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20240816 教室焼酎

通っていた養成所にも一年目は夏休みがあって、はじめて新宿の花園神社に椿組のテント劇を観に行ったりしたのもそのときだった(まさか夏の風物詩の椿組のテントがなくなるとはつゆとも思っていなかった)。他にもいくつかの舞台を同期の人達と観に行ったりしながらぼちぼちと夏休みを過ごしていた。

▼普段の授業がないので、せっかくだから同期の人達で何かしら演劇をやってみようという話になって、男四人だったのでいろいろ作品を探していたところ三島由紀夫に『わが友ヒットラー』という戯曲があって、それをやってみようということになった。

▼いま思えば、せめてもうちょっとライトな作品を選べばよかったのに、と思う。何しろ文庫だと戦後の日本戯曲の最高傑作ともいわれる『サド侯爵夫人』と対になって収録されているような戯曲である。いくら登場人物が男4人という条件をクリアしているからといって、演劇をはじめて一年目の小僧達がどうこうできるような作品では到底なかった。

▼自分で劇団をやるようになった今となっては公演を実施することも、ある程度段取りだったり稽古や準備の仕方だったりがわかるものの、当時は本当に何がなんだかわかっておらず、自主公演をするためにどんな手続きをしたらいいのかを手探りで人に聞いたりしながらウロウロしていた。四人いたけれども、四人ともほとんどたしかな手がかりがないまま、空を掴むような手付きでとりあえず文庫本を読んで自分の役の台詞を覚えていた。

▼「演劇をやる」といったときに大切なことはものごとを一つずつ具体的にしていくことだ、と今は思う。はじめは妄想でも勘違いでもなんでもいいのだが、戯曲や台本といったものから客席や公演形態というところまで何もかもを具体的な形に落とし込んでいかないことには“演劇”というものは形になってこない。そういう実際的なことをわかっている人が一人もいなかったから、「自主企画をやるつもりである」と周りに話しながら、なんだかいつまでたってもフワフワしていた。

▼夏のある日に誰もいない教室に集まって、四人のうちの一人がぜんぜん台詞を覚えていないということが明らかになって私たちの自主企画は頓挫した。あっけなかった。「これはもしかしたら本番は迎えられないかもしれない」と最初からみんなうすうす気がついてはいたものの、なんとなくそれを口にすることが出来なかった。何しろ彼が覚えるべきは主役のヒットラーの台詞で、量も多かったし言葉そのものも三島由紀夫の戯曲なので硬質で難しかった。台詞が入っていないからこりゃ本番はできないね、ということをみんなで確認した後、真っ昼間だったがヒットラー役の彼が飲めない焼酎をあおって顔を真っ赤にしていた。帰り道自転車で、ゲリラ豪雨に降られた。

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「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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【公演詳細】

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