【4】基幹となるルールを検討する
いたばしの地域ボードゲーム会・松本です。4回目はゲームのルールづくりの話題に入ります。ここからは、具体性ゼロだと抽象的過ぎる感じになりそうなんで、実例として「いたばし防衛隊」の制作過程を追っかけながら話を進めさせてもらいます。
このシリーズ毎回ですが、長いです。クソ長い。きっと読む人は少ないと思いますが、自分の記録として役立ちそうなので、もはや自分のために書いています。
実例における主題とルール検討
前回までの話をふまえて、つくろうとしている地域ボードゲームの主題は決まりました。さっそく、「基幹ルール」を作っていきましょう。まずは実例をあげて、イメージしてみます。
例に出す「いたばし防衛隊」は、板橋区に次々襲いかかる敵からまちを守るゲームです。
開発初期段階で最初に決めてあった主題は「板橋区そのものを舞台とし、プレイヤー全員が協力する内容のゲームで盛り上がりたい。ただし、会場でゲーム中に人の出入りがあっても中断せず続けられる内容にしておきたい」という感じでした。
この主題の原体験になったのは「スコットランドヤード」です。イベント的にボードゲーム会をやると、遅れてくる人、途中で帰らなくてはならない人が発生しがちですが、スコットランドヤードでは警察チームの人数を増減させることができ、とても重宝しました。
その意味で(2)はいわば(3)の強化版。全員協力なら、イベント参加者の人数変化にかなり強くなります。また、イベント活用のゲームで(3)がない場合はプレイ時間をもっと短めにしたいところですが(3)があれば1時間くらい遊ぶ内容もいいだろうという発想もありました。
これら条件をふまえ、「板橋区に襲いかかる宇宙人からまちを守るゲーム」という物語性を定め、今回は「いたばし防衛隊」というタイトルもすぐに決まりました。
まずは「主題に必要なこと」で切り落とす
いま「いたばし防衛隊」を例に説明した、要件出しのプロセスを一般化してみます。ゲームを通じて何を体験してほしいかという主題を中心に、どうしても必要なこと(要件)を見極めていきましょう。その要件が、最初の「制限」となり、ゲームのメカニクスをしぼりこんでくれます。
次のスライドにいくつかの要件例をあげました。画面下の<>記号でスライドのページを変えることができます。
主題が見えていると、イベントに集まる人の年齢層や興味関心なども想像できるので、メカニクスを考えるヒントがわいてきます。
プレイヤーの年齢が下がると、できること、使える道具が減っていくので、ゲーム作りにも大きな制限がかかります。論理や思考を中心としたゲームよりも、「ジェンガ」のように物理現象を中心にしたゲームや、「ドブル」のように絵の情報だけで遊ぶゲームを考えるのがいいかもしれません。
対象ーが大人であれば自由度は高く、どんな体験を届けたいか明確でないと、選択肢が広すぎて道を見失います。逆に言うと、届けたい体験が明らかならゲームで表現する内容も自然としぼられてくるはずです。
この「しぼりこみ」は一般化して語るのが難しいプロセスですが、ほかのゲームのメカニクスをたくさん調べたり体験したりして、方向性が近いものを探してみるというのが、もっとも確実に前進できる方法です。
もし「他にない革新的なゲームを作ろう!」という出発点なら、もっと独創的なアイデアを生む方法も考えるべきでしょうが、今は地域で楽しめるものを作ることが目的で、革新性を中心に据えていないので、確実に進める道を行きましょう。
話の抽象性がだいぶ高くなってきたので、ここで再び「いたばし防衛隊」での具体例に戻ります。
1人テストで基幹ルールを組み上げ
「いたばし防衛隊」は板橋区の地図を使って、全員が協力するゲームにしようと決めました。また、区民が一致団結して協力するのはどんな状況かと考えたとき、映画「インディペンデンスデイ」を思い出し「宇宙人が襲来する!」というストーリーもすんなり決まりました。
そこで参考になるゲームを探し、「バハムートゲート」というボードゲームを知りました。”協力して強大な敵と戦う”という内容がぴったりです。
でも、サイコロやカードで宇宙人と戦うだけでは板橋区の地図が生かされません。そこで「宇宙人が板橋区内を移動していき、それを追いかけながら戦う感じにしたらどうかな」と考えました。
そうなると宇宙人が地図上を移動する仕組みづくりが必要です。最初は安易にサイコロで移動先を決めようと思ったのですが、まちの形を再現すると、1つの地区に隣接する地区は2つだったり6つだったりします。どうやって移動させようか……
・あらかじめ決まったルートで移動させる
・決まったルートに対し、いくつかの分岐をサイコロで決める
・隣接地区の名前カードを集めてシャッフルして引く
そのほか
いろんなアイデアの中には、具体的な手順や必要な道具を想像してみて、ダメだと切り捨てるアイデアも多数あります。しかし、やってみないとわからないアイデアはどんどんやってみましょう。「1人テスト」です。
この段階で、きれいなイラストやデザインは必要ありません。小さい紙に必要なことを殴り書いて、せっせとテストしてみましょう。
ボードゲームのほとんどは、紙とペンだけで再現できます。プレイヤーが推理したり、物体の落下といった物理的な現象を扱うゲームでは、紙での再現が難しそうな部分は確率に置き換えます。「いたばし防衛隊」では宇宙人の行き先をプレイヤーが推理する要素があり、そうした場合は「プレイヤーの成功率は50%」などの仮定を作って、サイコロで成否を決めてしまいます。
ここで「成功率は何%がちょうど良いか」といった問題は後回し。なぜなら、成功率自体は推理ならヒント、物理現象ならモノの形状などで調整できるからです。1人テストの目的は、他人に協力してもらう「テストプレイ」とは違います。面白さや遊びやすさ以前に、ルール上の破綻がないか、ゲームの主題とマッチしているかを検討します。
画像は「いたばし防衛隊」の制作過程を残してあるフォルダです。第5構想という名前のフォルダがありますが、基幹ルールとしては第3構想くらいまでしつこく検討を続けています。
1人テストを重ねた結果、宇宙人が地図上を移動する方法は「実際のまちの人口や面積などに基づき、サイコロで進路を決める」形になりました。
これは、初期からアイデアに出ていたものの「いかにもお勉強的でツマラナイっぽい」と考え、後回しにしていた案でした。実際にテストすると、区民ならではの勘が働いて面白いし、独創性も高いので採用しました。
たくさんやればエライってものでは無いでしょうが、これを形にしたい!と感じるまでテストすることは大切だと思います。
基幹ルールに必要なのは「体験のコア」
最終的に完成した「いたばし防衛隊」では、侵略してくる宇宙人にはさまざまな個性とスキルの違いがあるものの、ヒーロー側には個性を持たせていません。でも、じつは1人テストの最終段階ギリギリまで、ヒーローたちには個性とスキルが与えられていました。
ヒーローカードは、板橋区内のご当地キャラを取り上げます。板橋区内でもさらに細分化された地元愛を刺激し、プレイが盛り上がるという狙いです。(どうやって商店街などの許可を取るかなどはまだノープラン)
宇宙人が地図上を移動する方法が、地名カードや固定経路だったときは、むしろヒーローこそが地元トークを引き出すエッセンスだったのです。
ところが、移動方法を改め、そこに頭を使うことになると、宇宙人側にも個性やスキルがあって、ヒーロー側にも個性やスキルがあるというのは、さすがに情報過剰。どれかをバッサリ切り落とす決断が必要でした。
そこで、このゲームの主題に立ち戻って考えます。
最初は、ゲームを通じて地元をネタに盛り上がるため、ご当地ヒーローを登場させました。板橋区の中でも「高島平」「上板橋」など個別のホームがあった方が、守りたい地域で意見がわれたり、まちを壊されたときのリアクションが大きくなったりして面白いと考えたからです。
でも、よく考えると地域ボードゲーム会に来てくれる地元民は現実のホームを持っています。カードがなくても上の狙いは成立しそうです。
一方で、このゲームの設計では、宇宙人の個性はとても重要です。襲来する宇宙人の個性やスキルが多様であればこそ、プレイヤーたちの取るべき戦略が変わり、ゲームの展開が幅広くなります。
言い換えると、プレイヤーに特殊能力を持たせてそれの使い方を悩ませるよりも、敵が強くて移動先を予測しなきゃいけない状況に集中した方が、「まちを守る」感覚になりそうだと、1人プレイから見えてきたのです。
最終的には、「地元民が心を1つにして強敵に立ち向かう」体験を生み出すには、敵の個性がもっとも重要だと判断し、ヒーローカードを削除。同時に、宇宙人のカードをA5サイズの大きめに設定し、宇宙人のデザインを前面に出すような構造に切り替えました。
ここまでで、ゲームの基幹となるメカニクスが定まりました。
この先に作り込んでいく「バランスルール」とは何か、具体的にいうと、板橋区の地図上で宇宙人がこわしていく建物の数(まちのHP的なもの)だったり、移動先の予測しやすさだったり、話し合える時間の長さだったり、宇宙人のHPやスキルだったりします。
パラメータがたくさんあって大変ですが、それらのバランスさえ良ければ、「簡単には勝てないけど、みんなで協力すれば勝てるかもしれない」と危機感のある防衛体験を生み出せそうです。この向かうべき出口が見えた状態が、基幹ルールの完成です。
この後は、1人テストと仲間を交えたテストプレイを繰り返し、細部を作り込んでいくことになります。テストプレイ編は、また次回よろしくお願いします。
板橋区内に、レーザーカッターや3Dプリンターを使って何かを作ったり届けたりしています。また、そうした道具を使える人を増やしたいという思いで、講座などもちょいちょい開催しています。サポートいただけた場合は、こうした機材費や会場費などに利用させていただきます。