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20240701 『ローザ』と時間堂

稽古から本番まで何度も何度も観て、ほとんど台詞も諳んじることができるほどになる作品、というのと出会えただけでも自分は幸せだったのだろうと思える。それは通っていた養成所のレパートリーだったり、これまでに自分が出演した作品だったり、いろいろあるけれども純粋にスタッフとしてほとんどすべての公演を観ていた作品に時間堂の『ローザ』がある。

▼たしか2015年の暮れに初めて十色庵に行って、 翌2016年の8月には芸劇での公演(『ゾーヤ・ペーリツのアパート』)で制作助手のお手伝いをし、直後に解散が発表されてびっくりしていたら12月にはもう最終公演が行われていて、その最終公演の演目が他ならぬ『ローザ』だった。こうして書いてみると時間堂という劇団の、本当にジェットコースターのような最後の一年に居合わせたのだった。

▼『ローザ』は制作助手で入っていて、プロデューサーの大森さんがとにかく私が劇場にいる日は本番を全部観せてくれた。大森さんは遅れ客の対応のために十色庵のあの扉の外にいて、受付をしていた私は開演すると中に入って本番をとにかく観ていた。最終公演だから、という訳でもないのだけど、知らず知らず自分はあの公演を目に焼き付けていたのだなと思った。

▼『ローザ』を観ていると、だから南北線の志茂駅からの道のりの風景や、十色庵のあの土間の空気、バーカウンターに並んでいたものものを思い出す。志茂駅に行くことももしかしたら二度とないのかもしれないが、しかし『ローザ』を観ている間は私の頭の中に志茂駅のことが思い出されるのだった。そうして冴子さんや直江さんや貴夫さんら、時間堂の方々の顔が浮かぶ。時間堂の背中を見て私は大きくなった。

▼静岡の人宿町やどりぎ座さんという劇場がこの度閉館となってしまうため、その閉館イベントの一環として『ローザ』が上演されたのだった。その前に私はいろいろとポカをやらかしていたのだけれど、それでも『ローザ』が上演されるのなら、行かないわけにはいかなかった。それくらいの求心力が自分にとってある作品なのだった。

▼2016年夏の『ゾーヤ』の打ち上げの席で、熱心に私にいろいろ教えてくれた先輩がいた。その人に熱心に勧めてもらったから私は山に通うようになった。「人生で一度は観ておいた方がいいよ!」と教えてもらった作品に、その後運よく出演することができるようになったりもした。私はいわばその先輩から山への道を教えてもらったのだった。自分で望んで選んだ道だと思っていたがそんなことはない、自分ではない誰かが教えてくれた道なのだと思い出すことができた。

▼時間堂の最終公演『ローザ』で忘れられないエピソードがある。初演のツアーの時にボロボロだったという直江さん(直江里美さん)が、誰もが口を揃えて「よくなった」ということである。劇団員の方にインタビューをしたり、観にきた時間堂ゆかりの人たちがみんな「上手くなったねぇ!」と声をかけていたから、すごくよく覚えている。一人の俳優の質的な変化なんて、一つの作品の数ヶ月の稽古場だけではそうそう起こりえない、と思う。でもそれが時間堂では数年間という時間をかけて、現に起こっていた。そしてそれは周りのすべての俳優さんにいい刺激となって影響していた(ような印象を受けた)。「だから」時間堂なのかと、今思う。イージーな目先の変化だけではない。本質的な変化のためには俳優にも時間が、必要なのだ。そして本当の意味で時間をかけた俳優と劇団の変化こそ、他の何にもましてドラマチックなのだ、と。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
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