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20240811 新宿駅の東南口から

養成所を卒業して、初めての公演をしようと思って場所を探していた。何しろそれまでは劇団の稽古場やアトリエが使えたのに、これからは稽古場も劇場も自分達で手配しなければならない。というかそもそも劇場ってどうやって借りるんだろう、というところからのスタートだった。

▼演劇をやろう、といって声をかけた同期の何人かは所属事務所の預かり期間ということもあって自由にスケジュールを空けられず、出演はしないけれどもお手伝いみたいな形で公演を手伝ってくれることになった。演出も同期の一人が担当することになった。

▼養成所にいる間は公演、というか発表会の準備も主なところはすべて劇団の人達が担当してくれていたので、実際に自力で公演を実施するといったときに何をどうしたらいいのかが皆目見当がつかなかった。シンプルに舞台に立つことだけに集中できていたといえばそうなのだけれども、三年間も演劇をやってなお予算のことや公演実現のための現実的な感覚がまるでなかったのはよしあしだったなとも思う。

▼当時働いていたアルバイト先のお客さんに飲んだくれのジャズ批評家みたいな方がいて、その人に紹介して貰ったのが新宿の雑居ビルの一室にあるバー兼劇場ともいうべき場所だった。階下の魚がおいしい居酒屋の焼き魚の匂いが始終充満し、お世辞にも、あるいは口が裂けてもきれいとは言えないスペースだったけれども本番だけでなく稽古もそこでしていいということで、ありがたい条件ではあり、ともかくそこで公演をしたのだった。

▼はじめての公演で、俳優も四人だけだったけれども配役を変えてわざわざダブルキャストにして、二週間ほどの公演を行った。自分達がどれくらい動員できるかという感覚もなくて、さして知名度もないのであるときはお客さんが7人しかいなかったこともあった。私たちの公演が終わるとそこはバーとしての営業を始めて、夜明けまでみんな飲んだくれているので翌日の昼公演のために劇場へ行ってみると支配人の女性がカウンターで突っ伏して爆睡していたりした。

▼本番も近くなってそろそろセットを仕込んだり客席をつくったりする、という段になって、当時めちゃくちゃ観ていた『コクリコ坂から』の影響で音響や照明、美術の仕込みなど放ったらかして大掃除をしていたら、演出の子が呆れたように私を見ていた。なんの前置きもなく新宿タイガーさんが新聞を配達しに来て息が止まりそうな程びっくりしたりした。平成の終わりごろの新宿で、そうして雑居ビルの一室で、自分達の演劇をやりはじめた。

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「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02czx9t72zj31.html
【公演詳細】

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