かたるひとたち『若き日の詩人たちの肖像』振り返り編その二
Photo by Mikio Kitahara
この記事は、2024/5/17-19東京都新宿区戸山公演野外演奏場跡、および2024/5/25-26長野県上田市犀の角にて行われた、平泳ぎ本店第8回公演『若き日の詩人たちの肖像』(原作:堀田善衞)の公演をふりかえりを書き起こしたものです。
参加者
その一は↓
小川 平泳ぎ本店のことや、つくりかたについてちょっと触れていきたいかなって思うんですけど、、、「なんであらためてこういう場で話そうかと思ったか?」というと、初めての野外劇をやって、初めて東京以外の街でツアーをやって、今までお会いできなかった人達とか観てもらえなかった人達に、目を向けてもらえる公演だったんじゃないかなと思ったんですね。ざっくりいうと、今回の作品で平泳ぎ本店とはじめましてとなった人がとっても多いんじゃないかなと思って。
松本 そうですね、、、一応主なメンバーが、三年間同じ新劇の研究所で演劇の稽古をして、その人たちが劇団に所属することが叶わずに卒業します、ってことになったんですよね。その時に、それぞれが事務所に所属したりしたんですけど、そこで完全な別々の道、俳優のキャリアを歩んでいくって道ももちろんあったんですけど、、、
熊野 うん。
松本 やっぱり共通言語が、一緒に三年間過ごしているとある程度あるわけですよね。演劇とか、演出とか、あるいは稽古とか本番に対してこういう風に臨む、という基準みたいなものが。この状態で、きちんと継続していけば、なんていうんだろ、、、「なにかしらものがつくれるだろう」とか、「(自分たちだけでも)舞台を上演出来るだろう」っていう見込みがあったので、「じゃあもうちょっとねばってつくり続けてみよう!」、「卒業した後もみんなで一緒に演劇を作り続けてみようか!」、っていうのが平泳ぎ本店の一応の成り立ちですね。そこそこに大きい新劇の老舗劇団を卒業して始めたので、基本的な問題意識としては、大きい劇団と同じような作り方、創作方法をスケールダウンしてやってもそれはあんまり、持続可能性や発展性が乏しいと思ったんですよね。
熊野 うんうんうん。
松本 ほかの大きい資本をもった団体とまったく同じことをぼくらがやったとしても、スケールも予算も小さくなってしまうし、演劇としてもなかなか発展しないだろうなと思っていたんです。だから自分たちのルーツでもある新劇をいちど批評的に捉え直す必要があったんですね。それで今も続けているようなトップダウンではない「俳優主体の創作」だったり、今回みたいに小説とかいろんなテクストをベースにして、いわゆる一本の既成の戯曲を上演するの(ストレートプレイ)ではない上演形態を試してみたい、それで面白い演劇を作りたいっていうところから、スタートしていってるっていう感じですかね、、、そんな劇団ですね。
小川 我々、特殊だなと思うことの一つが、、、演出家、作家がいない団体っていうのが、そもそも珍しいんじゃないかなと思うし、大体の団体が主宰のひとが演出であったり作家であったりを務めていて、そこで団体の色味っていうのが決まっているなあと思うんです。けれども我々は俳優だけであるっていうのが、特色の一つかなって思ってますね。その上でものをつくるっていう、、、
熊野 うんうん。
小川 熊野さんは唐ゼミ☆さんにも長く在籍していたし、そこでは主に中野さんが主導権を握ってものづくりっていうのをされてたと思うんですけど、なんかこう、、、今回平泳ぎ本店の創作は大丈夫でしたか?っていうか。
熊野 あーーー(笑)。
小川 今まであまりなかったんじゃないかなあ、というつくり方を、ここにきてやったっていうことについては、どんな感じがしましたか?
熊野 なんかこれは、平泳ぎ本店という団体に対して憧れがあった、っていうのはあって。まあでも具体的に創作ていうところはあんまりイメージがわいてなかったんですけど。たぶん、まだ自分が劇団員だった時、唐ゼミ☆にいたときにこのスタイルをやっていたら、もう少し戸惑っていたと思う。今回どのくらい自分が皆にとって、ちゃんと僕が機能していたかっていうのは置いておいて、個人的採点としてそんなに悪くなかったんじゃないかと。
松本 いやもう、本当に熊野さんには助けられてばかりで、、、ねぇ?(と、小川に)
小川 (首肯する)。
熊野 一緒にやっていて、やれることはやったと思う(笑)。けどこれが、、、劇団員の時にやっていたら、今回みたいに振舞えなかっただろうな、っていうのはすごく感じる。
松本 そうですか?
熊野 これはなんか、、、、さっき「主宰の方が団体の色味を決める」っていう話のなかで、自分が劇団員としてやっていたときは、好きにやってたし、中野さんに対してだったり劇団の先輩に対しての対抗心みたいのを持ってたりしながら、、、
松本 中野さんに対する対抗心なんてあったんですか?!
熊野 もちろん、もちろんもちろん(笑)。演出は聞くけど、他の現場で出会った方のいうことを取り入れたりとか、そういうことはあったけど、それでもやっぱり、、、「中野さんが」だったり、「唐さんの本が」やりたいことをやるんだっていう意識が根にあって。
松本 そうですよね。
熊野 それは、、、良くも悪くも、自分がどう居たいか、っていうことよりかは、団体、本、演出の中でどういるべきか、っていうことだった。
松本 ええ、ええ。
熊野 そこから、劇団をやめるタイミングで、「「自分が」どうしたいか」っていうことに興味が振れていて。じゃあやめてみよう、と思って劇団をやめたんですよね。そのなかでどこにいっても、自分に対して向けられる「「きみ」は何なんだ?」っていう感じの目、っていうのをなんとなく感じていて。でも『長い正月』(20歳の国 石崎竜史作・演出 2023年-2024年 こまばアゴラ劇場)、さっきふれてもらった『長い正月』は本当にこう、フェアな現場というか。
松本 へえええ。
熊野 演出家の竜史くん(石崎竜史)はいたけれども、俳優にすごく意見を聞いてくれるし、こちらが演技的な提案をしたときにすごく汲み取ってくれるというか。あとはすごく沢山ミーティングがあった。
松本 へえええ!
熊野 通し稽古の前に、「今日はどういう風にしたい」っていうのを一人ひとり言って、終わった後にも「今日の通しは良かった」、「ダメだった」、「こうだった」、ってみんなで言った後に竜史くんが「皆はそう言ってたけど、おれは結構良かったと思うんだよね」とか。そういう全体での話し合いの時間があって。それがすごく良かったんだよね。
松本 へええ、20歳の国の稽古場ってそういう感じなんですね!
熊野 そういう稽古場の中にいると、数年かけての自分のテーマである「主体的な俳優であること」を考えることが多かったというか、、、俳優を仕事として続けていかなくちゃと思ってから、「主体的な俳優であるとは」ってことを考えることが多かったんですよね。そういう流れの中で『長い正月』のカンパニーに出られて良かったなと。「(創作に対して稽古場でいろいろ)言っていいんだ!」って。
松本 おおお!
熊野 (主体性をもって)発言することで作品って良くなるんだなって思えたんですよね。劇団員の時は「劇団員だからやらなきゃ」、「中野さんがいないとき客演の人達をまとめなきゃ」、っていうモチベーションで発信していたところがあって、、、それの最後には口癖っていうか言い訳で、「(演出の)中野さんがどう言うかはわからないけど、」って言ってた。けど一人の俳優として各カンパニーと関わって、「やっぱり作品を良くしたいから、言うぞ」っていうことに変わってきた。それによって「うまく回るんだ!」って実感してきたこの数年間だったな。その経験のなかで、平泳ぎ本店に来てみると、こんどはちゃんと、昔付けてた言い訳なしに「こう思う!」ってやれた、それが許される現場だった、っていうのが非常に良かった!
松本 あああ、そうだったんですか!
熊野 対話じゃない?平泳ぎ本店のつくりかたって。トップダウンで「こうだ!」って決めるというよりかは、ちゃんと対話があるっていう、、、だからなんか、やってきたこと、ここ数年で自分なりにも考えてきた「こうだったら作品がよくなるな」っていうやり方の、、、実践編みたいな?
(笑)
熊野 だから僕にとって、今回このタイミングで、こういうつくり方をしている平泳ぎ本店に出られたのは、すごく良かった。だし、今個人的にも、、、世の中的にも、ハラスメントが問題になってる中で、どうすればいいんだろうって(考えてた)。耳にし、目にし、過去の自分の問題を振り返ったときに、今回の平泳ぎ本店で、全員の属性が近いっていう特殊な環境、があったにせよ、「対話ができている」っていうのがハラスメントが起きづらくなっている、状態かなって思って。こういうことをずっと考えていたから、(今回の創作スタイルに)面食らうことはあんまりなかったかな?
熊野 竜史くんに言われたんですよ。「熊ちゃんは俳優としての能力はもちろんだけど、創作に対してのスタンスで影響力を持てる人だと思うから、もっといろんなところに出てほしい」ってぽろっと、終わった後に言ってもらって。そこでもまた「言っていいんだ、、、!」みたいなことがありました。
(笑)
熊野 そういう後押しもあったから。でもそういった積み重ねがなく出ていたら、(平泳ぎ本店の創作は)どこまで自分がやっていいのかは戸惑うつくり方、だと思うから、、、いいタイミングで「このくらい言ってみよう」、っていうのが溜まった、自分の中でいい土壌ができた段階で今回出られたから、、、そうじゃなかったときに出てたら消化不良になってたなと思います。「ああああ言えばよかったな!!」って、後半でやっとわかるみたいな。
松本 あぁー…!
熊野 いいタイミングで出られたかな。その土壌がなかったら面食らってた、そのくらい特殊な場所だと思う(笑)
松本 特殊、ですか(笑)。
熊野 特殊だなと思う(笑)。素敵な意味でね。先に進んでいる、ともいえる。こういうやり方で面白いものってつくれるんだよって、ひとりのな、、、スーパーマンがいなくても、いろんな個性を持っている人が集まればつくれる、、、道のりは険しいかもしれないけどね!
松本 ふふふふふ(笑)。
熊野 ちゃんと嫌なムードにもなり(笑)。
(爆笑)
熊野 ほんとに危ういところまで行かなかったのは、団体の重ねたものだなと思う(笑)。やっぱり創作をしているとぶつかるじゃない。でも、ぶつかれることは良いことじゃない?どんどん話し合って先に進んで行けるというか。先に進んでる団体なんじゃないですかね?
松本 (くすぐったそうにしてる)進めてるんですかねぇ…。
熊野 (小川に)聞かないですよね?演出家、作家がいない団体ってなかなか、、、
小川 (微笑)。
松本 なんか、さっき熊野さんもおっしゃってたみたいに、誰か一人の強烈なリーダーシップのもとで演劇ってながらくつくられて来たと思うんですよね、、、
熊野 そうだよね、、、
松本 それこそ、唐十郎さんしかり、佐藤信さん、太田省吾さん、、、演出ですごく強烈に名前が残っている人といえば、蜷川幸雄さんとかもそうだし、それくらいの人達が、一人のカリスマで作品をつくってきたし、つくっているし、そういう団体もいま沢山あると思うんですよね。そういう中で、平泳ぎ本店としては、自分たちのキャラクターとか仁(ニン)を考えたときに、そうじゃないっていうのがわかっていたから。
熊野 へええ。
松本 たとえばすごい、スター演出家が一人いてそれに奉仕するっていう感じゃあない、って自分たちが一番よくわかっていて。じゃあそういう、リーダーシップとかカリスマみたいな人がいない集団でも、なるべく高い成果を挙げたい。おもしろいものをつくりたいし、いい上演がしたいって考えたときに、、、たどり着いたのがこういうつくり方だったと思うんですよね、一人ひとりが一生懸命考え抜いて、しゃべり抜くみたいな。
熊野 ほう。
松本 それで稽古の中で一人ひとりが自分の101%くらいの発想を重ねていく中で、自分たちの想像を超えていって、、、「コミュニケーション(対話)の中で自分たちの想像をちょっとずつ超えていく」みたいなことをして、創作の質を上げていけないとまずい、と、何かしらのタイミングで思ったんだと思うんですよね。
小川 そうだねえ。それぞれが現場でとか、劇団に残れなかったとか、失敗や挫折を味わってるわけだから、なんかこう、、、常に創作の中では自分の出来ないこと、考えつかないこと、があるんだっていうのが意識にあって。そうだからこそ他の人の発想を聞いているときも「もしかしたらこれは俺の知らない面白いことかもしれない」と考えて乗っかってみる、みたいなことが、少なくとも自分にはあるかな、、、だから皆の話が聞けるというか。そこができるのも、お互いの付き合いの長さからきてるかもしれないですね。
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その三につづく
◆日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき、資金調達が無事に終了しました。ありがとうございました!!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」
◆本日もご清覧頂きありがとうございます。もしなにかしら興味深く感じていただけたら、ハートをタップして頂けると毎日書き続けるはげみになります!
◆平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
→詳しくはこちらから。https://note.com/hiraoyogihonten/n/n04f50b3d02ce
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