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20240218 憧れの上海バンスキング

いつかかならず上演してみたい作品のひとつに斎藤憐さんの戯曲『上海バンスキング』がある。1980年に岸田國士戯曲集を受賞したこの作品は太平洋戦争中の上海が舞台のジャズマンたちの姿を描いた作品で、なんといっても一番の見せ場は俳優たちによる実際のジャズの生演奏である。

▼オンシアター自由劇場、というのは要は「アンダーグラウンド演劇」からの反動というか、1960年代から1970年代にかけて安保闘争の盛り上がりとともに隆盛を極めたアングラ演劇が後半どんどん複雑化し泥沼にはまって行って、暗く政治的になりすぎたことへの反動から生まれた劇団だと言えばおおよそ正しい気がする。串田和美さんと吉田日出子さん率いるオンシアター自由劇場の当たり狂言となった『上海バンスキング』はだから、観終わってみるとカラッとした明るい印象が残る。

▼劇中で使われている音楽の力も大きいだろうと思う。『上海バンスキング』を上演するための唯一の条件は音楽をすべて俳優による生演奏にすることであるらしい。録音ではだめ。串田さんは劇団に入ってきた若者たちの性格や人間性を見極めながら、一人ひとりに楽器をあてがって練習させていたという。本当に俳優がジャズを生で演奏するのである。しかも作曲は越部信義さんという、『おもちゃのチャチャチャ』や『サザエさん』のテーマなんかを作曲した超一流の人がなんでだか書いているので、どれもいい曲だし、めっちゃ耳に残るのだった。

▼『ウエルカム上海』というテーマソングは幕開けと、ラストシーンで歌われる。歌うのは「デコさん」こと吉田日出子さんである。本物のジャズシンガーと比べてうまいかどうかというような小手先のことではない、吉田日出子さんにしかない観客に親しみと人懐っこさを感じさせる歌い方は唯一無二で、それこそ大の大人が何度でも聴いていたくなるような歌である。

▼俳優が演奏し、俳優が歌う。最初と最後に歌われるテーマソングが明るい曲なのでなんとなく明るいいい話のような印象が残るのだが、冷静に見てみればむちゃくちゃ暗い話なのである。何しろ戯曲を書いているのが戦中の平壌で生まれ、どことなく影のさす社会派の作品を得意とする斎藤憐さんである。それを「おもちゃ箱をひっくり返したような世界」観をもつ串田和美さんが演出することで他にないコントラストが生まれる。

▼オンシアター自由劇場、串田さんと吉田さんの元からはたくさんのいい俳優さんたちが生まれている。小日向文世さん、余貴美子さん、笹野高史さん、柄本明さん、佐藤B作さん、岩松了さんなど枚挙にいとまがない。上演や過去の舞台映像を見ても、とにかく舞台上の俳優さんたちがどんなシーンでもみんな楽しそうなのが魅力的で、見ていてウキウキとさせられる。憧れの『上海バンスキング』を、いつか必ず上演できたらなぁと胸で大事にあたためつづけている。

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