20241019 東京の匂い
自分の進路ということに関して、学生の頃はなんとなく「たぶんここに行くんだろうな」と思っていて、実際その通りの学校へと進むことになった。とくに根拠らしい根拠は実際なくて子どもの頃に読んだ本や、当時気になっていた作家のプロフィールを見ながらぼんやりとそう想像していたのだった。
▼高校生の時、何度か東京へ来たことがあった。オープンキャンパスのためであったり、ふとインターハイを見たくなって千葉へ行ったついでであったり、東京に暮らしていた姉を頼りにやってくる東京はただ歩いているだけで結構楽しかった。観光らしい観光もせず、ふらふらと街を、なんてことない街のその辺の道路を歩いて帰るだけだった。
▼オープンキャンパスのためにやってきたある夏、大学最寄りの地下鉄の駅から出てきたときに嗅いだ蒸れた生ゴミの匂いというのはひとつの強烈な印象になって鼻の奥の方に残っている。地元の街ではあまりゴミの匂いを意識したことがなかったから、「東京の街って臭いんだな」と思った(学生街で粗野な飲食店が多いので、たぶんそういう生ゴミの匂いがするんじゃないか、と思っている)。
▼地元の駅から在来線と新幹線を乗り継いでだいたい3時間くらいで着く東京の街は近すぎず遠すぎずで、「その気になればいつだって帰れるんだからな」というくらいの距離なので過度な夢を抱いたりもせず、「まあこんなもんか」くらいの距離感で東京の街とずっと付き合ってきている。
▼東京へきてから最初の一月くらいでアパートの部屋の匂いにどうしても馴染むことができずに、周りの友達に「なんか部屋の匂いがどうしてもいやなんだよ…」とこぼしていたのを覚えていて、たぶんあれがホームシックだったのではないかという気がしている。その後うっかり体育会に入部してしまって地獄を見ることになり、それどころではなくなってしまったのでホームシックも自然と癒えたけれども、嗅覚をきっかけにメランコリックな気持ちになることがたまにある。「10代の一人暮らし始めたての男子の匂い」みたいなのがこの世にはある。
▼体育会に入ってしまった時に、毎日都心とは反対方向の練習場へと西武線で向かっていた。西武線のホームに聞こえてくる山手線のメロディは「どこか楽しそうな東京」へ連れて行ってくれる気がして、よほどそちらに乗りたかったけれども日々のトレーニングをばっくれるほどの勇気は自分にはなかった。山手線に乗らなくても、山手線の中なら自転車でだいたいどこへでも行けると気がつくのは、もうちょっと後のことである。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
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『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
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