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20250108 かさぶたのひとつ
稽古場ではじめて理不尽なことをいわれた時のことを今でも結構よく覚えている。老齢の、テレビとか映画にもたまに出ている俳優さんが演出だった。自分が思うようにシーンをやってみせたら「なんだお前は、自閉症なのか!?」といわれて「もういい、こんな奴は稽古しても仕方がない」「もうこのシーン(の稽古)はやらない」といって無視されて、まるで私はそこにいなかったかのようにその日一日を過ごすことになった。
▼まだ今よりもかなり若かったし、それなりにナイーブだったから稽古場を出て、真っ直ぐ家に帰れなかった。同期とも先輩とも話したくなくて、自転車を駆って近くの大きな公園に行って「あれはなんだったんだろう」「何がいけなかったんだろう」「なんであんなことを言われなければならなかったんだろう」ということをグルグルと考え続けていた。
▼普通に、苦しかった。たとえ自分の演技に問題や課題があったにせよ、そこでみんなの前で言われたことは俳優としての人格否定に近かった。「こういうプランで、こういう読解のもとで演技をしたんです」なんて言い返すことも許されずにただお前はダメだと言われて、言われっぱなしだった。
▼稽古場というのはたくさんの人が集まっているから、先輩や、同期や、そういうみんなの前で思い切り否定されて、軽んじられて、稽古もしてもらえずに無視されたということが何よりも相当苦しかった。相手役の人にも申し訳なかったし、「やらかしてしまった人」というフォルダに入れられて、腫れ物みたいに扱われて、同情されるのも嫌だった。何よりもそれで心を折られて、次の稽古から自分を殺して従順な、「演出家を怒らせないような」凡庸な演技をするようになることが怖かった。
▼私自身だって別の稽古場で同期や先輩が吊し上げられて、演出というかもはや精神的な暴力としか呼びようのないやり方で日々人間として、俳優としての自由を失い、楽屋で表情を失って「もう何にも楽しくない」とこぼす姿を何にもできずに見守ることしかできなかったことがある。養成所といういわば箱庭で、自身の進級の査定に関しても権力を握っている演出家を前にして波風を立てるのが怖くて仕方がなかった。だから同期や先輩が助けてくれなくたって、それは仕方がないことだった。
▼その日の遅く、公園でひとしきり落ち込んだ後に自宅に帰ると昼間部の同期の人たちが数人、玄関のドアの前にいて、びっくりして目が合ってしまった。普段同期が私の自宅に来ることなんかなかったのと、「今、合わせる顔がない」と思って私は踵を返して自転車で走って逃げてしまった。しばらく経って自宅に戻ると「大丈夫か?」という手紙と飲み物の差し入れが入ったビニール袋がドアノブにかかっていた。「ああ、やっぱり私は今日やらかしたんだな」「勘違いじゃなかった」という気持ちと「静かでも、味方でいてくれる人もいるんだ」という気持ちとでしばらくそのまま、玄関で動けずにじっとしていた。
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◆2024年の年末に『桜の園』ソロ・こごえという作品を上演しました。
◆2024年5月にはじめての野外劇を上演しました。
平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
【公演詳細】
◆2024年5月、上記公演の実施にあたって平泳ぎ本店は戸山公園で野外劇を上演するための所作台(舞台床面)を製作するための資金調達に取り組み、日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき無事に成功しました。ありがとうございました!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」
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◆私が主宰する劇団、平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第9回公演
『(タイトル近日発表予定)』
2025年 初夏
続報をお待ちください!
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