航空機座席の個室化は進み、ホンモノか?ますます問われる
ANA最新型シートは、建築家の隈研吾さんが監修していますが、プライベート空間が保たれ、私がCAだった当時より「個室化」が進んでいます。
個室時間を最長で確保する場合、食事を召し上がらないお客さまであれば、離陸5分後には個室が始まり、着陸10分前まで続きます。すると、CAとの接点がほとんどありません。
個室化が進むようになってから、CAたちは、短い時間でいかにお客さまとエンゲージメントを深めるかが勝負でした。勝負は、ご搭乗の30分間です。
ご搭乗中のご挨拶を大切にするだけではなく、離陸するまでの30分間すべてがエンゲージメントに与えられた時間です。五感をフル活用する30分間の勝負です。
人は、挨拶中の相手を見て信頼を確かめるのではなく、挨拶中以外の所で確かめます。挨拶には誰だって神経を使います。その挨拶が始まるまでの時間、挨拶が終わったあと、そこを人は見ていると感じます。ですから、CAにとっての勝負は15時間ずっとなのですが、特に、ご搭乗中30分です。
15年以上前の話ですが、ファーストクラスのお客さまが、ご搭乗され、座席につき、近くにいる担当CAを見てすぐに、「反対側通路の座席に変わりたい」と仰いました。挨拶を交わす前のタイミングです。お客さまは理由を濁します。しかし私は、確信していました。きっと、担当CAを変えたいから、反対通路側に移動したいのだと。
若かった私は、学びました。「お客さまを前に、取り繕うことはできないんだ。お客さまは超能力者で、ホンモノのホスピタリティかどうかを、一瞬で見抜けるんだ。どこを切って見ても、ホンモノになることが仕事なんだ。」
個室化が進み、コミュニケーション接点が減る中、ますます「どこを切ってもホンモノか」という金太郎飴人間が求められるのだと思います。