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20250103 卵が卵であるために

昨日書いていたみたいに、今は基本的には俳優に対して「自分勝手でいてほしい」と思っている。それは一緒に演劇をやっているメンバーに対してもそうで、もちろん公演をやったりなんかする時に彼らは温かく協力してくれるし、付き合いも長いので精神的な支えにもなってくれている。けどいわゆる”劇団”みたいにたとえば集合があって、とか、定例のミーティングがあったりだとか、あるいは「劇団費」や入団金みたいなものをとったりはしていない。

▼今の自分の演劇の活動だけでは公演単位でなんとか謝礼を支払ったりはできるものの、それが年間を通じて劇団のいろいろなこと(たとえば助成金の申請なんかの事務仕事とか)を仕事として分担する、というような形で有償の仕事を任せたりするというような規模ではないから、というのが理由のひとつとしてはある。演劇を通じて食うに困らないくらいの謝礼やお給料を払うことができないから、それ以上のことはあまり迂闊に頼めないよなという気持ちがある。

▼二つ、三つくらい上の世代の人たちと比べると「劇団」というもののイメージも随分と変わっているのだろうなと思う。アングラ演劇と呼ばれるような60年代から70年代にかけて活躍していた劇団の話を聞いたりすると、小さな劇団であっても毎年数十人の新入生、研究生が入ってきて、そこから毎年選抜があって準劇団員から劇団員へ、というヒエラルキーの中で演劇関係者の自然淘汰がなされていたらしい。劇団の規模も数十人からという、今だとなかなか想像しにくいような規模のビシッと統率された若い劇団がいくつもあったのだからすごいなと思う。

▼かたや現在の自分のカンパニーはというと俳優だけの6人で、それでも10年弱継続して一緒に創作をしているメンバーがいるというだけすこし恵まれているような気もしている。昔の劇団に比べたらぜんぜん人数は少なくて、その少ない限られた人間で可能な限り優れた舞台成果を上げたいと思ったらいきおい集団の運営の仕方も変えていかなければならない。

▼なぜ今演劇なのかということを煎じ詰めて考えていってみた時に、「他の何人をもっても代替不可能な個人がそこに存在していること」というのが、演劇という表現形式が訴えうる一番強いメッセージなのではないかと思ったりする。物語や、技術や、他の何かに奪われない観客と俳優の生身の存在が、演劇というものを媒介にしてその場に立ち合うということ。そのこと自体の鋭さに目を向けること。

▼きっとこれから先もいくつもの技術革新が起きて、「どうしても人間がやらなければならない仕事」はどんどん少なくなっていく。その最後の最後の瞬間に、人間が人間だと確かめるための最後の砦の一つがたとえば演劇になるのではないかと想像する。不完全で脆くて間違うという、その弱さにこそ”人間”を感じられるような日がいつかやって来る。だからたぶん私は周りの人たちに勝手でいてほしいと思っている。それぞれがそれぞれの個性や気風をなるべく残して、集団の一員としてではなく、ひとりの人間として粒を残したまま、一緒に演劇をやっていたいと思う。

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◆2024年の年末に『桜の園』ソロ・こごえという作品を上演しました。

◆2024年5月にはじめての野外劇を上演しました。
平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
【公演詳細】

◆2024年5月、上記公演の実施にあたって平泳ぎ本店は戸山公園で野外劇を上演するための所作台(舞台床面)を製作するための資金調達に取り組み、日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき無事に成功しました。ありがとうございました!

【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

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◆私が主宰する劇団、平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第9回公演
『(タイトル近日発表予定)』
2025年 初夏
続報をお待ちください!

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