見出し画像

20240408 想いは場所に。そして人に。ー鳥の劇場を訪ねて。

ここ数年、自分がちょこちょこと日本のそこここを旅をしているのはほとんど演劇のためというのが主であって、自分で連絡をしたり、時には他の方に連れて行ってもらったりして全国各地、可能な限りいろんなところの人たちに会いに行ってお話を伺っている。いろんな場所で抱えている問題は似ていることもあるし、その地域独自のものもあったりする。一つとして同じ場所はなくて、土地の風景や出会う人たちに感激してばかりいる。

▼「ああ、だから私は寅さんになりたいのだ」と、今ふと思った。暑い夏の間は北のほうに、寒い冬の間は南の方に、渡り鳥のように日本各地を放浪する寅さんの映画『男はつらいよ』では全48作をかけてほとんど日本のすべての場所を旅していた。映画のオープニングに映る日本各地の風景は今でもとても美しい。私は寅さんになりたい。(そういえば寅さんの中にも坂東鶴八郎一座という旅芸人の一座の家族が出てきて、寅さんを先生といって仰いでいたりした。)

2023年6月、鳥取砂丘!

▼閑話休題、たとえば私が訪ねていく先の劇場というのはインディペンデントで自分たちの場所を手づくりして運営しているタイプの劇場が多いので、これまで旅をしたどんな場所でお話を聞いても「儲かって儲かって仕方がない」というような景気のいい話はほとんどなくて、それぞれの場所でいろんな苦労をしながら一年ずつをタフに乗り切っているという印象が強い。どの劇場も演劇を通じて、いかにその場所で地域の人たちと関わりながら場所を運営していくかということを真剣に考えている人たちばかりである。

▼昨年(2023年)の6月、鳥取にある「鳥の劇場」という劇場を訪ねたことがあった。中島諒人さん率いる鳥の劇場は鳥取市の鹿野町というかつての城下町にあって、廃校になった小学校と幼稚園を劇場としてリノベーションして活用されていた。訪ねていってみたときにはっきりと、そこは鹿野町という町の中心部で、町の人たちが自然と集まってくるとても重要な場所にその劇場が建っているのだということを肌で感じた。

鳥の劇場 スタジオ
鳥の劇場、スタジオの窓
鳥の劇場、校庭
鳥の劇場、正面玄関

▼副芸術監督の齊藤頼陽さんから鳥の劇場のこれまでの歩みについてお話を伺える機会があって、そのときに特に印象的だったのが鳥の劇場が走り始めたときに多額の(劇場の機材、人件費を一年分賄うような)金額をポンと寄附してくれた人の存在があった、というエピソードだった。その時の寄付をいわば元手として鳥の劇場はいくつもの事業を展開することができ、途中いくつか困難な時期も乗り越えつつ、これまで走り続けてきたということだった。

鳥の劇場、舞台。
齊藤さんと。

▼「最初はビジョンなんてなかったよ」と齊藤さんは教えてくれた。「元々小学校と幼稚園と小学校だったこの場所を借りて自分たちの作品の上演をどうしようかと考えているうちに、場所に育てられる人の想いや蓄積があるということに気がついた。場所の運営を通じて社会とどう関わり合うかという事を生業として真剣に考えるようになった」と。努力するのも一生懸命仕事をするのも大前提で、その上で(ポンと数千万円寄付してくれる人が現れるような)スペシャルな奇跡がないことにはそういう場所を手に入れ、運営していくことはできないのかもしれない。「ああでもそれでも、自分の場所が欲しい」と、鹿野の町を歩きながら、強く願わずにはいられなかった。

鳥の劇場、副芸術監督の齊藤頼陽さん
鳥の劇場、隣の敷地の学校に咲く紫陽花。
鳥の劇場にて 筆者。photo by Kyono Hirose

*****
◆本日もご清覧頂きありがとうございます。もしなにかしら興味深く感じていただけたら、ハートをタップして頂けると毎日書き続けるはげみになります!
◆私が主宰する劇団、平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
→詳しくはこちらから。https://note.com/hiraoyogihonten/n/n04f50b3d02ce
◆コメント欄も開放しています。気になることやご感想、ご質問などありましたらお気軽にコメント頂けると、とても励みになります。どうぞご自由にご利用ください。

ここから先は

0字

かえるのおたま

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?