HIRANの原点となるお酒 その2
皆様、こんにちは。
飛鸞の杜氏をしております森雄太郎です。
今回は、前回のHIRANの原点となるお酒に関しての続きを解説していこうと思います。
前回はにこまるというお米と出会い「飛鸞 純米65」という飛鸞の始まりのお酒が完成したとこまでお話したかと思います。
もし読まれていない方はぜひそちらを先に読んで頂いた方がこれからの話の流れがより分かりやすいかと思います。
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何とか完成させた「飛鸞 純米65」の酒質コンセプトは「お米の甘味と旨味が感じられる、食事に寄り添うような食中酒」でした。今のコンセプトとそこまで大きく変わってはいないのですが、仕上がりとしては良いお酒だけど粗さが残るようなまだ不安定なお酒という印象もありました。
大改革!!
更なる酒質向上を目指して、全工程の見直しを行いました。
いろいろと試行錯誤しましたが、その中でも特に効果絶大だった設備更新を簡単にご紹介しますね。
少しマニアックな内容かもしれませんがご了承ください。
・洗米機
いつから使用してたか分からないほど錆びついたボロボロの洗米機で、スイッチを入れると苦しそうな音を発します。音だけは立派なのに出てきたお米はしっかり洗えていない状態だったので、次の年からは手洗いに変更しました。
※ちなみに、洗米において大事なのは、お米を割らずに表面の糠をしっかり落とす事です。糠を落とさないと雑味が多く糠の香りなんかもついたお酒に仕上がってしまいます。洗米をしっかりできないと綺麗なお酒にはならないのです。
手洗いに変更して明らかに酒質がクリアになったのですが、当時製造メンバーは私含め2人でしたので、体が先に限界に達しました。
ということで、ウッドソンという今ではどの蔵にも一台あるような定番の洗米機を購入しました。こちらは水流と泡でもみ洗いする形で表面の糠を綺麗に洗い落としてくれるもので、お米(10k)を一番上のホッパーに入れたら後はスイッチを押すだけという優れものです。
そして、何より体に優しい、、、
・搾り機
帰ってきた時は横型の現在でも主流のタイプの搾り機がありました。
ただ、型式は古すぎてメーカーさえ今ではもう存続していないような状態でした。最初のお酒をワクワクドキドキしながら搾り機に醪(もろみ)を送り搾れて出てくるのを待っていると本来出口が一箇所のはずが、至る所から雫が垂れるように漏れてくるのです。すかさず桶を漏れてるところにおいてお酒を救出しておりましたが、あまりに漏れる量が多すぎて桶を入れ替えながら悲壮感いっぱいでした。加えて、空気を送り込み風船を膨らませるような仕組みで圧搾していく訳ですが、空気が至る所から漏れて思うように風船が膨らまずお酒として出てくる量が非常に少なくなってしまい、その代わりにびちゃびちゃのお酒を多く含んだ贅沢な酒粕が出来上がっておりました。
そんな絶望するような状態でしたので、縦型搾り機に翌年から変更しました。縦型搾り機は昔ながらの搾り機で、醪の入った袋を浴槽のようなところに積み上げていき、上から重しで押す事で搾るという至ってシンプルな構造です。この搾り機のメリットは、毎回掃除ができて、衛生的な環境で常に搾る事ができるところですね。長崎のような温暖な地域では搾り機にカビが繁殖してしまうリスクが高いのですが、この搾り機は丸洗いできるのでその点において優れております。ただ、横型の搾り機よりも酒化率(お酒に変わる割合)は低く、搾るのに要する時間は倍かかります。何でも一長一短ですね。
・火入れ装置
日本酒製造において火入れというのは、低温殺菌の事を指します。
搾れて出てきたお酒は生酒という状態なのですが、そのままの状態だとまだ酵母などの菌、麹の酵素などが生きた状態ですので、風味
の変化というのが急速的に進んでいきます。
開栓したてのフレッシュな生酒が2、3日したら別物のように変わり果てている経験をされた方もいるのではないでしょうか。
火入れは、そのような加速度的に進む風味の変化を遅らせるためにあります。大体品温を65度前後で熱燗のような状態にしたら酵母も酵素も失活して風味の変化の原因となるものはいなくなる訳ですが、熱燗の状態が長いとフルーティーな香りやフレッシュさも一緒に失われていきます。そのため、素早く温度を上げて下げるという作業が求められる訳です。
当時使用してた殺菌方法はプレートヒーターと言って温められたプレートの通りをお酒が通ると急速に温まり熱燗の状態で瓶詰めをするスタイルでした。瓶詰めされたものを氷水に漬け込み急いで冷やす作業をしてた訳ですが、それでも熱燗状態が長いため搾りたての時に感じたようなフルーティーな香りやフレッシュさは結構失われている状態でした。
そこで、プレートヒータークーラーと言って熱燗にする通路の隣に冷酒にする通路を作り、熱燗にした後すぐに冷酒になる通路を通すことで最短で低温殺菌を済ませる装置に変更しました。
それによって、フレッシュさと香りを火入れのお酒でも高い水準で保てるようになりました。
こういった設備投資も行いながら、年々少しずつではありますがクリアで輪郭のはっきりとしたお酒になっていきました。
おそらく、この前後の飛鸞を知ってるお客様は全国デビュー前ですのでそこまで多くはないと思いますが、酒質の変化に驚いたのではないかと勝手に推察しております。この時点で生産量は100石(※1石=180L)程度だったかと思います。
次回は、飛鸞純米65が生酛へと変換していき、全国デビューを果たすまでご説明できればと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。