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20241124 チェーホフにはまだ早い

はじめて自分の劇団で公演をやるというときに当日パンフレットをつくっていた。おもえばその公演では私は出演せずに、演出の同期からの依頼もあってドラマトゥルクと制作という不思議なポジションに収まっていた。はじめて自分たちだけで公演を行うということの興奮でやたらとギラギラしていた。

▼当日パンフレットもA3の用紙でカラーで、写真を使ったりしてけっこう気合を入れてつくっていた。そういえば通っていた養成所から卒業して自分たちで劇団をはじめるというときに「ここの劇団の卒業生だと言うな」「お前たちは卒業したのだから通っていた劇団の名前を出すな」と、応援されるどころか割とはっきりと圧力を掛けられたのも今となってはいい思い出だったりする。養成所といっても生徒が月々の授業料を払っていて、彼らの人件費だって私たちが出していたようなものなのにふざけやがってというか、大きい劇団はやることがちがうぜと思ってしびれていた(養成所というのは劇団の中でも数少ない黒字の部門である)。

▼3年間通っていた養成所を卒業してあらためて、彼らはどんな演劇を好きなのだろうと思って当日パンフレットの項目に「好きな劇団」という設問を与えてみたら、半分以上を「劇団キャラメルボックス」と「こまつ座」が占めてびっくりしてしまった。保守派も保守派というか、大きい劇団から巣立ってこれから自分たちで演劇をつくって世に問うていこうというときに「一人くらいマームとジプシーとか書けや!!」と思ってすこしイライラしてしまったのを覚えている。

▼現代演劇の地平を切り開いていこうとする東京の小劇場界(というのもかなりざっくりとしているが)において、「キャラメルボックスが好き」というのはなかなか大きい声で言えないような気がしてしまうのは自意識が強すぎるのだろうか。高校演劇をやっていた人なら必ず部室に台本があり、演劇部に入っていなくても高校の文化祭なんかでかならず袖が触れ合ってしまうのがキャラメルボックスという存在の気がする。

▼同様に「ラーメンズが好き」というのも、それで演劇なんてやっているのはもう思い切りミーハーな気がしてしまうから大きい声では言えなかったりする。たくさんの人たちがそこに憧れて、そこが好きだと思って演劇をやりはじめているのに、かっこをつけたくて好きな劇団や劇作家を偽ってしまったり、ちょっとむつかしいところを選んでしまったりする。誰もそんなこと気にしないのに、である。

▼最近でこそフィジカルに目覚め、小説のテクストをどうこうしようとしていたりするものの一皮むけば彼らはキャラメルボックスが好きで、井上ひさしが好きなのだな、ということを思い出すといっそ基礎に立ち返って成井さんの高校演劇の台本でもまっすぐにやってみようかしら、という気持ちが芽生えてきたりもする。もしかしたら私たちの劇団は、チェーホフだってまだ早いのかもしれない。キャラメルボックスを思い切りまっすぐにやったら、なにか見えてきたりするのかもしれない(本当にやる?)。

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野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【公演詳細】

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