腰痛の診断名とは?その真実と誤解
「画像所見と症状が合わない...」「診断名と検査所見が合わない...」
となり、混乱した経験はありませんか?
今回はそんな方に向けて、腰痛に悩む患者さんを取り上げて説明します。
頭の中が整理できる内容になっていると思います。
腰痛に悩む患者さんは、整形外科を訪れた際、X線やMRIなどの画像検査を受け、診断名が付けられることがよくあります。たとえば「椎間板ヘルニア」「脊柱管狭窄症」「圧迫骨折」などが代表的なものです。しかし、この診断名は必ずしも腰痛の原因を正確に示しているわけではありません。今回は、腰痛の診断名に関する誤解とその背景を掘り下げてみましょう。
○画像検査に頼りすぎていませんか?
腰痛の患者が病院を訪れると、まず画像検査が行われます。70歳以上の高齢者1万人を対象に、腰痛がないにもかかわらず画像検査を行った場合、ほぼ全員に加齢による「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄」などの異常が見つかるという研究があります【Noriko Yoshimura et al., 2010】。このように、年齢が上がるにつれて、腰や背骨には誰でも変性が生じているものです。
つまり、“高齢者は画像上、ほぼ全員が異常”。
しかし、これらの加齢による変化は、必ずしも腰痛の原因とは限りません。画像検査で異常が見つかると、医師はそれを基に診断を下しがちです。けれども、画像所見だけでは、本当にその異常が痛みを引き起こしているかどうかは判断できません。
○症状と画像所見のギャップ
多くの場合、腰痛の診断名は画像上の異常所見に基づいていますが、画像所見と痛みの症状が一致しないことがしばしばあります。
無症候性の脊椎変性、つまり症状がないにもかかわらず画像では異常が見られるケースは非常に多いです。
たとえば、無症状の人でも「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄」が見つかることが多く、これが痛みの原因とは限らないのです【Y Ishimoto et al., 2013】【Brinjikji W et al., 2015】。
○腰痛の原因は一つではない
腰痛は非常に複雑で、その原因は必ずしも一つではありません。
整形外科的な診断名だけで痛みの原因をすべて説明できるわけではなく、実際には筋肉、筋膜、神経、心理的な要因が関与していることも多いです。
画像に現れない筋膜のトラブルや、ストレスによる緊張が腰痛を引き起こしていることも少なくありません。
○診断名に囚われず、広い視点で対応する
腰痛の診断名に対して、そのまま治療に進むのではなく、痛みの原因を多角的に捉えることが重要です。画像検査の結果だけに頼らず、理学療法士として患者さんの痛みの背景や生活習慣、身体の使い方などを総合的に判断することが大切です。
また、診断名が付けられても焦らず、その痛みの原因が他にないかを確認するプロセスを心がけるべきです。
痛みを引き起こしているのが必ずしも画像所見によるものではないことを理解し、治療方針を立てていきましょう。
○結論:診断名はゴールではない
腰痛の診断名はあくまで一つの指標に過ぎません。画像検査で異常が見つかったとしても、それが痛みの主な原因であるかは確証が持てません。理学療法士として、患者さんの痛みを多面的に評価し、適切なアプローチで介入することが求められます。診断名に囚われず、患者さん個々の痛みの原因を探り、的確な治療を提供することが、真の腰痛解決につながります。
○今日の伝えたいポイント
“高齢者は画像上、ほぼ全員が異常”、“症状がないにもかかわらず画像では異常が見られるケースは非常に多い”ため、痛みの原因が必ずしも画像所見に写るものではないということ。
○参考文献
Noriko Yoshimura,,et al. :Cohort Profile: Research on
Osteoarthritis/Osteoporosis Against Disability study.International Journal of
Epidemiology, Volume 39, Issue 4, 988–995,2010.
Y Ishimoto,,et al. :Associations between radiographic lumbar spinal stenosis and
clinical symptoms in the general population: the Wakayama Spine Study.
Osteoarthritis Cartilage. Jun;21(6):783-8. 2013 .
『無症候性集団における脊椎変性の画像特徴に関する系統的な文献レビュー』
Brinjikji W,et al. :Systematic literature review of imaging features of spinal
degeneration in
asymptomatic populations. AJNR Am J Neuroradiol. Apr;36(4):811-6. 2015