力価とおじいちゃんと私【エッセイ】
薬局のお薬お渡しカウンターの前で、とあるおじいちゃんが薬を目の前にして顔を引きつらせていた。何があったのかというと、おじいちゃんが診察室で先生に希望をしたため、眠剤の変更があったのだ。いつもと違う眠剤がカウンターの上に置かれている。その眠剤を挟んで、おじいちゃんと対峙する薬剤師の私。これは、数字が原因で起こったトラブルだった。(個人情報に配慮して、設定は色々と変えています)
具体的なお薬の変更は、こうだ。X薬0.25mg錠からY薬10mg錠に変更されている。おじいちゃんいわく、最近、今まで飲んでいた薬で寝つきがあまりよくないので、別の薬を試してみたいと先生に頼んだという。おじいちゃんの顔が引きつっている最大の理由。それは、錠剤に含まれている有効成分の含有量の違いだった。そう、薬剤の包装にハッキリと書かれているあの数字を見たのだ。0.25から10へ増えるなんて、40倍も量が増えているではないか。この新しく処方された薬は、相当強い薬に違いない。そんな強い薬は飲みたくない、というのがおじいちゃんの主張である。
繰り返しになるが、錠剤に書いてある数は錠剤に含まれている有効成分の含有量である。同じ有効成分であれば、量が増えればその効果が強くなるという風に推測できる(ただし、量を増やせば増やす程、効果が表れるということはないのでご注意を。量を増やし過ぎると、期待する効果は出ずに副作用が強く出ることになる)。例えば、Y薬5mg錠とY薬10mg錠を比べると、10mg錠の方が量が多い分、効果は出やすいよねというイメージだ。しかし、大量に飲めばよく眠れるということにはならず、病院へ運ばれることになる。
一方、有効成分が異なる場合、単純に含有量を比べて強い弱いと比較することはできない。その理由は、薬には力価というものがあるからだ。「力価とは、痛みの緩和や血圧の降下といった一定の効果を発揮するのに必要な薬の量(通常はミリグラムで表記)に基づいた薬の強さを表す用語です。例えば、5ミリグラムの薬Aが10ミリグラムの薬Bと同じくらい効果的に痛みを緩和する場合、薬Aは薬Bの2倍の力価があるということです。」(MSDマニュアル家庭版より引用:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/02-薬について/薬力学/薬の作用)
つまり今回の眠剤についても、おじいちゃんが想像したように、薬の強さが40倍になるわけでは全くないのである。X薬は0.25mgという量が睡眠に適しているし、Y薬は10mgの量で睡眠に適している。
おじいちゃんを怖がらせてしまった。けれど、説明をすることで理解はしてもらえたようだった。数字が原因で問題が起きたわけだけれど、数字を使ってそれを解決することもできたというわけだ。数字というのは、上手く活用すれは本当に便利なものだと思う。これからも、嫌わずに色んなところで仲良くしていきたい。自分に都合の悪いことも出てきそうだけれど……。で、できるかなぁ。まぁ、ほどほどに苦しくない程度にやっていこう、うん。
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