20240709『若き日』セルフライナーノーツ11
Photo by Mikio Kitahara
ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。
「12 メクラの馬」は鈴木大倫が持ち込んできたシーンだった。作中で詩人たちが集まるナルシスというバーで、主人公の若者がマドンナを相手に北海道で見てきたものについて語るシーンだった。つづく「13 マドンナの泡盛」もそのタイトル通りマドンナについてのシーンなので、このあたりの一連のシークエンスはマドンナという女性が一つの軸となって進行していた。
▼今回の舞台上には、はっきりとわかる形でマドンナの姿は現れない。けれども小説を読んでいても、このマドンナという女性の存在が通奏低音となって主人公の自意識を規定しているような感じが強くあるのだった。「メクラの馬」のテクストもマドンナにあてて語られた言葉なのだけれど、元のシーンを読みながらその言葉を語ることで同時に若者自身も言いたいことやいうべきことを見つけているような感じがしていた。
▼マドンナという女性の言葉を、いくつか短いものは使用したけれど大きく引用することは今回はしなかった。単に出演する俳優が男性だけだったからという現実的な問題もあるし、マドンナはたとえそこにいなかったとしても意識のどこかで潜在的に主人公の青年の見ている世界に影響を与え続けているような、そのような存在だと思ったという理由もあった。
▼舞台上にいる人だけではなくて、舞台上にはいない誰かを”呼んでくるような”上演にできたらいいと思っていた。舞台上で語られる言葉が、観客の中において、そこにいない誰かのことを強く想起させることができたら、演劇としてはとてもいい。
▼いつだって舞台の上にある私たちの身体は、私たちの上演を支えてくれるのと同時に邪魔でもある。身体がそこにある、ということで他のあらゆる可能性は消去されて、ただ私たちの身体だけが言い訳もできずにそこに残る。それは時としてとても辛い。
▼だから、というわけでもないけれどいつだって私たちは私たち以外の誰かになりたい。だから馬になれたらと願い、炭鉱の穴に潜った坑夫や馬の目からその言葉を語ろうとすることを試みるのだった。空を見上げながら言葉を語る鈴木の姿を見ながら、すこし新鮮な気がしていた。どん底から未来を見ているようだったから、だと思う。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02czx9t72zj31.html
【公演詳細】
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