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ベース・レジストリはやっとスタートラインについた

ベース・レジストリがやっと指定までたどりつきました。進め方の検討が終わりこれから具体的に整備をすすめていきますが、とりあえず、ここまでの経緯をまとめておきます。

ベース・レジストリまでの道のり

データ標準の議論は共通語彙基盤などで検討されてきましたが、それと並行して2017年5月30日にデジタル・ガバメント推進方針で「デジタル・ファースト」、「ワンストップ」、「ワンスオンリー」と、今につながるデータ連携につながる3原則を作っています。(ここでは、ワンスオンリーを「一度行政機関が提出を受けた情報は原則再度の提出を求めない 仕組み」と定義しています。)

行政に対する改善要望で常に上位に位置する「何度も同じことを記入させないでほしい」「行政機関の証明書を他の行政機関に提出するのは無駄ではないか」という点を解決しようとしました。ニーズの大きい登記、住民票、法人関連情報の連携という具体的なサービスから検討を開始しましたが、行政全体のデータの共有やベースレジストリという議論まで至りませんでした。

2017年12月1日のIT戦略本部第30回電子行政分科会で「データ標準の社会全体への展開について」の資料を国際会議での議論をもとに報告していますが、この段階では、まだデータ標準について議論をしています。

翌2018年2月に、デジタルガバメントやデータをめぐる環境について内閣官房と経済産業省が共同で国際調査を行い、その結果が2018年3月1日の第32回電子行政分科会で「デジタル・ガバメントの国際動向」が報告されています。ここでは、データ標準にスポットが当たっているものの、その上に基本情報という情報が書かれており、ベース・レジストリの可能性に着目し始めています。

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一方、2019年5月31日にデジタル手続法でワンスオンリーを法的に位置づけたのですが、その具体的な取り組みの説明「添付書類の撤廃: 行政機関間の情報連携等によって入手・参照できる情報に係る添付書類について、添付を不要とする規定を整備」であり、ベースレジストリやそれを活用した自動審査まで議論が深まりませんでした。

ベース・レジストリの登場

そうしたなか、世界はベース・レジストリの推進を進めており、欧州では2016年に各国個別の進めていた取り組みのノウハウを集約したABR(Access to Base Registries)プロジェクトを開始しています。

そうした地道な取り組みを受け、欧州で毎年行われるインタオペラビリティの会議であるSEMIC2018でABRプロジェクトが注目されました。SEMIC2017まではデータ標準の話が中心に議論されていましたが、2018年6月の会議ではデータ整備や活用に話の中心が移っています。そこでABRプロジェクトの成果やデジタル時代の法律整備等の発表が行われています。

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その会議報告として2018年7月6日の第2回デジタル・ガバメント分科会で「デジタル・ガバメントに関する国際動向について」が報告され、ついにベース・レジストリというワードが登場します。

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上の図に示すように、インタオペラビリティの確保された環境を作るためには、データ標準はもちろんのこと、社会の共通的な基本情報であるベースレジストリ、情報を探しやすくするサービスカタログが重要であり、その運用を支える法律や組織人材が全体を支えています。
そして、法人や土地に関する実装プロジェクトに結び付くとともに、証明などの添付情報の標準化も使ったワンスオンリーの実現を目指しています。

この報告では、重要なポイントとして7つのポイントを明確化しています。

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こうした動きは取り組みの専門性が高く、スピードも速く、グローバルな動向も見ていく必要があることから、専門家であるCIO補佐官による将来ビジョンの策定が必要という結論に至ました。

2018年7月5日第7回デジタル・ガバメント分科会でCIO補佐官をメンバーとするグランドデザイン・ワーキンググループが作られ、2019年11月18日の第9回デジタル・ガバメント分科会で「グランドデザインの検討状況について」が検討の方向性として示されましたが、ついに日本の方針としてベース・レジストリという言葉が登場します。

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そして、2020年3月31日の第86回各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議で「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザイン」として最終案が決定されました。

一方、同日に各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議で決定した「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」では、“ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする”という利用の局面に触れていますが、まだコンセプトレベルであるベース・レジストリには触れていないなど、将来性は認識したものの政策としての柱にはなっていませんでした。

こうしてデジタル・ガバメントの検討が行われている一方で、社会全体でもデータが重要であるとの認識が政府全体で広がり、2020年1月21日にデジタル社会構築TFを設置し、包括的データ戦略の検討が始まりました。2020年6月26日にその検討の取りまとめを行いましたがこの中でも、ベース・レジストリはデータ連携のための重要な柱の一つとして整理されています。

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戦略としての位置づけ

こうして徐々に注目度が高まってきて、2020年7月17日にIT戦略本部が決定した「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(IT戦略)の「官民データ活用推進基本計画」のパートに以下のように位置づけられました。

[No.1-1] ベース・レジストリの整備
・ 行政機関の窓口における人と人との接触の削減に向けて、国民・企業等が窓口を訪問する回数を減らすことができるよう、一度提出した情報は、二度提出することを不要とするワンスオンリーの原則に基づき、個人・法人に係る基礎的な情報、地理空間情報、免許や許認可等を証明するための情報など、社会の基本データについて、最新かつ正確なベース・レジストリを整備することが重要。
・ このため、令和2年度中に、国民・企業等にとって、特に必要性の高い法人や土地情報等のデータをベース・レジストリの先行事例として整備するとともに、政府において管理すべきベース・レジストリの一覧を作成。
・ これにより、感染症の拡大防止に寄与するだけでなく、窓口での待ち時間が減少することから、国民・企業の利便性の向上等にも寄与。

さらに、経済財政運営と改革の基本方針2020に以下のように明記され、急速に歯車が回り始めます。

内閣官房は、効果的・効率的な分野間データ連携基盤のために必要な「ベース・レジストリ」の構築に向けた工程を年内に策定する。

世界各国がデータ戦略を整備し、社会の基盤データ整備を急速に推進している状況を踏まえ、年内に方向性を整理することで走り始めました。

2020年9月23日にデジタル庁の創設が発表され、データにも注目が集まったことから検討は加速していきました。2020年10月23日にデジタル・ガバメント閣僚会議のもとにデータ戦略タスクフォースが設置され、3回の会議を経て2020年12月21日に「データ戦略タスクフォース第一次とりまとめ」を公表しました。

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この時に別紙としてベース・レジストリ・ロードマップも公表されています。この中で、ベース・レジストリ考え方とともに対象データの候補やスケジュールがまとめられています。以下が候補リストです。

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また、ロードマップは以下の通りです。

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また、デジタル庁の今後の方針になる「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(閣議決定)でもベースレジストリは業務として取り上げられており、そのマネージをするCDO(最高データ責任者)の設置が記載されています。

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それでどこまで進んでいるんでしょう

秋以降、様々な人が何かというとベース・レジストリは重要というように急速に注目と期待値が高まりました。一方、具体化しようとすると、制度、対象、品質、実現方法など検討することが山のようにあります。そのため、情報発信も十分ではないまま、3月に予定していたベースレジストリの指定が遅れ、どうなったのかとかの意見も多数いただきました。

昨年の「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」で「令和2年度中に、国民・企業等にとって、特に必要性の高い法人や土地情報等のデータをベース・レジストリの先行事例として整備」としましたが、法人や土地のデータ範囲の見直しを行ったことや調整事項が多かったことから、優先データであることには変わりないのですが、まだ整備できていないなどの遅延も生じています。

ロードマップ全体も、感染症対策の影響で遅れたこと、そもそも戦略実現を急ぐ必要がありアグレッシブに工程を作ったこと、関係者との調整に予定以上の時間がかかったことから、2か月程度の遅れが生じています。

ただし、ベースレジストリの指定、データモデルの設計とドキュメント化、データ品質の評価、教材の整備等、計画した内容はほぼできており順次公開していく予定です。戦略本文も、第一次取りまとめで、引き続き夏までに戦略の取りまとめを行うとの方針を示していましたが、2021年5月26日の第7回データ戦略タスクフォースでベースレジストリの推進を含んだ「包括的データ戦略(案)」を議論するなどとりまとめに向けて着実に取り組みを進めています。

そして、3月に公表することとしていた「ベース・レジストリの指定」を5月26日にIT室決定として公表しました。包括的データ戦略はまだ決定していませんが、指定は実務文書であることであることから、先行して決定を行っています。

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20年12月21日にベース・レジストリ・ロードマップを作り様々な準備をしてきましが、この指定をもってやっとスタートラインにつけました。

ここから一気に推進を強化して成果につなげていきたいと考えています。急ぎつつ、確実に一歩ずつ長い目で見ていくことが重要ですね。

※経緯を整理したら長くなってしまいました。ベースレジストリは注目度も期待値も高いことから、「ベース・レジストリの指定」に関して、別途、解説のnoteを書きました

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