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20250301 同じ土を踏みしめて
今年の5月に上演する作品は69年前に書かれた作品で、しかも作者の秋浜悟史さんが22歳くらいのときに、夏休みの巡回公演のために書かれている。ものすごく若い頃に書いた作品というのはえてして黒歴史というか、観念的になりすぎて斃れたり、こむつかしくってなんだかな、という作品も、学生の頃に見た同世代の学生劇団の書き下ろし作品を思い出すと多かったように思うけれども『英雄たち』はそういうところがあまり目につかず、読み終わった後にはただただすこしの烈しさと、夏の夜の少し落ち着かない気持ちが残る。
▼秋浜悟史さんは1969年に『幼児たちの後の祭り』までの一連の作品群に対する評価、ということで岸田國士戯曲賞をとっている。優れた作品もたくさん残しているけれど、氏の作品がいま上演される機会はそんなに多くはない。というのも秋浜さんはある時期に東京から関西へと拠点を移し、たとえば大阪芸術大学や、兵庫県立ピッコロ劇団の立ち上げなどに尽力されていたのが遠因になっているのではないかな、と想像する。
(『幼児たちの後の祭り』は戯曲デジタルアーカイブでオンラインで読むことができます。)
▼たとえばそういう東京を相対化しようとする生き方に、シンプルに共感する。東京で活動を続ければいくらでも活躍できたはずのところ、それを全部捨てて関西へ行ってしまう。大阪芸術大学の頃の教え子には、たとえば劇団☆新感線の方々がいたりする。昨年には秋浜さんが高校生の頃の日記が出版されたりもして、その人柄が偲ばれる。
▼『英雄たち』は舞台が岩手県で、全編盛岡弁で書かれている。いま初見で読むと意味が取りきれなくてわたわたしてしまう。徒手空拳ではどうにもならないから、盛岡弁を話せる方を探して方言指導をお願いしたり、心当たりの人たちにいろいろ手がかりを尋ねて回ったりしている。上演するからには、盛岡弁の響きを可能な限り豊かなものにする責任がある。
▼演劇をつくる、といったときに、乱暴な話ではあるけれども、もちろん俳優が台詞を覚えて喋ればある程度の形にはなる。それだけで6-7割は完成するという感じがしないでもない。でもそれだけでは足りない、と最近強く思っている。ただ演劇をつくるだけでは足りない。自分たちの演劇の上演を通じて、しかも東京都の公園での野外劇を通じて、私は新しくここに集まる観客を創造したい、と思っている。
▼『英雄たち』が69年前の戯曲でも色あせずに、今をもってしても伝わる鮮やかさを湛えているのは、おそらく秋浜さんがこの戯曲を執筆される時に想像していた”観客像”によるのではないかな、と思ったりする。東京で、東京の観客に向けてだけ遠じるために書いたのではない距離が、この戯曲には含まれていてその距離こそがこの戯曲に不思議な魅力を与えている。だから東京都新宿区の戸山公園から、土を踏み締めてうっかりここではないどこかに通じてしまうような、そんな公演になったらいいなと思って戯曲を読んでいる。
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◆2024年の年末に『桜の園』ソロ・こごえという作品を上演しました。https://note.com/hiraoyogihonten/n/n061602834a82?sub_rt=share_sb
◆毎週水曜日に西早稲田近辺で舞台俳優のためのファンダメンタル(基礎トレーニング)を実施しています。
◆2024年5月にはじめての野外劇を上演しました。
平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
【公演詳細】
◆2024年5月、上記公演の実施にあたって平泳ぎ本店は戸山公園で野外劇を上演するための所作台(舞台床面)を製作するための資金調達に取り組み、日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき無事に成功しました。ありがとうございました!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」
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◆私が主宰する劇団、平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co.
第9回公演『英雄たち』
作=秋浜 悟史
演出=岩澤 哲野(theater apartment complex libido:)
戸山公園(箱根山地区)野外演奏場跡
2025年5月30日(金)ー6月1日(日)
毎日18:30開演
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