、熱帯雨林にぽっかりと巨大なクレーターが開いて街は消滅した。慌てる結城は再度の通信を試みるが通信画面は暗転する。
それから10年ぶりの通信を受け取り、結城は十数名の乗組員と共に惑星に向かうが、宇宙船の中では奇妙なことが起こるが、クリスたちがまだ生きているという可能性に突き動かされ、惑星への着陸を決意する。
直径30kmほどのクレーターはすでに植物で覆われていたが、中心部に街の影が見えた。四駆にまたがり結城と王偉は調査に出る。
街は見覚えがあった。2030年ごろ、子供の頃に見た渋谷。駅前のスクランブル交差点に金髪の少年。少年の呟きに誘われて王偉が近づくと、体がぐにゃりと融解して少年に吸収される。驚く結城に少年ユーリと名乗った。自分はあの爆発によって凝縮された生物エネルギーによって生まれた存在で、それは神の欲望によって叶えられたと。少年はそう言い終えると目の前で脱皮し始める。白い肌は褐色がかり、瞳は青から灰色になった。姿形が変わると“彼ら“は喜ぶのだという。パフォーマンスの報酬は多幸感を得るエンドルフィンだった。
結城は母船に連絡をとると相手のサムは苦しみ出す。母船に戻るとサムはミイラ化していた。横では瞬間移動したユーリが微笑んでいる。結城は装備の銃を放つがユーリの体を銃弾はすり抜ける。地球に行きたいとユーリは言う。本来は地球が“彼ら“の目的地だったが、まずはこの惑星で基体を作ったのだ。
地球の異常事態の兆候を示す映像が母船に送られてきていた。機器への植物繁茂、言語能力を取得した牛や人面猫の登場。けれどキメラ生物は短命であると、一文が添えられている。僕しか全ての生成物を融合することはできないとユーリは言う。地球に向かう船の中で、不安を抱えながらも結城は眠りにつく。
着陸後、二人は荒廃した東京に上陸する。ゲリラ部隊に襲撃をされ逃げる結城とユーリ。ゲリラが人間の体を保てているのは単なる偶然だった。融合が起こるのは確率だが、でもいつか確実に起きる。
ゲリラ部隊を吸収するとユーリは少しだけ日本人に近づいた。それから彼は自分の指を折ってクロックムッシュに変えて結城に差し出す。指はすぐ生える。
それから旅芸者さながら世界中を二人で回った。抵抗しながら喰われるもの、喜んで体を差し出すもの。娘を庇うもの友人を裏切るもの。さまざまな生と死のステージに大気は光り輝き、歓声が聞こえてくる。“奴ら“が喜んでいる。
脱皮を繰り返してもユーリは17歳の少年のままだった。それを不思議に思って結城が尋ねると、“あんたにはそう見えているだけ“と言った。
ほぼ全ての生物を食い尽くしたユーリの見た目は光り輝くようだった。翼を持ち金色の髪は足まで伸びていた。牙を持ちツノを生やしている。天使か悪魔かよくわからない風貌だった。30年の時が経った。結城は全てを失っていたが、その全てはユーリの中にあった。だから彼はユーリのそばを離れなかった。ユーリもなぜか結城だけは手につけなかった。
行きたいところがある。そう言ってユーリが向かったのは渋谷だった。交差点の前にどかっと座ったユーリは指をへし折って、瓶ビールにする。
最後に僕が捕食するのはね。君なんだよ。そう言ってユーリは結城にビールを渡す。それが一番彼らが喜ぶことだから。結城は全てを悟って絶望した。彼が自分に手をつけなかったこと、捕食にじっくり時間をかけたこと。
でも俺は智也と渋谷で酒が飲みたかっただけだからさとユーリは言った。その瞳にクリスの面影を感じた。神々しかった長髪は白くなり、短くなっていた。けれど指から流れる血が止まらない。だから卒業。やめやめとユーリは笑う。奴らはどこにと聞くと、あいつらは次のターゲットを見つけたわけ。あいつらはいつでも見ているだけ、とユーリ。なぜ早くそうしなかったと聞くと、この世界で、二人だけになりたかったからと囁くユーリ。
結城の体にアルコールが染み込んでいく。何百年も過ぎた気がするけれど一瞬のような気もする。自分が死んでしまった後でこの人はどうなってしまうのだろうか。全てがどうでもいいけれど、同時に全てが愛おしく思えた。心地よい酩酊の中でユーリの膝に頭を預ける。自分の顔を覗くユーリの笑顔が見えた。