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20241116 (俳優は舞台裏で)待ちながら
演劇の台本、戯曲をまとめて何本か読んでいると、ページを開いたときにすでにその言葉の配置やレイアウトによってその作品の表情みたいなものが見えてくる感じがする。ページのなかにいかに言葉を配置するか。そうして余白がいかに美しく保たれているか、というのがそこで語られているものごとの内容以上にとても大切に思えてきたりもするから不思議だなぁ、と思う。
▼好きな台詞というのは洋の東西を問わずにいくつもあるけれど、好きなト書きというのはひとつしかない。チェーホフとかでたまに出てくる「舞台空虚。」というト書きである。戯曲のなかに見つけるたびに、なんてきれいなト書きなんだろう、と思う。
▼思えばト書きというのは、基本的にはそこに描かれる(だいたいは)人間の感情や生理みたいな内面的なものと、外から見えるその人やものの行動とをスプリットする、分けるという効能がある。人の内面から発せられる言葉と、その人の振る舞いと、外と内とで人間の全部、ということになる。
▼戯曲を読んでいて、ト書きをおもしろいなぁと思うのはそこで語られている言葉と行動とがすこし乖離しているときだ。たとえば悲しいから涙をぬぐう、とか、うれしくって手を叩く、ということなら俳優は難なくやってのけることができる。そうではない、一読して「ん?」とひっかかるようなト書きがあると、おもしろくなってそれを読み解こうと夢中になったりする。
▼そこへもってきて「舞台空虚。」というト書きである。もちろん20世紀初頭のロシアで書かれた作品だからモスクワ芸術座のスタニスラフスキーたちが志向したリアリズムと切っては離せないだろうけれども、シンプルに観客の前で舞台を空にするということの大胆さや、客席に座っていて舞台上から誰もいなくなったときの、その一瞬の空隙がもたらしてくれるなんとも言えない余韻を思うと本当に素敵なト書きだなぁ、とたまらない気持ちになる。
▼舞台と客席の間には第四の壁があって、その見えない壁を透してどこまでもリアルな自分達自身の姿を目撃する、というのが一応はチェーホフたちが活躍した時分のロシアのリアリズムのロジックではある。舞台を空にしている間、俳優は舞台裏でただ“待っている“。あるいは時計で精密に秒数を測っていたりするだろう。特段なんにもない。なんにもないだけの空白の間に駆動し、羽ばたいているのは他ならぬ観客の想像力だ、と思う。「舞台空虚。」というト書きはだから、作者から観客のために贈られたもので、だから私はこのト書きが好きなのだな、と思う。
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【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【公演詳細】https://hiraoyogihonten.com/2024/02/24/hiraoyogi8th_info/
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