見出し画像

20240104 ジジイの二択

自転車で通りがかった白髪老齢の紳士から、なぜだかめちゃくちゃに意地悪を言われる、というようなことが、ときに起こるのだった。うっかり暴言を吐かぬようなるべく穏やかな受け答えを心がけながら「この世には二種類のジジイがいる。いいジジイとわるいジジイだ」という言葉を、頭の中で反芻していた。

▼以前勤めていたアルバイト先にも困った高齢のお客さまがいて、あんまりにも利用上のルールを守ってくれないので見かねて注意したところ「俺がどこの誰だかわかっているのか!」と逆上された上に恫喝され、職場の上司も巻き込んだ謝罪を求められたりして難儀した。

▼『ちびまる子ちゃん』に出てくるおじいさん、友蔵がさくらももこさんの創作上のキャラクターであり、本物はめちゃくちゃいじわるなとんでもないおじいさんだったとエッセイで読んだ記憶がある。その実在のいじわるじいさんに対する憎しみが転じ、「じいさんかくあるべし」というさくらさんの願望によって友蔵というやさしい、理想的なまるちゃんのおじいさんが造形されたもののようである。

▼冒頭の意地悪なおじいさんと相対しながら、この人を駆り立てるものはいったい何なのだろうと考えていた。彼の意見としては、要はそこにディスプレイされている作品が気に入らないからもっとうまくやれ、ということなのだったが、今ここでそんなことを言ったとてどうにかなるものではないことくらい、たぶん彼自身もよく分かっているのだった。

▼面と向かって赤の他人にディスをかましてきながら、でも一応物腰は丁寧で意識もしゃっきりとしていて、現役の頃はひとかどの人物だっただろうことが伺われた。

▼他人とのコミュニケーションでディスリスペクトを旨とするという点において、もしかしたら彼は現役時代にフリースタイルのラッパーだったのかもしれない、とぼんやりと思った。「儂が求めているのは統一感 滲む喪失感 透ける市の予算」みたいなことを仰っていたような気もする。ビートを乗りこなし韻を踏みながらうまく言い返せていたら、最後は握手をして別れられただろうか。

ここから先は

0字

かえるのおたま

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?