牛乳パックの正解はどれだったのか
少し前、ローソンのPB(プライベートブランド)のパッケージリニューアルが話題になりました。牛乳パックを例に「店頭でわかりにくい」という批判的な意見も見受けられましたが、あのデザインは間違っていたのでしょうか。デザイナーの端くれとして、ちょっと考えてみました。
一番右が、話題になった牛乳パックです。このパッケージをデザインされたnendoの佐藤オオキさんは、日経クロストレンドのインタビュー記事でこうおっしゃっています。
「『ローソンの商品なら生活を豊かにしてくれる』という体験を顧客が得られるデザインを心がけた」
その体験とは「食卓に並べたとき、わびしさを感じないこと」(佐藤氏)。例えば牛乳やお茶などの紙パック飲料には雑貨のような面影を持たせ、お気に入りの食器と共に朝食のテーブルに並んでいても違和感のないように。家族の夕飯を用意する時間がないときの1品として、コンビニで揚げ物や総菜を買うことも多い時代。そのときに、後ろめたくなく購入でき、そのままでも食卓に並べられるように。そして、お昼にコンビニ弁当を食べるとき、そこに少しでも豊かさを感じてもらえるように……。
わびしさ。つまり、私の解釈ですが、今回のリニューアルでは「生活感を出さない」ことを目指したのだと汲み取れます。
シンプルな暮らしを好み、家具や食器にもこだわりがあるような人たちに選ばれたい。ママ友が集まるホームパーティ会場でも浮かないパッケージとして、選ばれたい。
競合他社との差別化をそういった部分で図りたいという狙いなのであれば、今回のこの「雑貨のような面影を持ったデザイン」はひとつの最適解だと思います。
でもそれは牛乳を買ったあとの話で、店頭で選ぶ瞬間は、確かにわかりづらいかもしれません。特に、小さい文字や配色のコントラストの低さは、お年寄りにやさしいとは言えません。急いでいる人がパッと買いたいときは、少しストレスを感じるかもしれません(パッケージに見慣れないうちは)。
デザインの正解はひとつじゃない
こんなふうに、デザインの正解は見る人によって変わるもので、ひとつではありません。ローソンPBの今回のデザインは、恐らく上記のような、シンプルな生活スタイルを好む方をメインターゲットにしたのだと考えられます。
改めてこの写真を見て、あなたはどれを手に取りますか?産地で選ぶ人もいれば、乳脂肪分で選ぶ人、デザインで選ぶ人、価格で選ぶ人…選ぶ理由は様々です。ちなみに私は産地で選ぶことが多いです。
目立たせたいならターゲット設定は必須
今回このパッケージが話題になったことで、デザインする時にとても大事なことを再確認できました。
・誰もが「最高!」と思うデザインはない
・見る人(ターゲット)によって「いいデザイン」は変わる
・ターゲットを定めない=無難になって目立たない
・目立たせるためにはターゲット設定が必須
これは私がノンデザイナーの皆さんに、講座で毎回お話していることです。ターゲットを定めて尖らせないと、誰の心にも刺さりません。特に、知名度があまりないものをPRする時、存在に気付いて欲しい時には、このターゲット設定は必須です。
誰に、何をして欲しいのか。
相手の顔を思い浮かべながらデザインすることを心がけたいですね。
・・・というような、デザインするときに大事なことをたくさん喋っている本が、来週発売になります。宣伝かい!どうぞよろしくお願いします。
デザインが腑に落ちる!センスのいらないデザイン講座
『失敗しないデザイン』平本久美子・著 翔泳社より7/15発売
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