【ラン・総括編】IRONMAN World Championship NICEレースレポート
①【事前準備・スイム編】
②【バイク編】に続き、【ラン・総括編】になります。
ここまで読んでくださったみなさま、ありがとうございます。
バイク編を簡単に振り返ると、獲得標高2,240mという登りも降りも難易度の高いコースを、うまくパワーコントロールし、涼しくても序盤からしっかり頭に掛水、降りは試走とマップモードを駆使し、cerveloバイクの恩恵も受けて楽しく走り切れました。
T2でちょっと降車失敗してワタワタしながらも、意気揚々とランスタート。
Run 3:21:18(4’47/km)
エイジ15位/172人、総合59位/1,182人
ランの目標は4’30/kmで3時間10分。
しかし走り始めからだいぶ足が重い。
なるほど、あれだけパワーを温存したつもりでも、これだけ疲労感があるものか。
すごいなニース。
4’30を維持しようとすると後半つぶれそうな足の感覚だったため、30㎞になるまでは無理なく維持できるペースで走ろうと、感覚ベースで歩を進める。4'40くらいなら心地よく走れるペースだったので、これよりは遅くならないように意識して走る。
▶絶望から始まったラン
事前に応援の方たちに、「今の順位と、5位とのタイム差を教えてください。」とお願いしていました。
走り始めに聞こえてきた声は
「今22位。5位と35分差!」
「はーい!ありがとうございます!」
、、え?
35分???!?
いかにも爽やかそうに返事をしたものの、脳内は大困惑。
自分の中ではバイクをうまくまとめられたと思っていたのに、それでもこんなにも差を付けられているのか。
正直愕然とした。
いや、でもそれだけバイクをゴリゴリに踏んでいたなら、これから落ちてくる可能性は十分ある。
落ち着いてマイペースに進もう。
なんとかそうやって気持ちを前向きに持っていきながらも、冷静に考える。
昨年のIMWCコナでは、走り始めが22位。6㎞地点くらいで5位との差が15分で、最終的に7位となり、5位との差は5分で終わった。
この涼しいニースで35分差を挽回するのは、正直相当厳しいだろう。
そうか、これがヨーロッパか。
コナより全然レベル高いぞ、、。
▶大反省会フルマラソン
ここから3時間の大反省会が始まる。
自分のレース展開としては、スイムも結果的にはよかった。バイクもうまくコントロールできた。
それで35分差。
これは圧倒的な実力差だ。
いや、でもまだ分からない。
涼しくても、バイクで脚を使い切って落ちてくる選手もいるかもしれない。
とりあえず1周このままペースを維持して頑張ろう。
脚が攣りそうな気配もあり、走り始めにプレシジョン1000の粉を直飲み。
(結果的に10㎞ごとに1袋、合計3袋摂った。)
2周目に入るころ、応援の方々が声をかけてくれる。
「今22位!5位と32分差!」
ま、まじですか。
全然縮まらない。
あれだけバイク踏んでても、上位勢は走れている。
バイク中に登りながら言い聞かせていた言葉。
「大丈夫。この人たち絶対ラン走れないから。」
そんなこと、とんでもなかった。
全然走れてる。強すぎる。
ここからさらなる大反省会が繰り広げられる。
わたしはこの1年間何ができたのだろうか。
どのくらい成長できたのだろうか。
たしかにこの1年、怪我に苦しんだ。
でももっとできたことがあったのではないか?
やろうと思っていたのにやらなかった練習がいくつあった?
早起きできなくてやらなかった練習がいくつあった?
怪我と真剣に向き合った?
根本を解決しようとせずになんとなくごまかしてこなかったか?
「世界選手権の表彰台を目指す」
そのためにふさわしい練習を積んでこれたのか?
週に15時間の練習を目安にすると言いながら、結局何時間練習できていたのか?
「目標をクリアできたらプロになります」
は?何言ってんの?
笑っちゃうよ。
全然身の丈に合ってないじゃん。
調子乗るなよ。足元見ろよ。
こんなに弱いのに何言ってんだか。
ふざけるな。
泣けてくる。
恥ずかしい。
自分が情けない。
気持ちの沈みに比例するように足もどんどん重くなる。
目標はどんどん遠ざかる。
わたしはいったい何のために走っているのだろうか。
どこに向かって走っているのだろうか。
脚が重い。つらい。
歩いたらどんなに楽だろう。
いっそもう、やめてしまえば...
いや、だめだ。
やめたくない。
レース前日にInstagramに書いたことを思い出す。
「どんな展開になっても、絶対に最後まで諦めない。」
そうだ。わたしは諦めない。諦めたくない。
立てた3つの目標はどれも現実的ではない。
もはや何に対して「諦めない」なのか分からない。
それでもやっぱり諦めたくない。
最後まで力を振り絞って走る。
できることをやる!
いつも応援してくださっている方々や、
一緒に練習してくださっている方々、
サポートいただいている方々に、
何かひとつでも、胸を張って報告できるように。
そんな思いで必死に足を動かす。
▶声を掛けたのはまずかった?
3周目に入るころ、今回プロカテゴリーで出場されているオリンピアン上田藍さんの背中が近づいてくる。
少し序盤のレース展開に話を戻すと、ラン走り始めて3㎞くらいのとき、折り返して反対側に藍さんを見かけていました。
プロカテは、30-34カテゴリよりも22分先にスタートしているので、スイムとバイクの差を考えればおそらく1周半差くらいなのだろう。
いつもなら知っている選手がいれば声をかけて応援しながら走るのですが、藍さんの走りがいつもと全然違っていてペースも異様に遅く、気軽に声をかけられる雰囲気ではない。大丈夫かな。
最初は5㎞くらい?だいぶ差があったはずの藍さんの背中が、2周目の終わりごろにだんだん近づいてくる。
どうしよう、このままでは追い付いてしまう。
相変わらず声をかけられる雰囲気ではないが、無言で抜かすのもさすがにちょっと違うかな、、、
どうしよう。。。
迷いながらも、声をかけることにした。
肩をトントン、「藍さん、頑張りましょ!」
笑顔で応えてくれて、少しほっとする。
そして折り返して3周目に入ってすぐ、さっき藍さんを抜いてから500mも走らないくらい?
すぐに藍さんに無言で抜かし返された。
あ、あれ? そうゆう感じ??
まさか無言ですぐに抜かれるとは思っていなくて拍子抜けしながらも
声かけたの良くなかったかな、、
肩トントンが悪かったかな、、、
嫌な気持ちにさせてしまったのかな、、、
わたしも無言で抜いたほうが良かったのかな、、、
自分の抜かし方を少し後悔しながらも、藍さんが息を吹き返したようにペースを上げて走り去っていく背中を見て、少し安心しながら見送る。
わたしの対応は好ましくなかったのかもしれませんが、何かのスイッチは押せたのかもしれません。笑
▶応援に応えるのもギリギリ
3周目からは、すれ違う選手も増えてくる。
日本人選手とすれ違うたびに声をかけるが、わたしはいつものような余裕は全くなく、応えるのにも精一杯。
沿道の応援にもギリギリで応える。
苦しい。
歯を食いしばって、上半身を使って、必死に走る。
途中、外国人選手から
「ヒラメサーン!ガンバッテクダサイー!!!」と超笑顔で手を振られる。
こちら全く余裕なく、必死に「はい!」とだけ答える。
誰だろう。分からない。。。
ランの時間はすっかり暑い。
水をしっかりかけてもらう。
エイドにある氷はクラッシュアイスで、それを雪玉みたいに丸めて固めた状態で渡される。
使いにくい。
水を入れるように準備していた洗濯ネットの存在をすっかり忘れていた。使えばよかった。
4周回のコースだが、周回を数えるリストバンドのようなものは無いので、誰が自分より速い選手なのかまったく分からない。
途中、日本人の別の応援の方が「今22位!前5分に5人いる!抜かせるよ!」と声をかけてくれた。
この声かけがどれだけありがたかったか。
5位以内が無理でもせめて10位以内。
途中からそう思っていたけれど、それも絶望的になった4周目。
何に対してだか分からないけど、「諦めない。」そう決めたんだ。
1分でも早く、1人でも抜いて、自分の出せる力を振り絞ってゴールするんだ。
その一心で必死に体を動かす。足が重い。
ランスタート時点で圧倒的な実力差を突き付けられ、絶望から始まったフルマラソン。
気持ちが折れそうになりながらも、トラッカーを追ってくれている人を思い浮かべて、
応援してくれている人、一緒に練習してくれた人、いつも支えてくれている人、
みんなのことを思い浮かべて、なんとか自分を奮い立たせ、崩れずに堪えてゴールまでやってきた。
何もできなかった。
届かなかった。
全然足りなかった。
情けない。
申し訳ない。
でも、なんとか、ここまで走ってきた。
どんな顔をしたらいいか分からなかった。
▶ゴール後
「不甲斐なさ」
その一心で、ゴール後は涙が止まらなかった。
決して「悔しさ」ではない。
目標に対して悔しいといえるレベルにも達していない。
今の自分のベストは出した。
精一杯戦った。
諦めなかった。
最後まで力を振り絞った。
それでも全然届かなかった。
圧倒的な実力不足、練習不足を痛感した。
世界選手権の表彰台を目指してきた。
そこに向けて応援してくれた人、一緒に練習してくれた人、サポートしてくれた人、、、
「あなたのおかげで」と報告したい人がたくさんいる。
その方々に良い報告ができない不甲斐なさで、涙が止まらなかった。
▶︎ファンの方に声かけられて
ゴール後、ごはんなどを食べられるフィニッシュエリアでひとり泣きながら座っていると、レース中に声をかけてくれた選手が近くに来てくれました。
「 I’m your big fan ! 」
中国の選手で、いつもわたしのInstagramを見てくださっている方でした。
つたない英語で少し会話をする。
「レースどうだった?」
「表彰台を目指してきたんだけど、だめだったんだ。」
話しながらまた泣いてしまう。
「 Don’t cry ! Don’t cry ! Congratulations !」
いつも見てるよ
勇気もらってるよ
完走することが素晴らしいことだよ
おめでとう
初めましての海外選手にこんなにも励ましていただけるなんて。
おかげで気持ちも整理でき、ゴールに辿り着いた自分を認めてあげられる精神状態にやっとなりました。
ありがとうございます。
冷静にニースの走りを振り返ると
IRONMANという競技は、気候条件によってタイムも大きく変わるので、同じ大会でも過去のタイムとの比較はナンセンスではありますが、あくまでも参考程度に昨年度のIMWCニースに出場した日本人上位男子選手のリザルトと自分のタイムを比較してみます。
日本人一位の男子選手でも、ラストのランは3時間23分59秒。
ランが一番速かった選手でも3時間20分47秒でした。(この方はバイクが6時間20分)
昨年は今年よりも少し暑さが厳しかったようですが、それでもこのタイムを見ると、やはり今回の自分はバイクをうまくコントロールでき、ランのパフォーマンスはしっかり出せた方なのではないかなと思っています。
走っている最中は心が折れそうになりながらも、応援の方々、支えていただいている方々のおかげで最後まで力を振り絞り、走ることができました。
最後までしっかり走り切ったことで、これまでの練習の成果やレース戦略を振り返って評価することができ、自分に足りなかった部分も実感することができました。
改めて、最後まで諦めずに走り切ることの大切さ、そしてそこから得られるものの価値というものを実感しているところです。
総括
今年はニース開催の世界選手権ということで、出場自体どうするか迷っていましたが、結果出て本当に良かったと思います。
新たな挑戦、新たな環境は、
視野を広げ、成長させてくれる。
エイジグループだと、KONAよりもNICEの方がレベルが高いように思います。
ヨーロッパ在住の友達とレース後に話していて、ヨーロッパからKONAは行きにくいがNICEなら行くという選手が多いと聞きました。
KONAだとバイクはある程度空力が求められるコースなので、パワーだけでなくポジションのエアロさも必要だし、暑さがあるのでその対策も必要。
ただ速いだけでは勝てないため、体格やパワーの差がある選手でも勝ち目がある。
一方NICEのコースでは実力差がそのまま顕著に表れる。
圧倒的なパワーとスピードを身につけないと、戦えない。
日本人が世界と戦って勝つ舞台としては、NICEよりはKONAの方が適しているというか、可能性が高いように思います。
でも、今回の反省を活かして対策を積んで、パワーを強化して、もう一度NICEに挑戦したら何分縮められるか。それを試したい気持ちもあります。
NICEは本当に美しい場所で、コースも過酷だけどすごく楽しかった。
また行きたいし、挑戦したい。そんな場所になりました。
対策するなら、、、
富士ヒル2本登ったあとに道志みちを走るというのを3回くらいやったら良かったかもしれない。
FTPの9割を超えずにパワーを抑えて登り、1本目と2本目のタイムを揃えて、その後にしっかり細かいアップダウンを走る。それから20㎞のペースランニングとか?相当効くと思います。
この舞台に立つまでに
わたしは2018年の8月、木更津トライアスロンでトライアスロンデビューしました。
当時、トライアスロン仲間はおろか、マラソン仲間も周りに全くいない中、「いつかトライアスロンやりたい!」「いつかIRONMANになりたい!」そう思っていました。
そんな中、たまたま飲み会で出会い「わたしトライアスロンやってるよ!こんど飲み会あるからおいでよ!」と誘って下さった青柳さん(銀座にあるプライベートマッサージサロンmanacore代表)に、トライアスロンショップtettoのてっとさんを紹介いただきました。
当時、自転車も水着も何も持っていない、完全なる初心者であるわたしに、必要なもの、自転車の乗り方、大会への準備の仕方など、ゼロから導いてくださったのがてっとさんでした。
周りの方々に恵まれて、楽しくトライアスロンをやっているうちに世界を目指し始め、いつの間にか「世界選手権の表彰台」という、当時一ミリも考えていなかった場所を目指そうとしています。
この目標に向けて、本当に多くのサポートをいただきました。
ニースに間に合うように新しいバイクであるcerveloをサポートいただいた、東商会の寺井社長。
ご多忙の中迅速なスケジュールでcerveloの組み立て・納車から、バイクメカニックや遠征準備、機材の相談などに乗っていただいたハイリッジ高嶺さん。
ご近所仲間でいつも一緒に練習してくれたり、たくさんのアドバイスをくださる日本人エイジ最速の菊池さん、プロ選手の寺澤さん、師匠であるグリーンマンさん。
渡良瀬練習会に参加させていただき、いつも忖度もオブラートもなく率直で厳しい(優しい?)ご意見をぶつけてくださるサブ9パパ星さん。
オンライン指導でバイクメニューを組んでくださっているスパークル大分の住吉コーチ。(怪我でうまく練習できず、困らせてしまってごめんなさい。)
NICEに向けての山岳コース練習に連れて行ってくださった、SCICONサングラスなどをサポートいただいているMany’s青沼さん。
道志みちライドに付き合ってくださったロードバイク仲間の岡山さん。
今年は怪我で高強度練習ができなくて全然参加できなかったけど、いつもランのポイント練習をご一緒させていただいているヤジマ練のみなさん。
夏のロング走に付き合ってくださったあさみさん。
職場が変わってまだちゃんと通えるスクールが無くて困っているけれど、スイムを成長させてくださっているアスロニア朝スイム(新宿・武蔵小杉)のみなさん。
いつも活動をサポートいただいている企業のみなさま。
tetto(https://tetto7.jimdofree.com/)
GARMIN(https://www.garmin.co.jp/)
Cervelo(https://azuma-1911.jp/cervelo/)
WINSPACE(https://winspace.jp/)
Many's(https://manys.work/)
MAURTEN(https://maurten.jp/)
SAURUS(https://saurusjapan.com/)
Reboot Style(https://www.reboot-style.com/)
ACTIVIKE(https://activike.com/activike_protein/)
Aoiro(https://aoiro.co/)
Mueller(https://www.muellerjapan.com/)
AthleteX(https://www.athletex.jp/)
Millet(https://www.millet.jp/)
CORE(https://corebodytemp.jp/)
Sidas(https://shop.sidas.co.jp/fitting-lab/)
Championsystem(https://champ-sys.jp/)
そして、いつもInstagramなどで活動を応援してくださっているみなさま。
本当に多くの方々に支えられて、今の自分がいます。
今回は目標には届きませんでした。
「あなたのおかげで」と、良い結果を報告できなくて、ごめんなさい。
しかし、失敗を恐れず目標に向かって挑戦し続けられるこの環境は、紛れもなく周りにいるみなさんのサポートのおかげです。
怪我無く、事故なく、ゴールまでたどり着くことができ、またこうして次に向けて前向きな気持ちでいられるのは、本当にみなさんのおかげです。ありがとうございます。
結果を出すこと、それを目指して日々努力していますが、わたしにできることはそれだけではありません。
自分なりの形を模索しながら、みなさんに恩返ししていきたいです。
・・・
最後になりますが、レース前のピリピリしているときも、レース後に落ち込んでいるときも、どんなときも一番近くで支えてくれている旦那氏。毎晩のように泣いててごめんなさい。いつも支えてくれて、本当に本当にありがとう。
今後の目標
今後の目標としては、やはり「KONAでの表彰台」です。
NICEの30-34の1位~5位は、エイジ総合の1位~6位に入っていました。
つまり、このカテゴリで勝つには、エイジグループの総合入賞を狙う気持ちで準備し、挑まなければなりません。
レース中の大反省会を受け停め、帰りの飛行機ですぐにこの1年間のトレーニング時間を計算しました。
2024.1〜9/8 36週間での合計トレーニング時間は23569分。
1週間平均だと10時間54分。
これのほとんどが低強度でした。
そりゃ全然足りないですよ。
4月から異動した新しい職場環境にも慣れてきたので、どう練習時間を確保するかよく考えて、地に足付けてコツコツ積み重ねていこうと思います。
また、怪我についても原因追及から改めて取り組んでいきます。
2025年のKONA表彰台を目指して。
まずはチャレンジャーとしてスロットを得るところから。頑張ります!
今後ともぜひ応援いただけますと嬉しいです。
※ちなみにプロ登録については、
ただ単に目の前に現れた次のステップでしかありません。
またそのステップが近づくのか、遠ざかるのか、先のことはわかりませんが、自分のワクワクする気持ちに素直になって、挑戦を続けていきたいと思います。
大変長くなりましたが、最後まで読んでくださりありがとうございます。
何か少しでも役立つ情報があれば幸いです。
それでは。