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20240808『若き日』セルフライナーノーツ⑰

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日』セットリスト

「18 召集令」はそのものずばりというか、主人公のもとに召集令状が届くシーンなので、その召集令状をどのように見えるようにするかというのが大きな課題になった。劇中でなにか大切なアイテムが出てくるとき、個人的にとにかくそれが綺麗に見えたいし、そしてはっきり見えたいのだという欲望が自分にはあることに、2018年頃くらいには気が付いていた(『ボーク』という作品では600個のカラーボールを上から降らせたりしていた)。

▼子供のころから何度も、いろんな人の話や小説、映画の中で召集令状のことは読んだり見たり聞いたりしてきた。ある日赤い紙が届いて、男子が国に召し取られる。そうして軍隊に入営して、戦地に派遣される。『若き日』の主人公の男の元にも例外なくそれは届く。一応行政の手続きではあるにせよ、みんなの上に降ってくる、それは雨みたいだなと思った。

▼劇場ならば仕掛けを仕込んで舞台の上空から何かものを降らせることはできなくはない。しかし今回は野外劇場で、舞台の上空にはほとんどなにもなかった。ものを隠したりするにも雨が降ったりするかもしれないということで、召集令状を上から降らせたいと思ったときに、その手段がなかなか見つからなかった。

▼なんでだか舞台監督の齋藤さんの作業場に長くてつよいゴムがあって、一時はそれを使って赤紙を上空に射出しようかという案も出た。二人がかりで長いゴムを肩に担いで、それを弓のようにして赤紙を射出する。試しにやってみた時にびっくりするくらい上手くいったので驚いてしまって、「これでいけるかも」と思いつつも実際のシーンの流れの中で誰がその作業をするのか、ということについては何も検討がついていなかった。
(中国の弩(ど)のようにして一人で脚に引っ掛けて撃つ方法も検討したけれども恰好が無様すぎて却下になった。)

▼結局俳優が手づから放り投げることにした。投げるのは熊野さんで、さすがのテント育ちの俳優の勘というかセンスというか、熊野さんが投げるときれいに俳優の上空で赤紙が広がるのは見事だった。投げられているのは不吉な召集令状なのだけれども、一瞬「きれいだな」と思ってしまう迂闊さが私たちを人間たらしめている。バイオリンの音楽が流れる中で『明月記』を口ずさむ俳優たちの上空に赤紙が舞って、すべては一時中断する。

▼戸山公園でも、あるいは上田の犀の角でも、作中で引用される「唯自然はかう云ふ僕にはいつもよりも一層美しい。君は自然の美しいのを愛し、しかも自殺しようとする僕の矛盾を笑ふであらう。けれども自然の美しいのは僕の末期の目に映るからである。」という芥川龍之介の遺書の一節を発語しながら見つめた木々の緑はたぶん忘れられない気がする。俳優をしていてあまりテキストに引っ張られるという経験はしたことがなかったけれども、こればかりは、という気がした。おずおずと死に近接するような、そんな時間だった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02czx9t72zj31.html
【公演詳細】

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