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20241202 客席文学

鴻上尚史さんの『ごあいさつ』という本がある。舞台の当日パンフレットに寄せた文章をまとめたもので、鴻上尚史という人は世間だと相談上手なおじさん的に認められていたりするのかもしれないが、この『ごあいさつ』は演出家、劇作家としての氏のスタンスがよく出ている気がして、けっこうおもしろい。

▼鴻上尚史さんに関しては戯曲よりもむしろこっちのごあいさつの方がおもしろいんじゃないかなと思っている。相談上手なすけべなおじさんなんてろくなもんじゃねえやな、という点を大幅に差し引いてもなおおもしろい。

▼そんなに熱心に読む人もそう多くないと思うけれど、当日パンフレットというのはだいたい公演の直前につくるので、戯曲ともフライヤーに載っている情報ともすこしちがう、観客に出会う直前のちょっと不安定な心境みたいなものが載っている気がして、舞台を観に行くと開演前の客席でおもしろく読んでいる。

▼公演の本番が近くなると、劇作家も演出家もほとんどすることがなくなる(劇作家はもっと早い段階で)。劇場で舞台監督さん、スタッフさん、そして俳優たちがやるべきことに集中しているかたわらで、主宰や演出家はそういうごあいさつを書くことになる。開演前の客席で読んでもらうことを念頭に置いた文章で、それが一冊の本になるほどの、そういう文学だということもできそうではある。

▼これまでに劇場の客席で読んだ、そういういわば”客席文学″のなかで、今でもずっと手元にとってあるのが快快という劇団の『りんご』(2012年 KAAT)

という作品の当日パンフレットに入っていた「『りんご』に向けて、一応の理屈」という文章で、これはセバスチャン・ブロイさんというドラマトゥルクの方が書いた。

▼劇場のインターンに参加していたとき、岡田利規さんの稽古場を見学させてもらったときに「たぶん首はもっとこう…、こうやって後ろから絞めた方がいいと思うよ」と、流暢な日本語でいかにして舞台上で人を効果的に絞殺するかについて考察していたのがセバスチャンさんだった。あれがなんでこれほどに記憶に残ることになったのかはわからないけど、快快というかっこいいお兄さんお姉さんたちへの憧れと、ドラマトゥルクという存在のワクワクする感じ、そんなかっこいい演劇への渇望みたいなものがスパークするような、そんな文章だった。いつかあんな文章が自分にも書けたらなと思う。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)

※雨天決行

於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ

【公演詳細】

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