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20240318 ワカメ降る客席

むかし観ていた舞台で客席に向かってワカメが飛んできたことがあった。たぶん水でもどすタイプの乾燥ワカメだったのだが、ワカメそれ自体の匂いや感触もそうなのだけれどそれを入れていた容器の、おそらく普段はペンキや塗料を入れていた容器独特の図工の匂いみたいなものを「ああ、これは小学校とか中学校の図工の時間の匂いだ!」と嗅いだのをよく覚えている。


▼水やワカメが飛んでくるタイプの舞台だったのだが、その劇団は結局舞台上での猥褻行為が大問題となって活動を終える格好となってしまった。水やワカメのほかに男性の裸体も客席に向かって飛んできていたのだった。「果たしてアートとは?」などといろいろと思うところはあったけれどもあれはよくなかった。


▼この世にはほかにも客席に向かって人間の排泄物が飛んでくる舞台があったりもする。見巧者の人たちがその劇団をして「リアリズムの極北」と呼んだりすることもあるから、それなりに演劇的な体験ではあるのだろうけれども潔癖性の人なんか悲鳴をあげそうな舞台である。それでも雨ガッパを着こんで郊外の会場まで嬉々として観に行く人たちもいるから好きずきだと思う。


▼ベケットにも『クラップの最後のテープ』という戯曲があって、たしかそれだと戯曲の登場人物が客席に向かってバナナの皮を投げたりするシーンがある。戯曲の上でも演出でも、客席を明確に意図して物理的にも働きかけるというのはこれまでいくつかのやり方が試されてきたということだと思う。


▼そういえば学生の頃に見た演劇研究会の新人発表会みたいなもので、舞台上でマサイ族の男を演じる若者が同級生をボコボコに殴るというシーンがあり(どんなシーンなのか)、9月くらいの暑い時分だったこともあり狭い劇場の舞台最前面で俳優が振りかぶった瞬間にほとばしる汗が客席に振りかかって最前列のお客さんたちから嬉しくなさそうな悲鳴が上がっていた。


▼こうして考えてみると舞台からものが飛んでくる場合、それがなんであれ観客にとってはそれほどうれしい経験にはならなさそうである。ナマモノが飛んでくるのはなんかいやだし、水ものは服が濡れる。しいて嬉しいとすればきれいな花びらとか、だろうか。あるいは現金だろう。硬貨は危ないから紙幣がよい。紙幣が飛んできたらそれがどんな舞台であれ、私はうれしい。


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