ネットの流行から、新大陸を作ることになった話
振り返ると、やむを得ない状況だったと言えます。板橋区、オーストラリア、四国の3つの土地では、ゲームを成り立たせることが難しく、かと言って出発点となった四国を除外するのも難しい。とにかく何か、イノベーションが必要でした。
そして得られたソリューションは「新大陸の創造」でした。生まれたのは、東京都板橋区の地域オリジナルのガチャガチャゲーム「イタシコラリア」です。何を言っているのか全然わからないに違いありません。以下に、順を追って紹介していきたいと思います。
四国とオーストラリアが似ている?
さかのぼること、2015年8月。人気番組「水曜日のダウンタウン 」にて、「日本地図、四国がオーストラリアに変わっていても意外と気づかない説」という企画がありました。
当時、自分はこの件に関するテレビ番組も、ネットの動向も追っていないため、その状況をくわしく理解していません。でも、ツイッター上ではなかなか盛り上がったようです。
四国とオーストラリアが似ている。この話題は、翌年の燃料投下によって、祭りのごとく盛り上がります。フジテレビの謝罪につながった、放送事故があったのです。
四国をオーストラリアにすり替えて炎上
2016年1月、フジテレビの「ヒデ&ジュニアのニッポン超安全サミット」というわりと真面目な番組の中で、なんと、日本列島の四国がオーストラリアに置き換わった地図が放送されてしまいました。しかも、ギャグじゃなく、あくまで普通の地図として使われたようなんです。
放送後、ネットで炎上します。まあ、意図して作らないかぎり、こうはなりませんから。制作者の真意はともかく、気持ち悪いなと感じる人が多かったわけですよね。
これはなかなかの炎上で、当時、私もニュースにふれました。「ねとらぼ」や「ハフポスト」の記事にもなっていますね。
ネットの声はいろいろでした。フジテレビの悪意を憶測して、わりとシリアスに問題をとらえる意見もありましたが、たぶん、全体的には「四国とオーストラリアが似ていておもしれ〜」という、気づきを改めて楽しむ反応が多かったように思います。
"四国とオーストラリアは似ている"
ひとつのネタが、鉄板ネタとしての市民権を得ていく瞬間でありました。
ちょっと冷静になってみよう
しかし、どうでしょうか。今思うと、多くの方々はもう少し冷静になっても良かったのではないか。私はそのようにも感じるのです。
たしかに似ている部分もあります。左右に広がるもこもこ感。中央のキュッとした感じとか。でも、次の画像も見てほしいのです。
そうです。百聞は一見にしかず、というやつです。私が何も語らずとも、言いたいことは伝わったはずです。海外の方が、ここまで日本語を読めずにスクロールして来ても分かったはずですよ。
”板橋区は、四国よりもずっとオーストラリアに似ている”
これがファクト認識です。
五感で学ぶ啓発ゲームの開発へ
さて、世間ではこのような重大なファクトに気づかぬまま、四国とオーストラリアの類似性について、無邪気に盛り上がっていました。
なにせ私たち板橋区民ですらも、多くはこの事実に気づかないのです。ほぼオーストラリア民であるはずの板橋区民が「シコクガニテルー」などとツイートし、自分たちをメタ認識できていない。これは由々しき問題でした。
そこで、この事実をゲームによって表現し、五感を使って、形の違いを楽しんでもらおう。そんな啓発ゲームを考案することになりました。
十分に厚みのある木材を使って、板橋、四国、オーストラリアそれぞれの形に切り出します。それらを目で見ないで手の感触で言い当てるゲームです。
ゲームは、各土地の名を連ね「イタシコラリア」と名付けられました。
これでゲームが完成した、そう思ったのですが。意気揚々と実施したテストプレイにて、大きな問題が浮上したのです。
簡単すぎてゲームにならない問題
本作のゲームルールは、手の感触で土地をあてようというものです。これを説明すると皆さんは決まって「えーそんなのわかるかなー?」「難しすぎない?」という反応を見せます。
私も正直、テストプレイを行うまではそのような予測があり、まあ、ちょっと難しくても仕方ないかな〜と思っていました。
しかし、テストプレイを通じ、実際にこの3つの土地をにぎってみると、それが誤認だったと分かります。四国は、西の先端がとがっていてバレバレなんです。
手ざわりで形が分かるとか、分からないとか、もう、そういうことではありませんでした。痛いです。
原因は、愛媛県の佐田岬半島(さだみさきはんとう)でした。
木製の土地を手でにぎりながら「さーて、わかるかなー?」という盛り上がりを期待していたのに、ふれて1秒で分かる土地が混ざっていては、ゲームの体を成すことができません。これがテストプレイで気づいた大問題。
なんとかしてゲームを軌道修正しなければなりません。
そのとき、大地は動いた
まずは、ほかにもオーストラリアに似た土地を探し出し、ゲームの選択肢を増やそうと試みました。たとえば、練馬区。
区が公式に作成したPR動画では、「練馬区はほとんどオーストラリアだ」と言っています。うーん、板橋区民からすると、話にならないレベルです。
必然、練馬区は不採用としました。
しかし、板橋区と同等にオーストラリア的な土地など果たして見つかるでしょうか。また、仮に、別のオーストラリア的な土地を見つけ出したとして、四国がバレバレである事実は変わりません。
これまでの考えを、大きく変えていく必要がありました。
バレバレの四国を隠すのではなく、別のものと合わせることで生かす。アウフヘーベンです。異なる2つのものを統合し、その先の真理へとたどり着く。ヘーゲルの弁証法です。
こうして、情報を探し求め、試行錯誤し、悩み抜いた先に、ソリューションが生まれました。
必要は発明の神であると言いますが、まさに必要を迫られた形で、新たな大陸を創造するという、大変貴重な体験をすることができました。
完成した画像で見せるとものすごく簡単な話に見えるんですが。
3つの土地をほぼ半分ずつに切って、ぴったり接続できる角度と位置を探すのはけっこう大変でした(イラレ上でいろんな切断面をさがして試行錯誤しているときの画面キャプチャを撮っておけば良かった…)。
ついに完成!イタシコラリア
発想の転換によって完成したイタシコラリア。
全9種類の土地を使って遊ぶことができます。まず初心者は基本の3つで遊び、そのあとで9種類に増やして遊ぶって感じですね。
ちなみに、土地の名前はそれぞれの裏面に書いてあります。ですので、写真で文字が読めるものは実際の形と左右逆転しています。
こうして完成した「イタシコラリア」は一時、板橋区仲宿商店街の一角で、ガチャガチャゲームとしてデビューしました。この辺は、当時のnoteにも少し書き残しています。
また、当時は、地元の板橋経済新聞にも取り上げていただきました。改めてありがとうございました。
(本当は「地域おこし」とか立派なことは全然考えてないですけど……)
四国の底力を見直した後日談
最後に余談です。
イタシコラリアを何度も遊んでいると、四国の佐田岬半島がいつの間にか折れてなくなってしまうことがよくあります。めっちゃ細いですからね。遊んだ後にしまうときとか、ポキっといくのです。
しかし、佐田岬半島を失った四国が、新たな表情を見せました。
「とがってないから四国は除外!」と答えをあせったプレイヤーたちを敗北の海に沈めていったのです。いつしかそれはシコク絶(ゼツ)と呼ばれるようになりました。
何度も遊ぶほど味わい深くなる「イタシコラリア」。現在は販売していません。ですが「いたばしの地域ボードゲーム会」では1セット所有しているので、お声がけいただけば遊ぶことも可能です。
ゲーム会の日程は、以下のマガジンにて随時更新しています。
長文を読んでいただき、まことにありがとうございました!