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20240316 人が人を呼ぶために

森絵都さんの小説の中で「私の年齢を見計らいながら読むべき本を勧めてくれていた人がいたのに、私はそれを読まなかった。十代の入り口、思春期、それから大人になっていくタイミングでそれぞれしかるべき本を読むように勧めてくれていたのに、私はめんどくさがってそれを読まなかったことをちょっと後悔している」というような台詞があった。

▼たとえタイミングを逃したとしても、本ならいつでも出会いなおすことができる。これが生の舞台になると同じ俳優、同じ劇場、同じスタッフ、同じ季節…というのが揃うことはほとんどないから、一期一会の感じがより強くなる。「いま観るべき舞台」みたいな言い方も大袈裟でおこがましいような気もするけれど、「あのときあの舞台を観ておけばよかった、なんで私は知らなかったんだ…!」ということもたまには起こる。

▼たとえばもしいま同時代に寺山修司さんや、太田省吾さんや蜷川幸雄さんが生きて演劇をつくっていたら、やはり観てみたいと思う。そんな感じで後世に名前が残ったり、あるいはのちのち語り草になるような作品がそこここでしずかに上演されていたりするので油断ならない。

▼自分自身もあんまり滅多なことで人に舞台を勧めたりはしないものの、たまに「すごくいいなぁ」という作品と出くわすと思わず人に勧めたり、当日券で二回目を観に行ったりすることもある。大きな劇場で二週間以上の公演をしてくれているとそうやって人に勧めやすいし、日本全国をツアーで回っていたりするとさらに人に勧めやすくなる。

神田伯山さんの講談の『中村仲蔵』で、役の工夫を凝らしたシーンが評判を呼び、芝居小屋が連日満員になるというくだりがあった。思えば歌舞伎も基本的には一月同じ作品を上演しつづけるセミロングラン公演だなと思う。

▼そういうときに劇場に人を集めるのは「玄人が普段芝居小屋へいかない人たちの手をとって『おもしろいから観てみろ』と連れてくる」というくだりがあっておもしろいなぁと思った。いつだって人を連れてくるのは人である。人が人を呼べるためにはやはり短くても一週間から二週間、腰を据えて作品を上演し続けられないとなぁと思いつつ、5月の公演はたった三日しかないので、どうしようかなということを思ったりしていた。

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